466話
シーラ王国の城へ兵士は飛び込んでいった。
魔物軍に突撃した5000の兵が壊滅したからである。
兵士は王と宰相のいる部屋に通され報告していた。
「貴族軍が魔物に突撃して壊滅いたしました。」
「・・・・壊滅だと、5000もの兵が壊滅・・」
「はい、生き残りは誰もいません。」
宰相「使者殿、これは問題ですぞ。」
「何が問題なのかな、シーラ王国の兵が向かってきたから撃退したのでしょう。何の問題も無いでしょう。」
レインの言葉は正論であった。待機している魔物軍に勝手に挑み、壊滅しただけである。
「・・・・・・」
「でもこれで実力が分かってもらえたかな。」
「・・・・我がシーラ王国の兵5000が壊滅したのだ、魔物にもそれなりの被害を与えたのだろうな。」
「・・・・・・魔物への被害はありません・・・」
「なに、聞き間違いかな、被害がないと聞こえたが。」
「はい、魔物には全く被害がありませんでした。」
「・・・」
「あのさー、もう現実を見ようよ。ウルの連れている配下の魔物は強いよ。普通の群れのボスクラスだからね。それにウルたちに鍛えられているから人間の兵じゃ傷もつけられないよ。」
「・・・・使者殿、これでシーラ王国は戦争をするしか選択が無くなった。」
「えっ、どうして、戦争しても負けるよ。」
「負けると分かってもシーラ王国の兵が死んだのだ。これをうやむやには出来ない。」
「王様ーぁ、兵が死んだことを要は理由を付けてうやむやにしたいだけでしょう。」
「・・・・・」
「そんなことでシーラ王国が滅んだら国民は死んでも死にきれないよ。愚王の名が後世に語り継がれるから王はそれで満足だろうけど、民は死に損だね。」
「きききき貴様ーーー、余を侮辱するのか。」
「へ陛下お待ちください。使者殿の言葉は正論です。ここは落ち着きましょう。」
「・・ぐぅ・・・・・」
「兵たちに徹底させろ、魔物にはかまうな。監視だけしていろ。」
宰相の言葉に報告にきていた兵士は元の場所へと戻っていった。
「王様ぁ、3日待つよ。それまでに意見統一してね。」
レインは話が進まないと分かるとさっさと出て行ってしまった。
「陛下、シーラ王国の兵では魔物を撃退する事は出来ません。それにあのドラゴンまでいるのです。」
「・・・・だっだが…このまま負けではシーラ王国の威厳が・・」
「陛下、威厳より国を守る事が今は一番ですぞ。滅びたらご先祖様に申し訳が立ちません。」
「・・・・・」
王と宰相はシーラ王国の重鎮と大貴族の当主たちと話し合った。
ドラゴンブレスの力を見せられた者達は条件付き講和(降伏)を受け入れる事にしたのである。
だが条件で大いに揉めてた。特に割譲するトリスタン側の領主は大反発した。国が負ける事は容認できるが自分の領地の事は容認できないのである。
幾ら国が割譲後の保証をすると言っても代替え地がない事はシーラ王国貴族ならば皆分かっている事であった。シーラ王国貴族達は4分の1もの領地の代替え地などどこにもないのである。
保証に納得できない者は領地と共に国を移る事で講和を納得したのである。
国より自分の領地を優先するのはシーラ王国だけではなくどこの国の領主でも同じ事であった。
シーラ王国は条件付降伏の内容をレインとすり合わせをしていた。レインにしてみれば割譲する領地に領地を管理する者がついてくる程度の思いである為に、大した問題では無かった。ところがシーラ王国貴族達は違っていた。国が変わる事で今までの権力をそのまま移動できると思っていたのである。
話の中でレインは気づいたがそこには触れなかった。
レインがシーラ王国王都にきてから20日が過ぎていた。その間にウルを筆頭に魔物狩りが王都周辺で行われていた。そのために王都周辺やトリスタン側に魔物の姿が激減していた。
王都の民や商人たちはこの事実にやっと気づいたのである。
シーラ王国内でトリスタン側の領地割譲の噂が国中に流れている為にトリスタンと反対側の領地の民たちが移動を始めたのである。移動している民たちは土地持ちの農家ではない。土地を持てない小作人達である。
トリスタン側に移住できれば魔物被害が無くなる。農地開発が進む。農地を持つことが出来るかもしれないという思いが移動させていたのである。
最初は小さな流れであった。
噂を聞いた小作人と貧民街の者達の数十人だけであった。だが移動を始めると大きな流れとなってしまった。
ドラゴンに守られる希望の地となり、貴族に弾圧されている民たちが我も我もと移動を始めたのである。
この時はまだシーラ王国としても大した問題にしていなかった。人数が多少多くとも小作人と貧民街の者達である。大した問題ではない。逆にありがたい話と受け止めていた。貧しいもの達が領地からいなくなる。土地持ちの農家と商人が残りより豊かな領地となると誰もが思っていたのである。
それは大きな勘違いであった。後に大移動した領地は衰退の一途をたどってしまった。
広大な農地に小作人がいなければ持ち主が畑の世話をしなければならない。そんな広大な農地を今まで人任せにしていた者が出来るはずもなく、畑は荒れるだけである。焦った農家は奴隷、小作人を集めるがトリスタン側の開発が進むと誰も集まらなかった。
「使者殿、この講和の条件でよろしいですかな。」
講和の条件としては大まかにルシア王国との平和条約である。5年間の不可侵条約の締結。
シーラ王国に流れるライン川よりトリスタン側を割譲。(シーラ王国の4分の1)
割譲する領地の貴族は希望によりルシア王国に編入する事が出来る。
この編入であるが、割譲領地には大小20もの領地に分かれている。その中で17の領主がルシア王国への編入を希望していた。
レインはアレクと連絡を取りルシアに編入するこの領地の采配権を得ていた。
アレクはこの割譲地はレインにすべて与えるつもりでいた。ルシア王国の自治領として自由に采配出来るようにしたのだ。
アレクはレインが魔物楽園を作るという事に興味を示した。トリスタンを含めどのような采配をするかを見てみたくなったのだ。
「あっそうだ、シーラ王割譲される地の領主は僕だからね、これからもよろしくね。」
「えっ使者殿が領主となるのか。」
シーラ王はもの凄い嫌な顔をしていた。魔物を率いるレインが隣にいる事でいつでもシーラ王国を攻める事が出来るのである。シーラ王国はそれを警戒するために兵を整えなければならないからである。
条件付き降伏となって一段落した頃、割譲地の領主と共にトリスタン自治領に行く事となった。
シーラ王国貴族と王たちはまだ完全に納得したわけではない。今は勝てないことが分かっている為に取りあえずの講和を結んだと自分たちに言い聞かせていたのである。