47話 アレク冒険者になる?
アレクは寝ていた。
今アレクは夢の中で、冒険者になっている。
迷宮で財宝を見つけ、ドラゴンと戦い、そしてハーレムを築いていた。
夢の中で、大冒険を満喫していた。
「師匠、師匠、起きてください。仕事ですよ。お仕事、お・し・ご・と・ですよ。」
アレクは、現実に引き戻された。
「何だよ、今いいとこだったのにぃ。」
「何、寝ぼけてるんですか。早く着替えて仕事してください。すごく書類がたまってますよ。」
アレクは、完全に現実に引き戻された。
「僕は、冒険者になるんだ。」
アレクは、起こしに来てくれたリックのことなど忘れて、足早に部屋を出ていった。リックはアレクが仕事に行ったと思っているのだろう。
アレクは、冒険者ギルドを目指していた。
冒険者になるのだ。冒険者になるには、登録をしなければならない。
冒険者ギルドに到着し、中に入っていく。
「すいません、冒険者登録をお願いします。」
アレクは、はっきりと品よくスマートにいい声で受付嬢に伝えた。
受付嬢は、「アレクス様、いらっしゃいませ。冒険者登録ですか。」
「そうです。冒険者になり、財宝を手に入れ、ドラゴンを倒し、護衛なんかもやりたいですね。あと討伐依頼とかも。」
アレクは、ニコニコしながら、一人で語っていた。
受付嬢は困った。冒険者登録は出来る。だが・・・。
「アレクス様、少しお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか。」
「何でも聞いてよ。」
「では、アレクス様は、冒険者になり、財宝、ドラゴンはいいでしょう。護衛依頼や討伐の依頼を受けたいとおっしゃいましたが、冒険者になり、依頼を受け依頼料をもらうのでしょうか。」
「うん、そうだね。依頼料は少しでいいよ。タダはまずいでしょうからね。」
「アレクス様、冒険者登録は出来ます。ただ、依頼は受けれません。」
「えぇ、なんで。」
「アレクス様、あなた様は領主様です。領主様に依頼は出せません。それに依頼料を少しでいい、これはダメです。冒険者は、依頼料をもらい仕事をしています。アレクス様が少しの依頼料で仕事をしたとしましょう。次に依頼する人が、その金額で依頼できると思ってしまいます。他の冒険者が困ってしまいますよ。
アレクス様は領主ですから、依頼を出す立場なのですよ。その辺を考慮して、よくお考え下さい。」
受付嬢は、はっきりとアレクスに伝えた。ここで、登録させて依頼を受けられては後々困ったことになる。
話の分からないアレクではない。十分な理解力はある。アレクはトボトボと歩き冒険者ギルドを去っていった。
冒険者ギルド内でやり取りを見ていた冒険者たちは、やるせない気持になっていた。
トボトボと歩いていたアレクに、いい匂いがしてきた。顔を上げると串焼のタレの匂いだ。
朝ご飯を食べないで、冒険者ギルドまで来ていたのだった。
いい匂いの肉の串焼きを口いっぱいに頬張ると、落ち込んだ気持ちは、明後日の方向に飛んで行ってしまった。
機嫌の直ったアレクは、もう一本買い、又食べる。
「おじさん、これ美味しいね。タレがいいよね。」
「やっぱり、分かるかい。家の秘伝のタレだからね。」
おじさんは、嬉しそうに説明している。
「ここは、商売をするにはいい場所だよ。材料は安いし、お客は気前がいい。みんな仕事をしていて金回りがいいんだろうよ。」
アレクは、うんうん、言っている。
「やっぱり、迷宮があるのがありがたいね。迷宮のおかげで、人がわんさか集まってくるからな。」
うんうん、言っている。
アレクは、超ご機嫌になり街中を歩いている。
「きゃぁぁぁ、ドロボー、泥棒ー捕まえてーー。」
出店から食べ物を盗んで、走ってくる少年がいた。
少年はアレクの横をすり抜けようとした時、一瞬で拘束された。少年は、バランスを崩し地面を転がっていく。
アレクは少年を引っ張りながら、出店に行く。
「人の物を盗ったらだめだよ。」
少年は、何も言わない。
アレクは、出店の人に謝り、少年にも謝らせた。少年は出店の主人に、「ごめんなさい。すいませんでした。」と謝ったので、アレクはお金を多く払い、今回は、これで許してもらえるようにお願いした。
「しょうがない、今回だけですよ。」
アレクは、出店で食べ物を多めに買い、少年と広場に行く。
芝生の上に座り、事情を聞いていく。
「なんで、食べ物を盗んだの。」
少年は、ポツポツと話し始めた。
少年は、戦争孤児だった。
南部で戦争に巻き込まれ、逃げてきたのだ。逃げてきたのはいいが、働く場所、雇ってくれる人がいない。
働き口を探して、アレク領まで来ていたのだ。同じような子供たちが、2,30人いるようだ。
一か所に集まり、食べ物をあさり、物を盗んで食べ物を食べているという。
話を聞いてアレクは、こんな新しい街で、もうスラムみたいなものが出来るのかと思う。
「僕が、住むところと仕事をあげるよ。」
アレクは、無料で食べ物をあげるとは言わなかった。それは過去に王都での孤児たちを見てきたからだ。
孤児たちは、ただ施しだけを求めていない。自立しようと、頑張っているのだ。
少年に、他の人たちが居る所に案内してもらった。そこは街のはずれ、開発途中の家もない。何もない場所だった。
30人ぐらいの子供たち、5,6歳から10歳ぐらいだろう。
その子たちにアレクはいう。
「みんな、住むところを用意するよ。」
アレクは、空き地に孤児院を造った。
子供たちは、呆気にとられた顔をしている。一瞬で、大きな建物が出来上がったのだから。
少年に伝える。
「まだ家具がないから、急いで揃えるよ。あっそうだ、君、名前は。」
「俺は、ま。マルコっていいます。」
「じゃぁ、マルコ。ここのリーダーは、マルコがやってみんなをまとめてね。」
アレクは、少し待っててと言うと走り去っていた。
マルコ達が建物の中でワイワイしながら待っていると、アレクは、リック、マック、ユリを連れて戻ってきた。荷物をいっぱい抱えて。
後は、ユリが仕切っていた。
少し経つと、カイ、ホリー、バレーの3人が馬車を引き連れてこちらに向かってきている。
必要品を色々と持ってきたのだろう。
ユリは、テキパキとリック達に指示を出して作業させていた。
子供たちには、食事、料理のやり方を教え食べさせていた。
ユリは子供たちから、話を聞き自分たちも孤児だったと話をしていた。
アレクは、1人涙を流していた。
他の人は、淡々としていた。
ユリたちと、子供たちの面倒をどうするかを話していた。
「孤児院の運営は、アレク領で行なう。王都の孤児院の人を雇って常駐させよう。」
「そうですね、子供たちだけではいけません。取りあえずは私たちが交代で様子をみます。」
「子供たちに、仕事を与える。小さい子は孤児院のお掃除の手伝い。後は街の掃除だね。午前中に掃除をやらせて、午後は勉強させるよ。ユリは勉強を教えてあげてね。」
ユリは少し驚いた顔をしたが、すぐに「はい」と答えた。
「お腹一杯食べれるようにしてね。」
「いずれはアレク領で働けるようにしたいね。」
リック達6人は、黙って頷いていた。
子供たちは、お風呂に入り、新しい服をもらい、お腹一杯ご飯を食べて、安心したようだった。
アレクは、思った。光源氏計画かな。