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424話

アレクは王都の防壁の上に立つ女性に声を掛ける。


「私はSEオリオン王国のアレクス・オリオンだ。貴国は降伏するつもりはあるか。」

防壁の上の女性はフーッと大きなため息を一つはいている。

「降伏は受け入れられるのですか?民の安全はどうなりますか。」

「我らに反抗しなければ、民にはそのままの生活をしてもらう。」

「分かりました、使者を表に出します。降伏いたします。」


アレクは、こんなに簡単に降伏してしまうのかと不思議に思おった。それならもっと早く降伏していてもおかしくないのではと思ったからである。


これには少し理由があった。


この防壁に立っている女性はこの国の王女である。

父である王はアレクの親書に怒り狂い平原で戦いを挑んだ。だがカイン率いる獣人達に殲滅させられてしまったのだ。誰一人生き残ることなく殺されたことから、王都の民や貴族、王族の者達は恐怖した。王都にはもう戦力が残っていないのである。戦うすべを失った民たちは王都を離れ逃げようとしていた。

王女はこのまま何もしなければ蹂躙されると思い、民を逃がす時間を稼ぐ決意をしたのであった。

それが無防備(裸)で敵の前に出る事であった。


丸一日防壁の上で敵前に裸体をされしていることは、精神的にもかなりきつい事である。民の逃げる時間を稼ぐための策であるが、カイン達には民が逃げていることを知っていた。あえて民には手を出さないようにしていたのだ。

獣人達は民を攻撃する事を良しとしない。相手が騎士や兵士であれば殺すことも何にも問題ないのだが戦う事の出来ない者には獣人達は手を出せないのだ。これは獣人達の矜持であった。



アレクが防壁から離れると女性は崩れ落ちるように倒れてしまった。


二時間後王都の門が開き1台の馬車が出てきた。

騎士も護衛も連れずに馬車1台だけである。


アレクは度胸があるのかただの馬鹿と思うが度胸だろうと思っている。裸体で防壁の上に立ち民を逃がす時間を稼ぐなど、度胸以外ないからだ。



獣人軍と王都との間に天幕が張られている。そこにはアレクとカインが待っていた。

馬車は天幕の前で止まり、降りてきたのは先ほどの女性とお付きの者二人であった。


「サウジ王国、王女メルーサ・サウジと申します。」

「私はSEオリオン国王、アレクス・オリオンだ。」

「獣人国王、カイン・オリオンだ。」


王女は降伏を申し出た。その代り民の安全の保障だけを条件にしていた。


「あなた達王族の安全の保障は要らないのですか。」

「はい、いりません。先ほど平原での戦に敗れ、サウジ王国には戦力が残っていません。戦うすべを失った国です。民の生活が保障されるのであればそれだけで構いません。」


「私たちはあなたが防壁の上に立っているときに真裏の門より民が王都より去っていくのは分かっていました。あえて民には攻撃しなかったのですよ。」

「そうでしたか、これほど優秀な軍ですものね、民が逃げている事等お見通しですね。」

がっくりと項垂れるメルーサであった。


「あなたが防壁の上にいなければ攻撃していたでしょう。あなたの策は見事です。精強な獣人部隊の動きをあなた一人で止めたのです。」

「そうだぞ、俺はあれで完全に攻める事が出来なくなった。大した女だ。」

少し顔を赤らめながら言い放つカインである。その言葉を受け止めるメルーサも俯いて少し顔を赤らめている。メルーサは防壁の上で裸体を晒した事が今更に恥ずかしくなってきたのだ。あの時は必死過ぎて恥ずかしいなどと言っていられなかった。

城の中の者達は泣き叫び、茫然としている者達ばかりであった。平原の戦いに男たちは誰も戻ってこなかったのだ。残された女子供と戦えない老人たちしか残っていなかったからである。


まだ民たちの方が冷静であった。戦いに負けたことで王都を離れようとしていたのだ。だが民たちの足は遅い。少しでも時間を稼がなければならなかった。

そこで一人の女性が時間稼ぎをすると言って防壁に行ってしまったのだ。

民たちはそんな事は構わずに逃げる支度をしていた。

すぐにでも攻撃が始まると思い急いでいたが、一向に攻撃が始まらない事を不思議に思い。様子を探りに行った所王女が裸体で防壁に立っていることが分かったのである。


そんな事を知った民たちは二つに分かれた。一つは王都から逃げ出す者達、もう一つは王都に残る者達であった。

この王都での丸一日は誰も住んでいないと思う程、静かな物であった。2万の軍と王都の民10万。



「メルーサ王女、貴国の降伏を受諾する。残っている民たちには一切手を出させぬことを約束しよう。」

「ありがとうございます。」

「これからの事については、後日にしよう。貴殿も疲れていよう。3日後にサウジ王国の城にいく。用意していてくれ。」

「分かりました。ご配慮感謝いたします。」

王女は礼をして天幕を出ていった。


アレクの言葉は意味があった。王女が降伏をしたことで反感を持つ者がいる事が分かっていたのだ。それを抑える事に多少の時間が必要であった。それが3日後まで時間を貰えたのだ。

このまま話が進めばサウジ王国は割れていたであろう。王都と周辺には兵が残っていないが貴族の領地(貴族兵)は残っている。


サウジ王国には戦死した王と王子3人と貴族当主など合わせて4万にも上っていた。

周辺から集められた4万はまさに死兵であった。切られても腕が無くなっても獣人達に挑み続けてのだ。

指一本動かせなくなる迄、戦い続けたのであった。そして4万すべての者達が死んで戦いは終わった。


このサウジ王国は男の身分がかなり高い。女には権限が何もないのであった。幾ら王女と言っても勝手に降伏をしてしまう事は出来ないのだ。




メルーサ王女には一つの考えがあった。残された王族は女だけしか残っていないのだ。一つの決意を胸に城へ戻っていった。


アレクはサウジ王国に一つの噂を流した。いや事実を伝えただけであった。

サウジ王国の王女がカイン軍の進軍を一人で2日も止めた。それにより多くの民の命が救われたと各地に流したのだ。


会談の当日に流されたこの噂は翌日には皆が知る事となった。


サウジの王都に王女を応援する勢力が現われたのだ。

権力の無いサウジの女たちは学も無かった。勉強する事も許されず。ただ家庭に入る事だけが生きる道であった。この王女はまだ少し他の女とは違い、多少学ぶ機会があった程度であるが、それがこのサウジの窮地を救う形となっていた。



サウジでは変革の3日間と言われる激動の3日が過ぎたのであった。



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