472話
「敵の動きは今どうなっている。」
「師匠、説明します。先ずはルシア王国、シン王国、デル王国、キメル王国に対して、シーラ王国が東からルシアに進軍してくるでしょう。シーラは二つに別れ一つはトリスタンに向かうと思われます。
そして南フロンティア中央に位置している。キルト王国はシン王国に進軍してくるでしょう。さすがにデル王国には攻めにくいようです。残りの各国は南からデル王国、北からキメル王国に向かってくると思われます。」
「だろうな。シーラ王国に関してはレインに全て任せている。シーラ側は防衛に専念すればよい。東側からのキルト王国は私とカイン兄二人で当たる。残りの北側をマック艦隊、南側をアレク艦隊に任せる。」
「師匠、カイン様と二人では少し人数が足りないのではないですか。」
「マック、後処理では足りなくなるが戦闘ならば二人の方がやり易い、カイン兄なら戦闘中気にしなくていいからな。」
アレクは大まかな対応を艦の中で決めていた。今のこの国の開発を遅らせるわけにはいかない。最低の人員で勝つことが周辺諸国に対してけん制になるのだ。特にキルト王国に対してはアレクとカイン、(多分獣人隊)で当たる。多くとも1000人ぐらいである、それを30万人という奴隷兵を相手にするのである。
「アレク様、キルト王国は奴隷兵だけではありません。キルト王国兵として10万がおります。」
「40万の兵となるのか、そうなると数か所からの進軍となるな。」
「はい大軍が通れる街道は3つとなります。3つの街道からの進軍と考えて間違いはないでしょう。」
「そうだな、私、カインで2か所、あとは獣人隊で一か所だな、万一それ以上であるならば時間差で撃退するしかあるまい。」
「アレク様、10万の兵が集まった時に攻撃ですか、それとも集まる前に各個撃破でしょうか。」
「敵の動き次第だな。偵察隊を各地に出しようにしろ。」
「マック艦隊は北の敵、アレク艦隊は南側からくる敵を殲滅しろ、皆殺しでも構わない、オリオンの力を示せ、本命はキルト王国だろうが3,4か国の合同軍だ、10万ぐらいは集まっているだろう。」
「「「「「「はっ」」」」」」
ルシア王国を中心に4か国に攻撃をかけるという噂は各地に広がっていた。普通は奇襲のような攻撃である為に各国は秘密にするのだが、今回は規模が大きく、商会や農家などに買付を行うために噂が広まる事となっていた。
これはアレクも予想していたが、噂の内容と広がり方が少し違和感があった。
噂とアレクの集める情報が誤差がなく合致しているのである。通常、事実は噂との違いが有る筈であるが今回は全く同じなのだ。
アレクは噂と各国の行動を再度調査させた。
そしていよいよ敵軍がルシア王国へ向かって進軍となった時に事実が分かった。
アレクは自分の担当で街道でキルト軍の到着を待っていた。
「アレク様、大変です。」
「どうしたアーサー。」
「敵は国境で止まりました。国境を越えていません。」
「何、こちらに来ないのか。」
「はい、国境で大軍を待機させています。どこの国も国境で止まっています。」
「同時に攻撃するつもりなのか。」
「いいえ、違うようです。このシン国にも他の国にも進軍はしてこないでしょう。」
「どういう事だ。」
アーサーの説明は唖然とするものであった。各国はルシア王国が大国になる事を阻止するために各国が集まり対抗する名目で連合を組んでいた。それは擬態であった。
ルキアに対抗する事は事実であるが、今すぐに攻め上る事が事実では無かった。
ではなぜ物資を集め兵を集めて進軍してきたのか、それが噂を流した目くらましであった。
実際に攻めるのはルシア王国の反対側の国々であった。
ルシアを円の中心とするならば、中心の外側が今回の10か国である。さらにその外側の国を集めた兵で攻めているのである。
完全に手玉に取られた形のアレクであったが、周辺各国も完全に騙されていた。
連合10か国はルシアを攻めると噂を流し、本当に攻撃する国の警戒を解いていた。その国で物資を買い集め、ルシア、ルシアと噂を広めていった。
外側の国々も戦争特需だと高く売れる物資を放出していった。それが自分たちの首を絞める事だとは気づかなかった。
「それで外縁の国々は対抗出来ているのか。」
「多分無理です。」
「だろうな、完全に騙されていたからな、兵の準備も物資も無くては戦うことさせ出来んだろうな。」
「はい。」
ルシア4か国の敵国10か国は周りの国々を電光石火の早業で飲み込んでいった。
完全に油断していた各国は所要都市を落とされて降伏していった。攻められた国々は滅んだ国もあれば属国として生き残った国もある。
ただ南フロンティアの勢力図が変わった事は事実であった。
南フロンティアの中で歴史に残る謀略とされた。連合を10か国は周辺国を飲み込みそして10か国内でも暗躍があったのだ、仲間だと思っていた味方が襲ってきたのである。10か国あった国は6か国となっていた。
シーラ王国派とキルト王国派の2か国の謀略であった。
この事により、南フロンティア大陸の中央から東の海岸まで(ルシア王国周辺を除く)をシーラ王国、キルト王国の同盟国の支配地となった。
キルト王国は中央から西に勢力を拡大していた。キルトの奴隷兵の戦力は各国では太刀打ちが出来なかった。
だがなぜかサウジ王国まで来るとキルト王国は進軍を止めていた。キルト王国派サウジ王国に手を出せばアレクが出てくることを調べていたのだろう。アレクに係っている国への進軍が今回は一か国も無かったことからとことんアレクを避けて戦争をするつもりなのだ。
北への進軍でも同じであった。聖アース教国とグレーク王国の国境で進軍を止めていた。
アレクは感心していた。キルト王国はアレクを避けて戦争をしている。絶対に戦う事をしないのだ。
今や無視できない程の大国にまで成り上がったキルト王国である。
「完全に手玉に取られたな。」
「アレク様、このままの状態を維持しますか。」
「当分は仕方あるまい。無関係の国が攻められてもお家が口を出すことは出来ないだろう。」
「アレク様は、普段は非常識でありますが、妙なところで律儀ですから。」
「アーサー、全く関係の無い国はどうにもできんよ。これでも国の王だからな。」
「さようでした。ただの戦闘狂と思ってしまいました。あははー。」
「・・・・・・お前なー。」
アレクは根本的に作戦を練り直す事にした。謀略には謀略、暴力には暴力での対応である。
「面白くなってきたな。カイン兄の所に行くぞー。」




