483話
ハロルドは、オリオン王国時代でもこんなに働いた事が無いほどに働いていた。
それは孫にいい所を見せたい、ただそれだけであった。
じいちゃんカッコいい、じいちゃんが一番、その言葉を聞きたいだけで頑張っていたのだ。
現状のトリスタンは、国境の防衛をウル率いる魔物軍団が防衛をしている。街中の警備は今までいる兵や衛兵たちが担当している。
シーラ王国より割譲された地域は各領主たちが治めている為に直接統治はしてはいない。領主のいない地域もあるが今は代理に任せている。そこには新しい村、町が建設されているのだ。
トリスタンには種族差別がない事も多くの難民を呼び寄せている原因にもなっていた。
各国で迫害されていた種族たちはなるべく近い場所で安全な場所を求めた結果、トリスタンに向かう者達が多く出てきているのである。
各国も貧困層がどこに行こうが構っている暇が無いようで、国外脱出をする民を放置している。
トリスタンの町は3倍にもの規模にまでなっていた。もう都市といっても問題ないほどの規模である。
それも今まではせいぜい2階建ての建物(多くは平屋)であったが今では5階建ての建物が乱立している。もちろん無暗やたらに建っている訳ではない。きちんと都市計画を元に建設されているのである。
急ぎの建物は機人と木人が担当して素早く建設したのである。難民の居住区である。
それ以外は難民に仕事を与えるために新しい村、町の建設をしているのである。
「レインーー、助けてくれーー。」
そこにはトムの姿があった。
「どうしたのトムぅ。」
「レイン、村が村が大変なんだ。」
トムの説明によるとトリスタンの町に近いトムの村は難民が押し寄せてきている。まだ新しい村であるトムの村は、受け入れ態勢も何も整っていない。そこに何千もの人が押し寄せてきているのだ。
「分かった、食料とテントをすぐに手配するよ、あっそれと難民たちにはこっちに向かうように伝えてね。」
ピュンと音がするほどの勢いでレインは走っていった。
呆気に取られていたトムであるがすぐに正気に戻っていた。トムもかなり成長しているのだ。
この戦争を避けて各国から出ている難民たちはまだいい方であった。外に出ることのできない民たちは悲惨であった。多くの農場を抱え小作人(現在難民)を使い農作物をつくっていた農家は収入がほとんどなくなっていた。それでもその土地にいる限り税は治めなければならない。特に今は戦争中である金がなければ戦争自体が出来ないのである。
領主も国も税の取り立てが普段以上に厳しく増税していったのだ。
農家だけではなく商店なども増税となり、人頭税も元の住人の人数として取り立てられていた。
国や貴族達は戦争の事しか考えていなかった。戦争に負ければ国が滅び自分たちは処刑されるのだ。今は民の事など全く考えていないのである。
トリスタンの両隣であるシーラ王国とシーマ王国でも難民はトリスタンを目指す者が多い。それは反対側で戦争を行っている為である。
両国ではほぼ内乱は無いがその代わりに盗賊が増えていた。両国を通りトリスタンを目指す者達が多くいるためにそれを狙っての盗賊(奴隷狩り)である。男は奴隷兵として売り、女は娼婦として売るためである。
盗賊に襲われる人数は難民と比較しては一部であるがそれでも多くの人が被害にあっている。その中にも裕福な者達も含まれている為に国と貴族は盗賊狩りにも兵を派遣する事となっていた。
ある貴族
「また盗賊の被害か。」
「はい閣下、今回は男爵令嬢も攫われたようです。」
「それは拙いな、どこの男爵令嬢だ。」
「シーマ王国のレフト男爵家のご令嬢です。」
「シーマかならばほっっとけ。」
「よろしいのですか、戦争後に問題になりませんか。」
「我が領地内だが領地の境目だろう。領地外と言い張ればよかろう。それより何故このことが分かったのだ。」
「それは・・・」
この貴族ルシア王国に併合された元キメル王国貴族であった。
元キメル王国はルシア王国に併合されていた。
アレクから盗賊討伐の報告が各貴族に書類として回ってきたのであった。
アレクの部隊が盗賊を討伐して色々な書類を押収してこの事実が発覚したのだ。
男爵令嬢はまだ保護されていない。そのために近くの貴族に通達を出し保護するように伝えてきたのであった。
「すすすすぐに動けーーー、男爵令嬢を保護するのだーーーー。」
「はっ。」
この貴族家は書類をもとにある貴族家に攻め入った。そこには優雅に暮らしていた男爵令嬢がいたという。
奴隷として売られていたが、その貴族は男爵令嬢を気に入り普通に囲う事にしたのだ。
男爵令嬢も今までの生活より裕福な生活が出来、大事にされたことから幸せであった。
レフト男爵家は貧乏貴族であった。2つの村を領地としている辺境貴族であった。
買った貴族は大きな街を領地としている貴族であった。
大事になっている事実を知った貴族は慌ててシーマ王国のレフト男爵に令嬢の婚姻を申し込んだのであった。
問題を解決の導いた元キメル王国貴族は功績によって領地を増やした。アレクは空白の領地を統治させるために書く貴族に功績を上げさせる目的もあったようだ。
このご令嬢の話は戦争終結後も語り継がれていく。盗賊に襲われた不幸な令嬢が幸運を武器に幸せになるという演劇が大人気となったのだ。
この演劇でのある貴族は間抜けな貴族として取り上げられ、笑いのネタとされていた。この物語で唯一の不幸と言えばその貴族の子孫であった。のちにその貴族はトンマ男爵家から改名申請を出し受け入れられた。
アレクは笑いを堪えながら決済をしたという。
「トンマ男爵家には功績をあげさせろ。子爵にしてやらねばな。」
「アレク様よろしいのですか、一人の貴族をひいきにしたとなれば他の貴族も黙っていませんよ。」
「アーサー、この話だけでももの凄い経済効果だぞ。男爵令嬢は幸せに暮らしている。レフト男爵家も賠償金で豊かになった。トンマ男爵が笑い物だ。元は私の指示なのだ。金は入っただろうが演劇にまでなってはなー。少し可哀想だろう。」
トンマ男爵家はルーレント男爵と改名をされた。ルーレントとは切れる王国で断絶した伯爵家の家名であった。ルーレント男爵はのちに子爵となり領地も5倍にまでなった。
この事実から又演劇の主役となり改名に意味もなかったという。
ルーレント子爵家は主役であることから喜んでいた。