417話
ミルトン第一艦隊
「陛下、もうすぐ山脈のトンネル予定地です。」
「分かった、予定着陸地点に着陸してくれ。」
「了解しました。」
オスカーは山脈のど真ん中にある平地に艦隊を着陸させていた。
「かなり標高が高いな。」
「はい、この場所で標高1000メートルです。」
「やっぱりこの高さまで来ないと難しいのかな。」
オスカーはもっと簡単にトンメル工事が出来ると思っていた。迷宮都市のトンネルはほぼ平地と通している、だが今回の計画では今の場所を中心として坂道となるのである。
「山脈のすそ野からでは、トンメルが長過ぎとなります。この場所でないとかなり無理が出てきます。」
「そうだよなさんざん調査してこの場所となったんだからな。それでこの場所に町を建設するんだね。」
「はい、トンネルが開通しましたらまずは鉄道を敷きます。それで大量の資材を運び込み町を建設する予定です。」
「出口(北部)の方は大丈夫か、」「心配ありません。山脈内で出口を作り街を建設する予定です。」
「よくみんな納得できたね。」
「それはマリウス皇帝とアレク王の威光でしょう。」
今オスカーと話している者はトールという、ミルトン王国貴族の者である。このトール中々の交渉上手である。
山脈のトンネル工事を北部の国へ提案した時に出口を絶妙な位置にしていたのである。イングリット王国とオーガルト王国の国境線上にトンネルの出口を造る計画をしたのである。両国はトンネルが完成すれば経済効果で景気が良くなり国も潤う事は理解している。そのために反対という意見は無いのである。反対はしないが少しでも良い条件にはしたい。ところが計画を見てみると国境沿いである。完全な自国内であればもっと交渉もやり易かったのであろうが、無理を言おうものならば隣の国寄りにトンネル計画が少し移動しそうになるのでミルトン王国と交渉されるともう言いなりになるしかなかったのである。
またイングリット王国とオーガルト王国の両国も自国内に出入口をと願い、足の引っ張り合いになっていた。
この両国は過去に戦争している為に仲が悪かった。
完全なミルトン王国の政治的勝利であった。
「出口からは街道を通して両国との交易が出来るようになるな。」
「はい、街道と鉄道を通します。北部の所要街道へとつなぐ予定のなっています。」
「今ある鉄道網は大陸横断の鉄道だ。それも大陸の中央から出ているものだけだ、だが今回は大陸の東寄りからぐるっと回す事が出来るな。」
「壮大な計画ですね。完全に資金不足になります。」
「お前夢も希望もない事を平気で言うなよ。」
「陛下、現実を見ましょう。ミルトン王国は多少裕福になりましたが、ローエム帝国、オリオン王国に比べますとかなり貧乏です。」
「それは比べる相手が悪いだろう。他の国と比べればかなり裕福な国だぞ。」
「陛下、高みを目指しましょう。」
オスカーはミルトン王国はかなり裕福な国だと理解している。ローエム帝国やオリオン王国と比べて多少劣るが、アース大陸の中では裕福な国である。それは初期のオリオン家とのつながりがある為に優遇されているからである。だが一部のミルトン王国の者からしたら意見が違うようである。
同じ時を過ぎたのにオリオン王国はミルトン王国より栄えている。北部の雄。ローエム帝国も同じである。過去に鎖国同盟迄結んでいる国でミルトン王国だけが出遅れている感がミルトン王国民たちの中にあるのであった。
オスカーの隣にいるトールでさえ、その傾向が残っているのである。
「トール、いいか発展や繁栄は、国によって違いが出るんだ。急速に発展させる場合と一つ一つ開発をしていくやり方だ。前ミルトン王は愚者ではない。一つ一つ開発をして無理の出ないように国を栄えさせてきたのだ。それは分かっていると思ったのだがな。」
オスカーはトールをじっと見つめている。
「も、申し訳ございません。オリオン王国やローエム帝国の繁栄を目のあたりにしてきて少し視点が濁っていたようです。」
「すぐには納得も出来ないだろうが、多分前ミルトン王はわざと遅くしたのかもしれないな。」
「えっ、それはどうしてでしょうか。」
「多分だけど、貴族達の増長を嫌ったんだと思う。」
そうミルトン王国はやろうと思えばもっと発展を出来たのだ。
ミルトン王国の貴族達は戦争が亡くなり我が世の春を満喫していた。緩やかであるが国は発展し、経済も右肩上がりである。何もしなくとも暮らしていけるミルトン王国貴族達は世間と多少ずれていっていた。
ミルトン王国を出てオリオン王国で遊びまわり帰ってくる。ミルトン王には情けなく映っていた事であろう。
オスカーの言葉を聞いたトールには思い当たる事が多くあった。酒を飲みながら出来もしない事を不満を言う貴族達、裕福な民たちの中にもオリオンの繁栄を比べ不満を言う者も多くいたのである。
ミルトン王の苦労は並大抵では無かった。文句ばかりで代案もない者達の言葉を聞いていたのだ。国王が何とかする。これがミルトン王国の実態であった。貴族達はその苦労して得た利益を貰うだけの存在であった。
「これからは貴族達には苦労してもらう、それが出来ない者は貴族の資格がない者と思え。」
これは後日オスカーが貴族の前で正式に通達をした言葉であった。
国を富ませるのは民たちだ。貴族はその管理と手助けをしているだけである。
トンネル計画に始まり多くの公共事業を計画しているミルトン王国である。ミルトン王国以外に商会などもミルトン王国に来ている。その前での宣言である為にこの話は世界中に広まっていった。
注目を集めるミルトン王国貴族達は下手なことが出来なくなっていた。貴族の放蕩息子が他国で騒ぎでも起こせばミルトン国民が頑張っているのに貴族は何をしていると、他国の目がミルトンに対して厳しくなっていったのだ。
そんな馬鹿息子などは早々に斬り捨てられていった。次男、三男以降でも優秀な者が貴族家の当主となる家がミルトン王国内では多くなってた。
何しろ有能でない者達では貴族位を守る事も出来ない状態になりつつあったのである。
「トール次は、北部の出口を視察に行こうか。」
「はい陛下。お供いたします。」
オスカーには自分なりの計画があった。
ミルトン王国は豊かでいい国であるが、もっと大国にしたいという思いがオスカーにはある。南部では関係国に囲まれてもう手出しが出来ない状態である為に北部に活路を見たのである。