459話
レインはルガー王国と飛び立ちドラゴンとグリフォンを連れてシーラ王国を目指していた。
のんびりと行く予定である為に景色を見ながら低空で飛んでいる。
「グリ、あそこで魔物に襲われている人がいるね。近づいて。」
グリとシロは襲われている馬車に上空から近づいていく。
シロが一鳴きすると魔物たちは一目散に逃げだしていった。
「大丈夫ですかー。」
「ありが・・ひえぇーーー。」
御礼を言おうとした男は、ドラゴンの姿を見ると悲鳴を上げて獣のように手足をばたつかせ逃げようとしているが腰を向かしているのであろうバタバタするだけで進んでいない。
「大丈夫ですよ。大人しいですから。」
「ほほほ本当ですか。ああああありがとうございます。死ぬことろでした。ありがとうございます。」
襲われていた馬車は商人の馬車のようで食料を積み込んでいる。魔物たちは食料を狙って襲ってきたのだ。
「護衛の人はいないんですか。」
「今は護衛を雇う事も出来ません。」
「エッどうして。」
「これからルシア王国と戦争となるのです。戦える者達はすべてシーラ王国の兵として連れていかれました。」
「それって拙くない、普通の生活が出来なくなるじゃない。」
「そうなのです、食料の輸送だけでもこの有様です。他国の護衛職たちもシーラ王国に入ると強制的に兵とされるので護衛を引き受けてもらえないのです。
「此処まだシーラ王国じゃないよね。」
「はいまだシーラ王国ではありません。あと1日ほど南に下るとシーラ王国となります。
レインはルガー王国から海岸線を通るルートで南下していた。
「此処は何処の国なの?空を飛んできたから分からないんだ。」
「はい?」
「グリとシロに乗ってきたからね。」
レインはグリとシロを撫でてやる。
「きゅぅ」
「クエぇ」
「此処はトリスタン自治領です。」
「自治領、国じゃないの。」
「はいこのトリスタン自治領は以前はトリスタン王国という国でありました。ですが隣国との戦争で領地を削り取られ王も亡くなり今は、先代の王が代理をしております。」
レインはこの商人と同行してトリスタン自治領へと行く事にした。シーラ王国の通り道である為に隣国を見てみたくなったのである。
レインは壊れた馬車をロープで縛り、ドラゴンがつかめるようにすると「じゃぁいくよー。」
「ひえぇぇぇぇぇぇぇーーーー。」
荷台に乗る商人の叫び声と共に大嵐へと舞い上がっていった。
ゆっくりとした速度で飛んでいると、小さな町が見えてくる。
だが町の方は何やら騒がしい。
それはそうだろう。遠くからドラゴンが町に向かって飛んできているのだ。町中がパニックとなっていたのだ。
「女子供を避難させろ。武器を持てる者は戦うぞ。」
そんなことは知らないレインたちは町の門の手前に舞い降りた。
緊張の極致にいる町の男達、何も知らないレイン。
「すいませーーーん。街に入りたいけど、ドラゴンも入れますかーー。」
何とも緊張感のかけらも無い言い方に、町の者達は脱力してしまった。
そこに隊長であろう者が「少年、そこのドラゴンとグリフォンはそなたの獣魔か。」
「獣魔?」
「ドラゴンのシロとグリフォンのグリは友達だね。」
そこに商人が荷台から降りてくる。
「衛兵様、カンダ商会のデンです。」
「オォ、デン殿かこの少年と一緒にきたのか。」
デンはレインとの経緯を説明すると兵たちの一気に緊張がほぐれていく。
町の非常事態宣言も解除され、平穏に戻っていた。
「すまなかったな、少年これからこのトリスタン自治領主に説明をしなければならない、一緒に来てもらえるかな。」
「仕方ないね、これだけ騒ぎになっちゃったしね。」
レインは衛兵と共に領主館へと歩いていく。
ドラゴンとグリフォンは門の外でお留守番となってしまった。
領主館に着くと年老いたメイドが案内してくれる。
「こちらでお待ちください。」
応接間であろう場所に案内されたレインは周りをキョロキョロ見ている。
掃除はされているがかなり古く傷んでいる。
少し経つと、一人の老人が杖を突き年老いたメイドに支えられ応接間にやってきた。
「待たせて悪かった。体が動かなくなっていてな。」
「そうなんだ気にしてないよ。よんでくれれば部屋まで行ったのに」
レインのあまりにもフレンドリーな物言いに老人は笑ってしまった。
「アハハ、そうかそうかワシの寝室に呼べばよかったのだな。アハハ」
老人はトリスタン自治領主の最後の一人だと説明をされた。
トリスタン王国は過去はシーラ王国とライバルになるほどの国であった。
それが戦争で負け、領地を削られ、王族が戦死、貴族達も多くが戦死していった。一度弱った国は各国の餌食になっていく。
人、物、金とトリスタン王国からどんどんなくなっていく。トリスタン王国の王族たちは必死に食い止めようとしていたが一度できた流れを止める事は出来なかった。止める策が出来ると戦争になりまた領地が無くなる。トリスタンは疲弊してもう戦う事も出来ない状態となっていた。前王も心労がたたり早死にしてしまった。王族たちも死に今残っているのは前代王である、この老人一人となっているのである。
「少年はドラゴンを使役しているのか。」
「友達だよ。」
「そうかそうか、友達か。」
老人は嬉しそうに笑っている。
レインはまだ自分が名乗っていない事に気づき
「あっレイン・オリオンと申します。」
「ワシはテトラート・トリスタンこの自治領主だな。」
少し悲しそうに微笑んでいる。
老人とレインはそれから子と孫の様に話始める。老人の話はレインにとって面白かった。トリスタン王国の伝説、繁栄、など物語のような話であった。
レインは今までアレクや兄弟達からあまりそのような話を聞いたことがなかった。
生まれた時から忙しい父アレクとはあまり遊んでもらっていない。仲の良い兄弟達はいるがみんなで遊ぶだけであり、老人の様に伝説や物語を聞いたことがなかったのである。
レインも他の兄弟達も気づいてもいないが、自分たちが伝説になり語られている事を知らない。
真夜中まで老人の話を聞いたレインはその日はこの屋敷に泊まる事になった。
仲の良い子と孫のようであった。
その夜、レインは夢を見た。老人と他の人たち多分老人の家族たちであろう。みんながレインを可愛がっている。夢の中であるがレインはトリスタン王国の家族になっていた。