471話
魔物が進化する事はあまり知られていない。
それは人が魔物を敵としか見ていないせいでもある。
人里に現れる魔物を討伐しているだけなのである。魔物を研究する者はこの世界にはまだ誰もいなかった。
このアースの人々は進化という言葉さえも知る者は少ない。
人も神がつくり、獣人やエルフ、ドワーフなどは人間の出来損ないと人間から見られている為に差別が生まれているのである。
アレクはいずれ生物が進化する事を理解させなければいけないと思っている。
「父上、人も進化するのですか。」
「多分する。」
「父上は進化したのですか。」
「いいやしていないぞ。」
「そんなに強くても人は進化しないのですね。んーーーーー。」
「レインよ、人間から獣人、エルフ、ドワーフと分かれていっている。進化とは少し違うが枝分かれみたいなものだな、この星にあっているのが人なのだろう。人には知恵がある、その知恵が進化しているのだ。外見だけが進化すると思ってはいけないよ。」
「そうですね。」
アレクとレインは進化について色々と話をした。レインにしてみれば父と初めてここまで語り合う事で父の考えが少しわかったような気持ちになっていた。
「そうなると、迷宮がこの世界のカギという事ですね。」
「そうだな、迷宮があったからこそこの惑星アースは栄えたのだろうな。」
「父上、迷宮核の元は何処にあるのですか。」
「それは私にも分からない。今ある迷宮は分裂したものだからな。元は何処にあるのかは情報がないのだ。」
「父上、フロンティア大陸内でも何個か迷宮があると聞きます。一度行ってみませんか。」
「そうだな、この戦争の片がついたらそれもいいだろうな。」
「うへへ、新しい迷宮を探しときますね。」
それからもアレクとレインは今の状況を話し合った。レインはトリスタン自治領を治め、対シーラ王国担当とした。シーラ王国に関するすべての采配をレインに任せたのであった。
アレクはルシア王国を中心に隣国を纏め、反乱鎮圧と、内政を当分行う事にしている。
「アレク様、緊急の通信が入っております。」
「どうした。」
「はっ、ルシア王国周辺の国々が兵を集めています。」
「ほーー、いよいよだな。」
「父上、戦争はもうほとんど終わったのではないのですか。」
「レイン、戦争はこれからが本番だ。」
「えっ、そうなのですか。」
アレクはレインに説明していく。
「ルシア王国を治め、隣国も治めて一つになろうとしているのが今の現状だ。一つに纏まると大国となり近隣諸国は従う事になってしまう。
それだと近隣諸国はルシアの言いなりとなりいずれは属国や併合されてしまうだろう。
それを嫌って近隣諸国が団結したのだろう。まだどの程度の集まりか分からぬが廻り中の国が団結したら少し厄介だな。」
「そこでトリスタンがシーラ担当なのですね。」
「そうだ、シーラ側からの進軍がなければ対応も楽になるからな。」
「任せてください。でもシーラは条約がありますから攻めてこないかもしれませんね。」
「いいや必ず攻めて来るな。シーラ王国ほどの大国を仲間に引き入れなければ周辺各国は纏まらないだろう。もしかしたらシーラ王国が盟主かもしれんな。」
そうアレクの予想は当たっていた。レインによって屈辱的な講和を結ぶことになったシーラ王国は貴族達が色々と画策していた。王と宰相はルシア、トリスタンの力を認めて消極的であったが、話が大きくなると積極的になっていった。
喉元過ぎれば熱さ忘れる。この言葉が今のシーラ王国の現状である。
シーラ王国を中心に各国が集まり、ルシア王国、デル王国、シン王国、キメル王国が一つになる事を阻止しようと動き出したのだ。周辺10か国が集まり兵を集め出したのである。
シーラ王国と同じぐらいの大国であるキルト王国はその中でも一番の兵を持っている。シーラ王国は海軍が強く陸軍は普通である。
キルト王国は南フロンティア大陸の中央に位置しデル王国とシン王国に国境が接している。
デル王国の奴隷の多くはキルト王国に買われている。
キルト王国は奴隷たちを洗脳して愛国心を植え付け国の為に死兵となる事を忠義としている。
アレクはキルト王国が参戦すると聞くと少し嫌な顔をした。出来れば単独で当たりたかったのである。
キルト王国の兵は厄介なのだ。死を恐れない兵ほど厄介なものはないのである。殺すことでしか兵を止める事が出来ないからである。キルト王国にはアレクもしくはカインが対応しなければ勝てないだろう。
シーラ方面はレインに全て任せている。他は今の艦隊を振り分ければ何とかなるだろう。
「キルト王国とはそれ程強いのですか。」
「いや、戦闘力としては普通だな、だが死兵出れば別だ。死を恐れない者達は全く違ってくる。腕をもがれれば普通の兵は戦闘能力が無くなり無力化出来る。だが死兵は違う、腕をもがれようが足を失っていようが敵に向かって来るのだ。死ぬまで戦う事を止めないのだ。」
「逃げる事はしないのですか。」
「キルト王国の兵は洗脳されている。逃げるという発想がないだろうな。」
キルト王国は少し特殊な国である。
奴隷を買い集め兵としている。普通は奴隷は肉壁として前線に出すことはあるが主要な兵たちは貴族や平民で構成されることがほとんどである。
所がキルト王国では主要兵のほとんどが奴隷兵である。これは洗脳教育がなされている為に可能であるのだが、隣国などは洗脳教育自体を知らないためにそれ程警戒もしていないのが現状である。
アレクはキルト王国などを調べているときにこの事実を知った。
キルト軍の兵は30万もの奴隷兵がいるのである。これほどの兵を維持する事は通常であれば国が破綻してしまうが、奴隷兵であれば給料を払う必要なないために維持が出来るのである。
装備も充実している。愛国心溢れる奴隷兵はキルト王国を裏切る事は無いのである。
「レイン、私はこのままルシアに戻る。」
「大丈夫です。グリがいますから、勝手に帰ります。」
「すまぬな、また話そうな。」
レインは大型艦の甲板からグリと飛び立っていった。それを見送ったアレクは急ぎルシア王国へと戻っていった。
戻ったアレクを待ち構えていたのはマックであった。
「師匠、どうしますか。」
やる気満々のマックである。他にもアレク艦隊の面々もいるのだが一番の古株であるマックが仕切っているようだ。
「マック、みんなもまずは座れ。作戦を指示する。」