494話 魔物たち
トリスタン自治領の国堺ではシーマ王国兵とウルをリーダーとした魔物軍団が戦闘している。
シーマ軍
「くそっ、何だこの魔物たちは連携しているぞ。」
「閣下、ここはもう持ちません、一旦引きましょう。」
「くそっ、町まで引くぞー。」
シーマ軍はトリスタン自治領に兵5000で侵入しようとした。ところが国堺で警備中のウルフに見つかり、魔物たちが集まって戦闘に発展してのだ。
トリスタンの魔物軍団はかなり優秀である。偵察はウルフ系が行い。戦闘もこなす。空からは鳥系の魔物が自治領全体を監視している。以前トムがティムした大鷲系の鳥なども今はウルの傘下に入っている。
戦闘専門としてもビックベアー、オーク、ゴブリンなどまでウルの傘下に入っていた。
トリスタン自治領の国堺ではウルの魔物村が出来上がっていた。もちろん村長はウルである。ただし村長としての書類などの仕事が出来ないために村長代理が常駐している。魔物たちの食事の手配などを行っているのである。そこにはトムの存在が大きかった。トムはシーマ側とシーラ側にある魔物の村を大鷲で飛び回っていた。伝言や指示を伝えるためである。
トムは自らを村長としている村もあるが、ウルとルウの魔物村の伝令役も務めていた。
シルバーウルフのウルのような4本足の魔物は警備と連絡を専門としているがゴブリンやオークなど手先の器用な者達は村の仕事をしている。自分たちの食べる作物を作っているのである。
「トムどのーー。」
「あっ村長代理さん。レイン様からシーマ兵の鎧などは好きにしてよいとの伝言です。」
「おーーっそれはありがたい、溶かしてこれで鍬を作れる。」
「あっこれオーク用の鍬ですか、人の倍の大きさですね。」
「さようです、人用ですと一撃で壊れてしまいます。」
「ですよねーー。」
「トム殿、シーマとシーラの動きは何かつかめましたか。」
「レイン様の言うには多方面から1000人単位でトリスタンに侵入してくるだろうと言っていましたね。」
「それはかなり拙いですな。街道を通らずに森や川を使い来られたら対応できないではありあませんか。」
「大丈夫ですよ、そのためのウルとルウですから。それに空からは大鷲部隊が見張っていますから、侵入者はすぐにわかります。」
トムは伝言を済ませるとゴブリンたちのたまり場へ行く。ぎゃぁぎゃぁと何かを喋っている、そこにトムの姿を見つけたゴブリンが駆けだす。すると他のゴブリンたちもトムに向かって駆けだしていた。
「待て待て待てまてーーー、並べ並んでーー、」
ぎゃぁぎゃぁと騒いでいたゴブリンたちは一斉に黙って一列に並んでいく。トムはこの村に来るたびに各種魔物の好物を持ってくるのである。各魔物たちは村できちんとした食事をとっているが好物はいつもでも食べれる物ではないのだ。
トムは一人一人にゴブリンマークのクッキーを2枚渡していく。ゴブリン専用につくられたこのクッキーはゴブリンたちの人気ナンバー1である。魔力の籠った甘さ控えめクッキーはゴブリンたちを虜にしていた。
他の魔物にもクッキーやベア系には蜂蜜を配っているのである。ビックベアーや四つ腕ベアは大きな体できちんと並び小さな瓶に指を突っ込みひたすら舐めている姿は獰猛な魔物の姿を想像がきない。
「じゃぁお前たちまたなーーー。」
魔物たちはトムのお見送りをしていた。トムは大好物を持って来てくれる人なのだ。
トリスタン領主館
「ただいま戻りましたー。」
「トム、お帰りー、ウルたちはいたー?」
「いいえ、ウルはいませんでした。警戒に出ていたようです。」
「最近ウルもルウにも会っていないなー。」
少し寂しそうに独り言を言うレインであった。
レインは自治領主となり忙しい毎日を送っている為にウルやルウなど今迄一緒にいた仲間が別々に行動するようになっていたのである。
「トムの村はどう?」
「はい多分順調です。正直あまりよく分かってないです。」
「アハハ、それは仕方ないよ、おいおい運営も慣れていくよ。」
「ですかね。」
レインは久しぶりにトムと話し、疲れが取れたような気持になっていた。
このところのレインはかなりハードであった。難民の受け入れと開拓、そしてシーマ、シーラの対応である。幾ら自治領と言っても領主に毛の生えたた程度の人材しかいなかったのだ。祖父であるハロルドが来なければ自治領は破綻していただろう。
ハロルドは今もトリスタンで指揮をとっている。超大国の王であった事等忘れたように難民と一緒に働いているのである。
ある難民
もう少しでトリスタンに着く。あと少しだ。
俺はシーマ王国から逃げてきたいわゆる難民だ。村人49人で抜け出してきた。もう食料も何もない。
危険な森を抜けたときに大きな大鷲が空を飛んでいるのが分かった。まずい「子供を守れーー。」
49人の集団は子供を守り為に円陣を組んでじっと耐えるしかないのだ。武器もなく、何も持っていない俺たちには魔物に対抗するすべを持っていない。
大鷲は大空を旋回しながら俺たちの前に降り立った。
人が乗っている。
「大丈夫ですか。」
「えっ、あのー俺たちはシーマ王国から逃げてきました。」
「シーマから逃げてきたのですか、シーマのどこから逃げてきましたか。」
何だこの男は俺たちを疑っているのか、やっぱりトリスタンでも同じか。俺たちのような小作人は扱いは同じなのか。
俺は税が払えずに逃げてきた。最後の望みであったトリスタンにきたが、シーマに送り返される可能性がある。もし送り返されれば奴隷として死ぬまで働かせるだろう。何とか子供たちだけでも助けなければ。
「あっ、心配しないでください。難民は保護しますから、ですが難民に見せかけてシーマなどの諜報員が最近多くなっていますのでその確認です。」
そんなやり取りをして俺たちは保護村へと連れてこられた。そこは信じられない光景が広がっていた。
ゴブリンが畑仕事をしているのだ。
俺たちも女子供たちもびっくりだ。ゴブリンが畑仕事??オークが畑を耕している?信じられない光景にかたまっていると、その男はトリスタンでは当たり前ですと言ってきたのだ。
俺たちは数日間その村で過ごした、そして新たに開拓される村へと移っていく。
その開拓村では自分の畑が持てるという。税は3年間免除、4年目からは2割を税として納めると言われた。シーマでは考えられない事だ。シーマの税は6割である。農家が残りの3割そして小作人が貰えるのは1割である。一人がやっと1地年間食べられるぐらいである。2,3人家族では半年も持たない量しかないのだ。子供を売り、内職で稼ぎやっと暮らしていける。それが1割から0.5割になったのだ。働いてももう生活自体が出来なかった。俺たちは村を逃げ出したのだ。
「あっあのー、ここは開拓村ですよね。」
「そうですよ新しく開拓した村です。」
俺は目の前の光景が信じられなかった。開拓村、開拓した村?俺の目の前には立派な家と畑があった。作物はまだだがすぐに畑として使える状態だとわかった。
「し信じられない。もう畑が出来ているんですか。」
「そりゃそうですよ、開拓は木人と魔物たちが行っています。魔物たちにもきちんと賃金を払っていますから。」
エッ魔物に賃金を払っている。この男は馬鹿なのか。魔物に金を払ってどうするんだ。だが俺は思い出した、ゴブリンがクッキーを買っている所を目撃したのだ。嬉しそうに銅貨を店の者に渡しクッキーを貰っていた光景を思い出した。
俺たちは頑丈でキレイな家に入った。そして畑仕事をしてこれからこの魔物たちが作ってくれた開拓村で暮らしていくのだ。
「がんばるぞーーーー。」
俺たちはゴブちゃんばんざーーーい。ばんざーーーいと叫んでいた。
後で聞いた話だが開拓村の人たちは皆、魔物に感謝をしていると聞いた。大変な開拓をしてくれたのだ魔物に感謝をしなくて誰にするのだと俺は思った。
勇気を出して逃げてきてよかった。




