423話
ルーデン王国そこは美しい国である。国土としてもフロンティア大陸でも大きい国であり、港もあり栄えている。
アレクは艦隊を引き連れてルーデン王国の王都まで来ていた。
大型戦艦3隻、空母2隻、中型艦3隻、小型艦20隻の大艦隊である。王都の外へ着陸した艦隊はそこで待機である。
迎えに来ていたルーデン王家の者達は緊張で顔が強張っている。
これからの会談によっては戦争になるからである。
アレクは、ルーデン王国の用意している馬車に乗り込み城へ向かった。
城内の貴賓室であろう、部屋へ通され10分ほど待つとドアが開き、年のころはアレクと同じ30代の男が現われた。同じぐらいの齢と言ってもアレクは見た目がどう見ても20代前半にしか見えないのだが。
「ようこそ我がルーデン王国へ。」
にこやかに笑う、この男さわやかすぎるとアレクの第一印象であった。
「SEオリオン王国の王であるアレクス・オリオンだ。」
「ルーデン王国の王である、ヘルメス・ルーデンです。以後良しなに。」にっこり。
アレクとルーデンの会談は、ルーデン王国は戦争の意志がなく、問題なく従うという事であった。
アレクの印象はこの国は情報機関があるのではと思うほどにオリオン王国やアレクの事をよく知っている。
その情報から導き出された答えが従う事であることが話の節々で分かってくる。
「ルーデン王、兵は出せるか。」
「出来ましたら兵は出したくありません。」
「そうだろうな、無理に他の国から恨みを買いたくはないよな。」
「さようです。ルーデン王国は他国との交易に力を入れていますのでご容赦願います。」
「ルーデン王国の武器は他にあるのだな。」
ルーデン王は持っていた紙の束を差し出す。アレクはその束を受け取り中を確認していく。
「流石だな。ルーデンの情報網は世界中にあるのだな。」
アレクに渡された紙の束はアース大陸の情報、タンドラの情報、フロンティア大陸の情報と世界中の情報が書かれていた。
「我が国の独立を保証していただければ、アレクス王の為にお仕えいたします。」
「そして俺からも情報を抜き取るのか。」
「いいえ、それは致しませんよ、仕える主ですから。」
「まぁよい。多少は働いてもらうぞ。」
ルーデン王は単純にアレク達には敵わないと結論を出していた。敵わないのであれば仲間になるしか残されていないのだ。
ルーデン王は最初、戦争するつもりでいたのだ。だがアレク達の情報が王へ上がってきた時にその内容に驚愕した。人の成せる範疇を逸脱している所業である。こんな事が出来るのかと疑ってしまう程である。
これでは勝つ事等出来ないと判断したのである。
「これだけは守ってもらう。特にルーデン王国は聖アース強国の隣だからな、肝に銘じておいてくれ。他宗教を認める。宗教同士の争いには国はどちらの味方もしない。オリオンの作る大陸機構に参加する。」
「ほーぅ、宗教の争いですか。」
「争いになるかは分からんがいずれ摩擦は出てくるだろうな。聖アース教国は国として教会を認めているが政治には口出しはさせていない。」
「アレクス王、それでも聖アース教の幹部が国の中枢にいるのではないですか。」
「あぁいる。だがその幹部はすべてこちらの駒だ。問題は無い。」
「さようでしたか、まだまだルーデンの諜報部も甘いですな。アハハハハ。」
「心配はない。オリオンの味方であれば問題にもならんな。何しろ聖アース教の神は私の兄だからな。」
アレクとルーデンの会談は滞りなく終わった。
すんなりいきすぎて拍子抜けしていた。アレクは何か裏があるのではないかと勘ぐってしまう程であった。もちろん裏などはない。
「アレク様、ルーデン王国は如何いたしますか。」
「アーサーか、様子見だな。それとこのまま帰るのも何だな。カイン兄の様子でも見ていくか。」
今カインはオリオンに反抗する国へ軍を率いているのである。カイン率いる軍は兵2万と少ないが、獣人の軍は強い。
従う事を拒否した国はドラゴンの噂を信じなかった国である。フロンティア大陸は広い。
数千キロも離れた場所に起こった事等、普通は気にしない。すぐに自分たちに影響が出るなど考えないからである。
況してはドラゴンが神として崇められている。大噴火を沈めた。聖アース教が国を建国したなど、自国には全く関係の無い事だからである。
それが突然の親書である。その内容も過激であった事から無視や反感を多く買っていたのである。
アレクの狙いもその辺にあった。武力を一度も見せないで従う事は後に反抗される恐れがあるのだ。オリオンは強いという事を徹底的に分からせることが狙いであった。
これで殺される兵はたまったものでは無いが、アレクはこの方法を選んだのである。
「アレク様、カイン軍の上空に到達しました。これより着陸いたします。」
「分かった。」
「カイン兄、久しぶりです。どうですかこちらは。」
「おーアレクか、相手が弱すぎだな。」
カインは面白くなさそうに答えている。敵国の兵が余りにも弱いのだ。こればかりは仕方のない事である。カイン軍が強すぎるのだ。
アレクは苦笑いを浮かべるだけであった。
「カイン兄、相手国は降伏したのですか。」
カインはスッーと目を逸らす。
「エッまだ降伏しないのですか。」
「いやー、平原での戦闘では兵たちを倒したんだけどな、それから王都に籠ってしまったんだよ。」
カインが王都の方を指さしている。
そこには王都の防壁の上に1人の女の人が立っている。それも裸である。
その女の横には大きな旗がはためいている。私を倒してから行きなさい。
どう見ても戦闘向きの体型はしていない。獣人達も強い相手ならば戦いを挑み倒す事に躊躇はしないのだが、戦うすべを持たない者に対しては躊躇してしまうのである。それが武器も持たずに裸で人前に立っているのである。カイン達は誰も進めなくなっていたのである。
アレクは拙い時にきたと思い、さりげなく艦へ戻ろうとしていた。それを見逃すカインではない。
「アレク、頼む。俺たちではどうにもならない。」
拝み倒すカインと獣人達、困った顔のアレクであった。
「分かりましたよ。その者と話してきます。」
肩を落としたアレクはゆっくりと王都防壁に向かい歩き出す。「ハーーーーッ。」
何故か大きなため息が出てしまうのは仕方のない事なのだろう。
アレクは防壁の上に立つ女に声の届く距離まで近づいた。
余り近づくと悪いような気がしていたからである。何しろ相手は真っ裸である。下から見上げるのが躊躇してしまうからであった。