441話
メルト・ルーニア伯爵はルシア王国王城にて王に報告をしていた。
ルーニア伯爵はアレク軍とワルダー公爵軍との戦闘結果と経緯を王に説明する。
「公爵の話と全く違うではないか。」
「さようです、ワルダー公爵一派にまんまと乗せられてしまいました。」
「で、如何する。」
「現状の確認ですが、マルテの町を譲渡したのは公爵です。きちんとした書類が存在しています。それと戦端を開いたもの公爵です。マルテに攻め入っていますのでこれは隠しようもありません。」
「そうなると全面的にこちらが不利だな。」
「此処はワルダー公爵を損切りなされてはいかがでしょうか。」
「ワルダーを切れという事か。」
「それしか方法がありません。」
ルシア王とルーニア伯爵はワルダー公爵を見捨てる事にした。全面的にワルダー公爵を悪者としてルシア王国に被害が及ばないようにしたのだ。
ルシア王はワルダー公爵領を公都までをアレクに譲り、それ以降は進軍を止めてもらうようにルーニア伯爵と話し合う。
「それでアレクス・オリオンは納得するのか。」
「分かりませんが、領地が欲しいわけではないでしょう。ワルダー公爵の身柄なり謝罪があれば納得すると思います。」
「そうだな、アレクス・オリオンは広大な領地を持っているのだったな。小さな領地などどうでもよいのだろうな。」
ルシア王は寂しそうに笑っていた。
ルシア王国は小さな国ではない。フロンティア大陸内では中堅国家である。ただワルダー公爵の力が強すぎて国政が上手くいっていないのである。
ワルダー一派は国政の中枢にまで力が及んでいた。各派閥の役職の取り合いに明け暮れ改革が進んでいないのが現状であった。
そこにワルダー公爵とアレクの争いが生じたのだ。ルシア王としてはこれを利用してワルダー一派を排除する事にしたのである。
ワルダー公爵の領地はルシア王国の10分の1の広さがある。アレクに譲渡する公都までは王国の30分の1の広さとなっている。では残りの30分の2の領地はどうするのか。
王は自分に従う貴族に手柄を立てさせ分け与えるつもりだ。
「貴族にワルダー公爵領に進軍させるのですか。」
「それしかあるまい、手柄がなければ領地も渡すことが出来ないからな。」
ルーニア伯爵は一抹の不安が頭をよぎった。そんなに思い通りに物事が上手くいるのか。
それでも王の決定である。従うしかないのだ。
ルーニアは急ぎアレクの元へ向かった。
ルーニア伯爵はアレクにルシア王との話を説明した。
「落としどころか。」
アレクはルーニアの提案を受け入れた。
アレク軍が侵攻するのは公都までとする。公都より北には進軍しない。
マルテから公都までを正式にアレクス・オリオンにルシア王国より譲渡証明をだす。これは貴族同士の争いであって国と国の争いではないとルシア王国が体裁を整えるためであった。
「アレク殿、申し訳ないが、このまま公都へ向かってくれ。」
「そうだな、公都を占領しないとならんからな。」
「出来れば民たちは殺さないでもらいたい。」
「それは心配するな。なるべく被害の出ないようにするぞ。」
アレクは、翌日には公都へ向かい進軍した。ゆっくりと堂々と進軍していったのである。
その間にもいくつかの村があったがアレク軍にすべて無血開城していった。村人たちも最初は恐れていたようだが、略奪も暴行も何もなく食料でさえアレク軍は金を払い買っていくのである。
村は好景気に沸いていた。商人たちもアレク軍へ商売にやってくるほどであった。
「徒歩の進軍は疲れるな。」
「アレク様、それは仕方のない事です。普通は皆徒歩で進軍です。」
「そうだな、オリオン王国は飛行艦があるからな。」
アレクはしみじみと思う。飛行艦があってよかった。
翌日、アレク軍はワルダー公爵公都の見える位置まで進軍していた。
「どうだ公都の様子は。」
「はい、兵がいないように思われます。」
「他の村や町に貴族達が攻めているのだろうな。」
「そうでしょう、そのために兵を向かわせたのでしょう。」
アレクの予想通り公都にはまとまった兵は残っていなかった。ワルダー公爵も逃げており、無血開城となっていた。
ワルダー公都に残っていたのは公爵の妻と子たち、下級貴族の代官達(役人)であった。
下級貴族達はアレク軍に素直に従ったが、公爵夫人はそうはいかなかった。
ワルダー公爵が置いていったのも分かるほどに悪妻であった。
何を言っても聞かない、喚く、侮辱するの3拍子揃った悪妻である。
アレクはそのまま放り出すことも考えたが、ルシア王国王都へ護送する事にした。
「何だあの女は、今迄あそこ迄酷いものは見たことがなかったな。」
「そうですね、ワルダー公爵が哀れに思えてしまいました。」
「アレク様、この公都は今いる役人たちに任せますか。」
「いや、アレク隊と空兵隊の者の中で統治者を決める。」
その日のうちにアレク艦隊全体にアレクの意向が伝えられた。アレク艦隊全体が浮足立っていた。
アレク艦隊は平民の集まりである。アレク隊、空兵隊、アレク艦隊隊員たちは、貴族になり領地持ちになる事を目指している者が多くいる。アレク艦隊は世界で一番武勲を上げる事の出来る軍なのである。
多くの者は武勲を上げ貴族となっている。純粋に軍人としてやる物も多くその者達は代官を雇い領地を統治させていた。
「マルテの町はいいとして公都と村は10村あったかな。」
「はい村が10とこの公都です公都もかなり広いですので4つに分ける事が出来ます。」
「そうだな公都に伯爵一人、その下に4人の男爵で公都とマルテ迄を統治させるか。それと10の村には騎士爵一人で2つの村を統治で5人でどうだ。」
「村はそれでよろしいかと思います。ですが公都は領地を分割しますか。」
「公都は役所と貴族街、商業地区、居住地区だろう。分けても仕方ないだろう。」
「この場に残っている役人(貴族)は如何いたしましょうか。」
「準男爵と男爵たちか。」
「はい。」
「爵位はそのままで様子見でいいだろう。使えなければ降爵だ。」
「それでアーサー、誰を伯爵にする。」
「そうですね、今回の戦いではアレク隊の1番隊隊長が一番ですが、前回などでは空兵隊の2番隊隊長でしょうか。」
アレクはこのところ家臣たちに恩賞を渡していない事に気づいてしまった。
「あっ。」
この日、アレクは家臣たちの武勲の懸賞を夜遅くまで行っていた。