490話 2万対20万
クーヤ王国王都から獣人兵たちが進軍していく。将軍ケーネル率いる1万とルルテ率いる1万の合計2万の兵が王都より出立していった。
「宰相閣下、よろしいでしょうか。」
「グルト内政官か、どうした。」
「王都より兵のほとんどを出してしまって宜しいのですか。」
「あーその事か心配するな、あの反乱者(クーヤ王国正統派貴族軍)は王都へは来れない。万一来たら負けるからな。」
レスリンの考えは正統派貴族軍は二つに分かれているシーラ派とキルト派の対立である。
この二つの派閥は事あるごとに対立をしてきている。レスリンという敵がいるために一時的にまとまったが本質は全く変わってはいない。
一つになった事で余計に足の引っ張り合いとなっているのである。
「シーラ派もキルト派もこのクーヤ王都で王を保護した者が戦場で勝つよりも功績大となるだろう。そんなことをあの欲深な二人の公爵が許すと思うか。」
「そういう事ですか、ありえません。」
「反乱者共が一斉にこの王都に来る事以外にはありえないのだよ。」
「一度に来ると約20万もの兵となりますがそれもないと思われていますか。」
「まぁないな。今各地に放った2万の兵たちが各領地を平定していく。その都度反乱者たちは一人抜け二人抜けと減っていくよ。」
レスリンの予想通りに獣人兵2万は各地を解放していった。
エルビス要塞を無視している為に兵の損耗もなくかなり楽な戦いであった。各領地に残っている兵たちも第一線の兵ではなく引退間近の老兵が多く、戦闘とい程のものでは無かった。逆に協力的な者達が多く領地解放は容易であった。
クーヤ王国貴族が籠るエルビス要塞は監視の身を置き動きを監視していた。
貴族達は毎夜パーティーで優雅なひと時を過ごしているようで大した動きは無い。
「ほぼ国内の平定が終わったな。」
「はい宰相閣下。」
「ならばそろそろ行こうか。」
レスリンは新たに集めた2万の兵を率いてエルビス要塞へと向かった。
レスリンは自分がエルビス要塞に向かう事を宣伝していた。
これは要塞内にはまだ多くの兵が残っている為であった。少しでも減らすために自分が討伐に向かう事を宣伝していたのである。
エルビス要塞内
「何だとエレキの小僧が我がエルビスに向かっているだと。」
「エルビス公爵閣下、これは先手を打って迎え撃ちましょう。」
「「「「「「そうだそうだ。」」」」
「皆の者、よくぞ言った。聞くところによれば兵は高々2万というではないか、我が方は20万もの兵力がある。10倍もの兵があるのだ一ひねりにしてやろうぞ。」
「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」
こうしてエルビス要塞から20万もの兵がレスリンを迎え打つために出陣したのだ。
エルビス領の境にある平原でレスリンは反乱者たちを待ち構えていた。
「罠は出来ているか。」
「完璧です。」
「よし。」
レスリンが待つこと2日、反乱軍10万が到着した。20万もの兵では進軍速度も遅くなり血気盛んな者達が先行した形となっていた。
反乱者たちは儲かった気持ちになっていた。何しろ相手は2万と5分の一の兵力である。これで勝てなければ無能者と罵られるだろう。
この2万対10万の戦いは平凡であった数の多い10万の兵が前進し2万の敵を包囲するような作戦であった。通常数の多い軍に包囲されればそこで負けが決定する。
だがレスリンたちは焦ることなく平然としている。
「そろそろだな。」
10万もの敵がレスリンたちに迫ってくる。あと200メートルとなった時に反乱軍の中で爆発が起きたのだ。
バン、バンバン、バン、バーンバン、バーン。
各地で起こる爆発音、これは破裂玉という武器であった。地雷のようなもので、ある魔物が死ぬとき破裂する特性を見つけたレスリンが改良して武器にしたのである。
この破裂玉を地面に置き砂をかけただけであるが10万もの兵が密集している為に甚大な被害が出ていた。
「弓隊撃てーーー。」
シュ、シュッシュ、シュシュ、シュ、シュ・・・・・・
総勢2万から放たれる弓矢は一人10から20の矢を放っていた。強弓などの各種の弓は10万の兵に突き刺さっていた。
レスリンは100万本もの弓を造らせていたのだ。破裂玉で足の止まった兵は敵では無かった。ただの獲物となっていたのである。
「打ち方やめーー。」
「これから敵反乱者たちの生き残りを掃討する。偉そうな鎧を着ている者の首は金貨一枚だーーー。」
「「「「おおおーーーーーーーー」」」」
それはもう盗賊の様であった。
豪華な鎧を剥ぎ取り、死体から金を漁り、生きている者達も容赦なく殺していた。
レスリンはあれ、これって強盗?と間違えるほどであった。
この戦闘で10万の兵は2万となっていた後方にいた約2万の兵は恐怖で動けなくなり命拾いをしたのであった。もう少し勇敢であったならば戦闘に巻き込まれ死んでいたであろう。上官が臆病者であったことが助かった要因であった。
逃げた兵約2万は後方には逃げずにばらばらとなった。
後方に逃げれば又戦闘になるのだ。今ならば戦闘中に軍とはぐれたと言い訳もつくのである。このチャンスを逃す事は無い。
ただ貴族達はそうはいかなかった。後方へと戻り公爵たちに釈明をしなければならなかったのだ。
「お前たちは何をしているのだ、たかが2万に10万の兵が負けたのか。」
怒り狂う、二人の公爵であった。
この二人怒る時は同じ波長である、息もぴったりであった。
怒って怒って怒り狂った両公爵はその日の進軍は出来なかった。
だがこの10万の兵たちの野営している場所は余り守りに適していない場所であった。山の谷間であった。公爵たちは山間を抜けたところで野営を考えていたが、10万の兵が負けたことで予定が狂ってしまったのであった。
「まさかあそこで野営するとはな。」
「宰相閣下、こちらの予定も狂ってしまいました。」
「本当だよ、山間を抜けてくれないと仕掛けた罠が無駄になるよな。」
「しかたないエルビス要塞側に牛を放て、少しは山間を抜ける者がいるだろう。」
「よろしいのですか全滅は難しくなります。」
「仕方ないよ、もう全滅は出来ない、まぁ2万で20万の兵に勝ったんだこれで満足しないとね。」
レスリンは家畜である牛を真夜中に10万。だが負傷者は多かったようだ。
ここでも貴族達高位の者達は無事であった。優秀な家臣たちに守られてエルビス要塞へと逃げ帰ってきたのであった。
両公爵は泥だらけであった。
「風呂を用意するのだ、早くしろ。」
怒り狂う公爵に黙って従う家臣達は泥だらけのままであった。




