499話 シーマ王怒る
シーマ王国は大混乱となっていた。
史上最強、無敵軍などと日ごろ豪語していたシーマ王国軍が完敗したのだ。
次は王都だと噂まで流れ大混乱となっていた。
王城
「宰相どうするのだ。」
シーマ王は怒り狂っていた。
自分の知らないうちに事が運び、失敗して初めて報告が来たのである。怒らない方がおかしいのだ。
「・・・・・申し訳ございません。」
「謝って済むならば、宰相など要らんな。」
「・・・・・・」
「お前たちはどうなのだ。」
王は他の重鎮たちにまで怒りをぶつける。
他の重鎮たちは黙ったまま誰も言葉を発する者はいない。
小1時間も怒り狂った王はやっと落ち着いてきた。喋り疲れたのである。
「へ陛下、どうかエステリアへ使者を出してください。和睦の使者です。」
「お前は馬鹿か、何故大国であるシーマ王国がたかが領主に遜らねばならんのだ。」
「でですが、王国軍2万が敗れました。もう王都には1万の兵士かおりません。」
「ならば貴族軍を招集せよ、領地持ち貴族を城に集めよ。」
王は宣言をすると部屋を出て行ってしまった。
残された重鎮たちは皆、微笑んでいる。
「これで貴族達に出兵させられますな。」
「いやー、長かったーー。」
「宰相閣下、あとの陛下のフォローはお任せいたします。」
「軍務大臣、それはないだろう、皆で陛下へのフォローはするものだ。」
「アハハハ、そうですな。」
このシーマ王国は重鎮たちにいいように操られている。シーマ王は政治に興味がなく家臣に任せっきりなのである。能力が無い訳ではないのだが、やる気がないのであった。
だが国が窮地の時は、王が出てきて政策や作戦を家臣に指示を出すのであった。
数日後
領地持ち貴族が集められ王の御前に神妙な面持ちで項垂れている。
「面を上げよ。」
サッと全員が面を上げる。
「皆の者ももう分かっていると思うがエステリアとの戦だ。兵を集めよ。」
この単純明快な言葉が王の長所であり短所でもあった。人の心を全く考えないのである。
「陛下、最大戦力でよろしいですか。」
王に宰相が尋ねる。
「そうだな男爵位は通常300から400程度であったな。」
「さようでございます。」
「今回はエステリア領とトリスタン領まであるしな、そうだな男爵で300、子爵で1000、伯爵で3000、それ以上の爵位の者は5000としよう。」
貴族達は顔色が真っ青になっていた。実際にそんな戦力を用意する事は出来ないからである。男爵の300はまぁ何とかなる。だが子爵以上の1000など完全に無理であった。伯爵の5000など夢以外ではありえない事である。
「陛下、いささかご無理がございます。各貴族には最大戦力でご出陣をお願いしては如何でしょうか。」
「そうだな、すぐに用意できる兵で行くしかないな。各自最大戦力で集まれ、トート領を集合場所とする。集合は1か月後とする。遅れた者は領地没収となる事を頭に叩き込んでおけ。」
「「「「「ハハーーーーー。」」」」」
一方的な王の沙汰に貴族達は逆らう事は出来ない、だが不満は募っている。
シーマ王国の重鎮たちは各貴族から色々と相談をされて忙しい毎日を送っていた。王が兵の出陣を宣言してから重鎮の元へ貢物が多く寄せられていたのである。
貴族達は少しで負担を減らそうと口利きを願い出ているのである。
「今回の戦は大戦です。当主が出陣しなければなりません。」
「宰相閣下、ご当主は病弱で出陣は無理です、ご嫡男もまだ若く戦には耐えれません、どうか代理で済ませていただきたい。」
「では兵は子爵位ですので1000以上は出してもらいますよ。」
「・・・・宰相閣下、ここれをお納めください。何卒、なにとぞーーー、我が子爵家に御目こぼしをお願いいたします。兵は500しか集まりません。如何か如何か御目こぼしをーーーー。」
「仕方ないですな、ならば貴殿の所はに後方に配属しましょう。」
「おおーーーー、ご配慮感謝いたします。」
この様なやり取りが城内では一日に何度も起こっていた。特に忙しかったのは宰相と軍務大臣、軍務次官、将軍職にある者達であった。
この者達はこの時期だけで伯爵位が買えるほどの金銀を受け取っていた。
一方、情勢の分かる貴族の少数集団もいたのだ。
「どうする、このままならば負けるぞ。」
「そうだな、俺の調べでも勝つことは出来ないだろう。」
「エステリアに降るか。」
「・・・・・」
「トリスタンに降るよりはいいだろう。」
「同じだろうが。」
「いいや違う、エステリアはシーマ王国の貴族だった。今は独立という道に進んだが元はシーマ貴族だ。」
「・・・・んーーー、それしか生き残る道はないか。」
シーマ王国は混乱していた。兵を募集する貴族達、貴族達は本気でエステリア領を攻める気が無いのである。一男爵領をシーマ王国貴族すべてが攻め込めば一瞬で終わると見ているのだ。そこに戦功のうまみはない。何しろエステリアの首が一つしかないからである。100にものぼる貴族達がいるのだ。そんなことに本気になれるわけがないのが本音であった。その為に数だけを集めるようにしたものが多い。冒険者などを一時的に家臣として雇い従軍させる。
そして一月後、トート領に5万もの大軍が集結していた。
シーマ王も出陣している。トート領を直轄地にしたのだ。ソーマ王はこのトートで戦況報告を受ける構えである。戦場にはいかないが貴族達を激励するためにトート迄来ていたのである。
シーマ王国の宰相は王都にとどまっているが軍の首脳はすべてこのトートにきていた。
「少し少ないのではないか。」
「陛下、時間が無かったために貴族達は兵を集めきれなかったようです。ですがその償いとして軍費を持参してきております。」
「ならば仕方ないな。軍費は節約せよ。」
「はっ、陛下にお届けいたします。」
シーマ軍の編成時に貴族達は大いに揉めていた。
殆んどの者達が後方待機を望んでいたからである。
「誰か先陣を受ける者はいないのか、騎士の誉だぞ。」
「・・・・・・」
「我らは戦は素人だ、軍の精鋭が先陣を切るべきだろう。」
「そうだそうだ・・・」
「軍は陛下をお守りしなければならんのだ。兵を割くことは出来ぬ。」
「・・・・ならば、」
すったもんだして決まった陣営が、シーマ王国で貴族当主の来ていない者達が先鋒と決まった。
これには貴族当主たちは大賛成であった。自分たちが戦わなくて済むからである。
貴族当主の代理で来ている者達は何も言えなかった。相手は当主である為に意見が言えないのである。
先鋒右翼6000、左翼6000の後に本体2万と後衛1万の陣容である。残りの8000はシーマ王の護衛としてトート領の守りであった。