442話
んーーーーーん。
アレクは家臣の恩賞で悩んでいた。
アレク艦隊は、アレク隊、空兵隊、乗組員がいる。主に戦闘する者はアレク隊と空兵隊であるが、それだけではない。
艦の乗組員は主砲や副砲などの攻撃もする。他にも兵站輸送など色々と仕事はある。戦闘職が派手な武勲を上げるのに比べ艦隊乗組員たちには派手な武勲はあまりないのである。それは仕方のない事ではあるが、出世を考えるとアレク隊、空兵隊の隊員の方が早くなる傾向があった。
アレクはここ数年の戦歴と武勲の資料と睨めっこしている。
アレク艦隊、アレクの個人艦隊である。所属はSEオリオン王国であるが、SEオリオン王国ではなくアレク個人に忠誠を誓っているのが特徴である。
アレクはここで纏めて恩賞を出すことにしたのである。
まずは艦隊の各艦長に準男爵位と大佐の階級。(大型戦艦は男爵位)
アレク隊隊長と空兵隊隊長、ワイバーン隊隊長にも男爵位と中佐の階級。
各隊の小隊長にも騎士爵位と少佐の階級にする。
各艦の砲術長、機関長、航海長などにも騎士爵位と少佐の階級を授ける事にした。
軍の階級はSEオリオン王国の階級である。
アレクは今回の領地の人選に悩んでいた。出来れば選んだその者がこの場に残り統治してもらいたいと思ったからである。アレク艦隊の者から選べば代官を置く事となる。アレク艦隊を退役する者でなければこの地に残る事が出来ないからである。
「艦隊を駐留させるか。」
アレクはアレク隊、空兵隊、ワイバーン隊の長と各艦長を集め会議を開いた。
そこでアレクの考えを述べ、マルテから公都までの統治をどうするのかの意見を聞いたのである。
「少し早いが退役する者を統治者にしようと思う。」
これには皆納得である。いずれは軍を退役する。退役後はアレクより爵位と領地を貰い国へと貢献する事になっているからである。アレク艦隊の者達は安全な場所を領地として貰う事はない。戦闘の発生の可能性のある場所に領地を貰う事になっている。後は新規開発地である。
「流石に公都など全体を見る者は政治に精通したものを選ぶが、他は戦の出来る者にするつもりだ。この地はルシア王国内という特殊な場所である。戦えない者には無理だろう。我がアレク艦隊の者達ならば問題は無いがな。」
「閣下、退役を募るのですか。」
「この中で推薦したい者はいるか。」
皆が一斉に一人の男に注目する。
「デルク艦長か」
このデルク艦長は元ローエム帝国の子爵家の4男であった。空に憧れ初めて見た飛行船に心を奪われ、アレクの元にやってきたのである。
ローエム帝国からの移民となり貴族位を捨てまでしてアレク軍に入隊したのである。
「デルク艦長には、この地でアレク艦隊分隊の指揮を任せようと思う。」
「えっ、この地に艦隊を駐留させるのですか。」
「ああ予定では大型戦艦1隻,中型艦2隻、空母1隻、小型艦8隻の分隊だな。」
デルクはもう嬉しそうに顔がニヤついている。
「デルク艦長、顔が緩んでいるぞ。」
アレクの指摘に他の者達が大笑いをする。
「デルク、家族は今SEオリオンだな。」
「はい。」
「子爵としてこの地の伯爵の補佐と分艦隊の司令官に任命する。階級は少将とする。」
大きな拍手が起こる。デルクは皆に頭を下げている。デルクはアレク艦隊の要である。新人から古参の兵まで皆が慕っているのである。
「旗艦は今の艦を使ってくれその方が扱いやすいだろう。」
「アレク様、ありがとうございます。」
それからの人選ははやかった。アレク艦隊の分艦隊がこの地に駐留するのならばと手を挙げる者が出てきたからである。
アレクは艦隊の再編を大がかりに行わなければならなくなった。
「艦隊の再編と新人事はこの地でやる。それまでは各隊訓練に明け暮れてくれ。ついでに新しい町も一つ造るぞ。」
「「「「「はっ。」」」」」
元ワルダー公爵領の公都からマルテの領地は急激に発展するのあった。
マルテの町は隣国との交易ルートになっている為に多くの商人が押し寄せている。税も安くなり出入りが自由になった事が要因である。
そんな頃、隣の元ワルダー領では各地で争いが起こっていた。
ワルダー元公爵は爵位を剥奪され、元公爵となったが納得せずに公爵領第二の都市に居座っているのであった。
これをルシア王国の貴族軍が討伐に向かったが、守る方が優勢に戦いを進め貴族軍を何とか撃退に成功したのである。
これでワルダーの力が少し盛り返したのであった。ルシア王国内でもワルダーに味方する者も出てきたのである。
ルシア王国貴族達はアレク達に手を出さなければ問題は無いと隣地で好き勝手に戦をしている。
その為に新アレク領に逃げ込んでくる難民が日増しに増えているのである。
「アレク様、隣は領地の取り合いが激化してきています。」
「そうだなアーサー、貴族達は領地の取り合いをしているのだな。」
「はい、ルーニア伯爵の説明ではルシア王に近いものに領地を渡すつもりのようです。」
「ワルダーもこの地の貴族も必死だろう。かなりの抵抗するだろうな。」
「そうですな、ワルダー元公爵たちにしてみればもう後が有りませんから、死ぬ気で戦うでしょう。」
「長引くな。」
アレクの予想通りにルシア王国は国中に広がっていった。ワルダー派だけを相手にしていたルシア王は各地より兵を引き上げ元ワルダー領へと派遣したのだ。兵の少なくなった各地域でも王への反乱が起こってしまったのである。
元から力の無かったルシア王は動かせる兵に限りがあった。それを元ワルダー領に集めてしまったのだ。面の皮の突っ張った貴族達は領地を広げる機会ととらえ貴族同士で争いを始めてしまったのである。
こうなるともう止める事は出来ない。誰かが統一するまで止まらないのである。
ルシア王国は群雄割拠の時代に突入したのである。
ルシア王国の隣国も黙っている訳ではない。ルシア貴族の応援要請や勝手に進軍などルシア王国を中心に広がって来ていた。
平和な場所はアレクが譲渡されたマルテから公都の地域だけであった。
この戦いでアレクの領地は戦争特需の恩恵を受けていた。武器や食料とこの領地だけは戦争に巻き込まれない事を商人たちは知っている。ここで仕入れて各地に売り歩くのである。
マルテの町と公都は急激に人口が増えていた。何しろ物資は空輸してくるのだ。物資が無くなる心配がないのである。各国又は貴族達は商人たちに煽られ乗せられていた。物資の心配も買う金の心配もなかったのだ。商人たちにはツケで買う事が出来たのであった。
ここでもリア銀が活躍していた。商人たちに貴族の借用書を担保に貸し出しをしたのであった。
これにはアレクも呆れてしまった。マリアとイリアに忠告迄したのである。「やり過ぎるなよ。」
だが商人たちの勢いはとどまる事はなった。一度走り出したものは止まる事は出来ないのである。