492話 クーヤ王国決着
その戦いは、ただの狩りであった。
狼が羊を追い詰めるようなものであった。
15000もの集団は各陣営に分かれ当主を守りながらの陣営となっている。大きな集団で1000、小さな集団で100以下と15000の兵を完全に無力化していた。
「ハーー、15000の兵が一団となって一点を付けばまだ生き残る可能性もあったのにバラバラに動いているな。」
「宰相閣下、仕方のない事です敵は貴族当主を守るための兵です。」
「よく戦争をやる気になったものだな。」
「元は20万の兵ですから、それに各地には貴族達の民もいます。集めようと思えばまだまだ集まったでしょう。」
レスリン軍は5万の兵がいたが、敵と戦闘している兵は2万であった。これは戦闘に慣れていない者達を除外したからである。
残りの3万はただ逃げれない様に街道封鎖をしているのである。
「なぁ俺達戦争に来たんだよな。」
「当たり前だろう。」
「じゃ何で街道警備をしてるんだ。」
「・・・そんなこと知るか。お偉いさんの考えなんかわかるかよ。」
「だよなー。でも死ぬ事は無いな。」
「そうだ死なないな、それに飯もうまいしな。」
「そうなんだよ、ここに来て飯が豪華になったよな。それも3食も食べれるしな。」
新たにレスリン軍に集まった兵達は、味方した貴族達が無理やり連れてきた者達であった。少しでもレスリンにいい所を見せようと農家の次男三男など若そうな男たちを根こそぎ連れてきたのであった。そんな男たちがまともに戦えるわけが無いのである。
レスリンは戦闘に参加させずに街道封鎖に使っているのであった。
一方羊狩りは、順調に進んでいた。
「うおーーーこの貴族めちゃくちゃ金貨を積んでいるぞーー。」
「「おおおおお」」
「うりゃー、しねー。」
「おりゃーー、くたばれー。」
「かかか金をやる、見逃せ。」
「バカか見逃すわけないだろう。おりゃーー。」
レスリン側の戦闘に参加している兵達2万は目の色が変わっていた。捕獲した金銀財宝が功績によって分配されるのである。すべて貰えるわけではないが兵たちは必死である。金銀財宝である。伝手が無ければ金に換えることが出来ないほどの品物である。猫糞すれば、一介の兵達では盗人として捕まるのが落ちである。
レスリンは兵たちに持ち帰った金銀財宝の1割を還元すると約束していた。それと貴族当主級の者達を生け捕りにした場合は金貨10枚、首だけでも金貨8枚としたのである。
ほぼ戦闘は終了していた。
「勝ったな。」
「宰相閣下、エルビス要塞の中を確認してきます。」
「ボルク、要塞内での協力者は後で褒美を出そう。連れてまいれ。」
「はい。」
レスリンは戦闘したこの場に3日間留まった。目の前にはエルビス要塞があるのだが入ろうとしなかったのである。味方の貴族達は何故?と疑問であったがレスリンに聞くことはできなかった。
レスリンはエルビス要塞内に貴族が残した金銀財宝を片っ端から要塞外に運んでいたのであった。
貴族達は逃げる際にも金銀財宝を持っていたがそれ以外にも、持っていけなかった金銀財宝が山の様にあったのだ。
「ボルク、これでクーヤ王国の財政は何とかなるな。」
「はっ、これだけの財宝を貴族達は集めていたのですな。」
貴族達の残した財宝はすさまじかった。絵画や美術品など戦争に関係のない物が多くあった。
これは貴族の見栄であったのだ。いくら戦争と言っても要塞内である。領地や王都と変わらない生活をするために持ち込んだのであった。
「各領地の貴族達の屋敷にもまだ財産はあるだろう。それも国に接収させろ。」
「手配いたします。」
この戦いで多くの貴族家が断絶していった。クーヤ王国の8割の貴族家が無くなったのであった。
実際はほぼ10割であるのだが、重要ではない貴族家の生き残りがいる場合は家名存続を許したのである。貴族家として残る道を作ったのだ。領地持ち、爵位持ちは格下げされての生き残りである。
勿論当主は交代である。(当主は処刑)
「宰相閣下、クーヤ王の子供たちが何やら画策をしているようです。」
「バカなのか殿下たちは。」
「宮廷内の者達に良い様に踊らされているのでしょう。」
「ボルク、お前は城へ戻り処理をしてくれ、殺しても構わん。」
「殺してよいのですか、」
「王の子は5人いる。一人残せば王家は存続できる。」
ここに来てレスリンは少し変わった。
今までは甘い所があったが人を殺すことに躊躇が無くなっていた。
クーヤ王国の王族は生き残った。クーヤ王夫妻とその子供3人であった。二人の子供はレスリンを罠に嵌めようとした罪で民の前で公開処刑とされたのだ。
この公開処刑は民たちに衝撃を与えた。王家の者達を処刑する事は長いクーヤの歴史において初めての事であったからである。
君臨すれど統治せず。
クーヤ王国王家は政治から一歩引き、催事のみを行う事をしていたからである。
それが宰相暗殺未遂という罪で処刑されるのである。今までの慣例であれば生涯島流しで幽閉であった。それが公開処刑に変わったのだ。
その公開処刑は醜いものであった。
二人の王子は泣き叫び、引き摺られて処刑台に引っ張られていった。歩くことを拒否していたのである。
多くの民は王子その様を見て幻滅したのであった。クーヤ王国にとって王とは神にも等しい者達である。その神が、己の罪を認めず意地汚く他人に押し付け生き残ろうとしている様子が民たちを幻滅させたのだ。
同じく処刑される唆した者達は堂々と処刑台にて首を落とされていた。最後に王子となった処刑でそのギャップがあり過ぎたために王の権威はこれまでにないほど失墜したのであった。
「以上がクーヤ王国の経過報告になります。」
「そうか、カイン兄のドメス王国の方が付きそうだったな。」
「はいアレク様、その事ですがカイン様より報告が上がっております。かなりの激戦だったようです。」
「だろうなあそこは狡猾だからな。」
「ですがこれでドメス王国とクーヤ王国がルシア陣営となります。」
「残るはこのキルト王国とシーラ王国、シーマ王国か、レインはどうだ。」
「レイン様はシーマ、シーラの侵入を許しておりません、流石魔物軍団を使役するだけはありますな、あの年で完全に相手を翻弄しております。」
「んー、だが決定打が無いな。そうだ父上がトリスタンに居座っているな。」
「居座ってはいないでしょう、開拓の手伝いをしていると聞いております。」
「父上の艦隊を借りよう、シーラかシーマどちらかを担当してもらおうか。」
「アレク様それはさすがに拙いです。前王を戦争に使ったとなれば言い訳が立ちません。」
「拙いかな。」
「拙いです、それは出来ません。ですが自ら乗り出したのならば問題は無いかと思います。」
「フフフ、そうかそうか、アーサーお主も悪よのーー。」