44話 働く者達
ルドルフは忙しい。
結婚と同時に、男爵に陞爵していた。
次期伯爵ではあるが、現状当主の準男爵では恰好がつかないとの理由で男爵になっていた。
準男爵と男爵では貴族としての地位が全く違ってくるのだ。
騎士爵、準男爵は金で買えるのだ。だが男爵以上は、金では買えない。王国への貢献、功績がなければなれないのだ。
「ルドルフ男爵閣下、この書類をお願いいたします。」
「これはイリアに回せ。こちらではできない。」
「ルドルフ男爵、お客様です。メイルード子爵が面会を求めています。」
「予定は。」
「予定はありません。突然いらっしゃいました。」
「理由は、分かるか。」
「はい、ご子息への配慮だと思います。」
「困った人だな。しょうがない会おう。」
ルドルフは長兄として、育ってきた。下の兄弟の面倒をみて、話を聞き、無茶な兄弟達の調整をし叱り、たまに逆襲を喰らうが一番兄弟で頼りにされているのだ。
配慮が出来る男なのだ。相手によるが。多分
「メイルード子爵、今回のご用件は。」
「これは、これは。ご結婚おめでとうございます。こちらはお祝いの品でございます。」
「祝いとして、受け取ろう。」
家臣に合図を送り、品物をもっていかせる。
「実は、お祝いの件もあるのですが、我が嫡男の魔法試験の、ご配慮をお願いしたく伺いました。」
「先日の魔法試験でのことでしょうか。」
「左様です。なにとぞご配慮を、お願いいたします。」
メイルード子爵の嫡男は、中級魔法の試験に3回落ちていた。素行が悪く、試験以前の問題のようだ。
ルドルフは考える振りをする。
「わかりました。配慮しましょう。だが、1か月間、ご子息を私が預かります。配慮はその後です。」
「おぉぉ、ありがとうございます。これで我が息子は、嫡男としてやっていけます。」
メイルード子爵が帰る時に、ルドルフ男爵家より、返礼品をお祝い品の3倍で返していた。
ルドルフは、公明正大だ。お祝い品の公開、返礼品の品書きをすべての王国貴族、王国民にまで公開していたのだ。
王国民は、興味深々で展示している建物に押し寄せていたのだ。
王国民の噂は怖かった。あの貴族はしみったれだ。あの貴族はケチだ。等、色々と噂が噂を呼び、下手にルドルフに媚びを売ることが出来なくなっていった。
ルドルフはクリスと結婚したので、廻りが騒がしくなり問題が起きるようになっていたので、苦肉の策として公開をしたのだ。
「本当に、配慮するのですか。」
「配慮などしない。レオンに1か月、預ける。手配しろ。」
「そ、そうですか、更生されて帰ってくるでしょう。」
レオンは、この話が来た時に、渋い顔をしていた。「うちは更生施設ではない。」
といったが、受け入れていた。兄の頼みは断れないのだ。
それからもルドルフは、分刻みのスケジュールをこなし、緊急の対応をしていた。
働き過ぎである。
ハロルド、エレメル分の仕事も受け持っているので何しろ忙しい。
ルドルフは、それがいつもの事なので、まったく気づいていない。
働き過ぎなのはルドルフだけではない。
マリアとイリアも忙しい。いや怖い。
「王国法、第11条の条文が違うわよ、やり直し。」
「12条2項の意味が解らない、やり直し。」
「えっ、休みがほしい。いいわよ休みなさい。あなたの仕事は、ここに置いておきます。
休み明けに処理しなさい。」
同僚が、ここぞとばかりに、書類を積み上げていく。休んで出勤したら、仕事が10倍にはなっていそうな勢いなのだ。休めない。休めるわけがない。
「イリア。そっちの部屋の人たちに覚醒魔法、眠れないやつ。この部屋は私がやるから。」
「わかったわ、これで24時間働けるわね。」
マリア、イリアはローエム王国の法律の見直しをしている。そして新たに法律の作成をしていたのだ。
王国は民がいる法律がないと、国が動かなくなってしまう。
一刻も早く、法律の完成が待たれているのである。
部下たちもそれはわかっているのだ、王国に勤めるエリート集団なのだ。
だが、マリア、イリアには敵わない。
部下たちは48時間勤務である。2日働き、12時間休憩の繰り返しだ。
それだけやっても、マリア、イリアの8時間労働に追いつかない。
マリア、イリアの指示がくる。だから仕事がドンドンどんどん、溜まっていく。
かつての、オリオン領都の家臣のように、みんな目が死んでいる。今頃、オリオン領都の家臣は、ゆっくりと眠っているだろう。
「王国基本法の発布までに、付随する条項を作るわよ。」
部下は返事もしない。もくもくと仕事をしている。たまに発狂した部下は、医務室に運ばれていく。
「マリア、魔法法の3条は4項が矛盾しているわ。やり直しをさせて。」
「この字は、部下ビーね、やり直し。」
王城でこの近くに近づく者はいない。近くを通ると仕事を振られるのだ。
この部署の近くを通っただけで仕事を振られる為、他所の人が避ける、目を合わせない、逃げていくのだ。
この話は、国王にも話が行った。国王が興味をもって部署を見学に行ったが、国王まで仕事をさせられた。決定権者が近くに来たのである。ここぞとばかりにマリア、イリアは国王に決済を仰いだ。帰してくれなかったのだ。国王は隙を見て逃げだした。
国王は、マリア、イリアの話題を出すことはなくなった。
王城でマリアとイリアが、歩くと人が分かれていくのだ。隅に人がへばりつく様に避けていたのであった。
魔王と、呼ばれていた。 誰が言ったのかは言えない。