501話 捕虜たち
トートの町の広場では生き残っている者達が移動している。
降伏の人数が多く、広場だけでは収まらなかった。そこで女子供を町の外へ出すことにしたのだ。兵ではなく民であれば男も外へ出す指示をしているのは、マルスである。
レインは何をしているかというと、何もしていなかった。ウルと遊んでいる。
「ダハァ、ウルー、顔は止めてべとべとになっちゃうよー。」
ペロペロ
夜通し選別が行われ、町の外へと連れていかれた者達には温かい食事と避難用テントが設置されていた。これは飛行艦で用意してきた物である。
「お俺たち捕虜だよな。」
「ああ捕虜だ。」
「でもこんな飯、今迄食ったことないほど美味いぞー。」
「・・・・」
「ホントに美味いなーー。」
「うまうまっ。」
この場にいる者達に白い柔らかいパンとコーンポタージュスープと朝からがっつりカレーライスである。
全く辛くないカレーライスは子供に大人気であった。普段では食べる事も見る事もない白いパンや食欲をそそるカレーの匂いで、町の民たちは大混雑していた。
「並んでー、みんなの分はあるからねーーー。子供はこっちだよーー、子供はお代わり自由だー。」
「「「「「わーーーーー」」」」」
一方町の中にいる兵士たちは食事なしであった。
こんな朝の騒動が終わるころ、トートの館では王や高位の貴族達が水を飲んでいた。
「何だこれはパンは無いのかスープは肉は。」
「へ陛下、下働きの者達が皆降伏してしまい、食事を作る者達がおりません。」
王の側近が理由を伝えるが、本当の理由では無かった。食料が無かったのである。
「その者達は処刑だな。」
「はっ、そのようにいたします。」
王都貴族達は皆無言で水を飲み暗い表情をしている。
「で、どうするのだ。」
王の言葉に皆?マークが頭の上に浮かんである。
「陛下、降伏しか助かる道はございません。」
「余は降伏は好かん。」
「でですが、この場にいればいずれ餓死します。」
その時王の腹の虫が(ぐーーーーっ)となった。
「・・・・・降伏する、だが食事を交渉してからだ、食事をしなければ降伏しない。」
この何とも自分勝手でご都合主義の王は己の立場が全く分かっていなかった。
「よし、お前交渉してこい。」
王に指名されたのはこの中でも下位に位置する一人の伯爵であった。この伯爵喜んで交渉を引き受けていた。
王以外には分かっているのだ。この伯爵は一人で降伏してしまう事が分かっているのだ。
皆が羨ましそうに見ているが伯爵は王に食事調達を約束して外へと向かっていった。
「こ降伏するーー。」
早速降伏する伯爵であるが、王の食事の事は一切喋るような事はしていなかった。
館内
「うーーーーーっ、まだかーー、腹が減ったぞ。」
「「「「・・・・・」」」」
もう昼になっていた、その間もトートの町では捕虜の移動や町の修繕が行われていた。
まるでトートの館に人がいる事等忘れているようであった。
「トム、頼みがある。」
「何ですかレイン様。」
「王都まで飛んでビラまき。」
トムは又かという顔をしている。トムの業務一つになっている、ビラまきは今やシーマ王国の民の娯楽となっていた。
字の読めない民たちは読める者から内容を聞いて皆騒いでいる。
それは面白おかしく書かれているビラのせいであった。
内容は様々である。今回の戦いの内容、国外の情勢など、民たちの知りたい情報が満載のビラなのである。
シーマ王国の王城内でもこのビラを元に話が進められているほどであった。
敵の情報を信用するのかと城内でも激論が繰り広げられていたが、じゃ誰か正確な情報を持ってこいという話になり誰も情報がないためにビラを元に話すしか方法がなかったのである。
シーマ王国城内
「宰相閣下、どうするのです。」
「どうするとは?」
「陛下の救出部隊です。」
「・・・・無理だな。兵がいない。」
「み見殺しですか。」
「いや、ここは領地持ち貴族に武勲をたててもらう。」
宰相以外の者達は皆渋い顔になっていく。
それはそうだろう。5万もの大軍で攻めた者達が一晩で壊滅し、捕虜となっているのだ。1000や、2000で行ったとして捕まるだけである。
「宰相閣下、無理なのは分かっているのでしょう。ここはシーマに新たな王を選出し講和を結ぶのが上策で敗でしょうか。」
「おおおおおーーー、流石侯爵だー、よき案ですな。」
宰相は誰かが別の王をたてるとの言葉を引き出すために毎日会議をしていたのだ。自らは何も言わず身の安全を最優先にしている宰相はある意味、生きるために何でもやる怪物であった。
それからのシーマ王国は誰を次の王にするのかで話が持ちきりとなり、トートの事等無かったようになっていた。
レインたちはシーマ王国から使者などが来ることを前提に待っていた。
「シーマ王国って大丈夫かー、普通王の救出作戦とか、返還要求とか、奪還作戦とか動きがあるだろう。」
マルクは答えに困っていた。マルクはなんとなく想像できたのだ。
「レイン殿、多分ですかシーマはトートを見捨てたのでしょう。」
「えっ、5万人だよ、それにこの近隣の領地もあるでしょう。」
「多くの貴族達はこことは離れた領地を持っています。今回この領地周辺の領主は皆捕虜となっています。」
レインは完全にシーマ王国を読み違えていた。大国であるためにオリオン王国などの他の大国と同じような感覚でいたのだ。王国一丸となって抵抗してくると思っていたのだ。
何にも言ってこない事にレインは不思議で仕方なかったのだ。
「マジか。」
「レイン様の所のような国はほぼありません。」
ガーーーーーン。
レインは生まれてこの方これ以上の衝撃を受けたことがなかった。(嘘である)
薄々は分かっていた、オリオンとは違うのという事を分かっていた。
「じゃぁ、これからどうしようか。シーマ王国の王都を制圧するか」
「レイン様、そのままほっときましょう。この周辺の領地を捕虜から譲渡させましょう。それでとりあえずは納めましょう。」
「そうだな、シーマ王国全土では広すぎるからな。この周辺で3,4領を没収して開発に精を出すか。」
「それがいいでしょう、それに労働力は確保していますからね。」
マルクが見る方向には屈強な体をしている男たちがいる。捕虜たちである。見た目だけは屈強なこの者達は農地開発や道路整備にはもってこいの人材なのかもしれない。
「そうだな兵士としては使えないが労働力なら使えるか。」
シーマ王国の王はまだ降伏していない。あと数日で前王になる事はまだ知らない。




