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410話

ローエム帝国のある田舎町


この田舎町でもローエム帝国皇帝マリウスが国内開発に力を注ぐことが話題になっていた。

ローエム帝国はもう十分に広いここで他の国へ侵略しなくとも土地は余っているのである。だが一部の者達から見るとそうではない。

一部の者達とは貴族の次男、三男のような者達である。この者達は何か功績を上げなければ貴族として残る事が出来ない。いや残ることは出来る。結婚せずに家に居座っていれば貴族籍を抜かれる事はない。


通常の次男、三男は貴族の令嬢と婚姻しても爵位を継げなければ準貴族として扱われるがその子供は完全な平民となる。そのためにどうしても爵位を授かりたいのであるが、これが中々難しい。戦場で功績を残せれば一番分かりやすく誰でも納得する。

その功績を遺すチャンスが無くなろうとしていた。皇帝マリウスの発言が国中を駆け巡っていた。


マリウスとしては世界征服をしないと言ったのだが、それを受け取る者達は、帝都から離れている者達ほど戦いをしないという後ろ向きの噂になっていた。マリウスも自身の発言がこうも影響するとは思ってもいなかった。皇帝に即位してまだ間もないためにここまでの影響が出るとは考えていなかったのである。

前皇帝の影響力がなかったためにマリウスは少し誤解してしまっていた。自分が英雄であり帝国の守り神のような存在であることを失念していたのだ。



ローエム帝国のある田舎町でのこの噂で次男、三男が集まり何やら画策している。

故意に戦争を仕掛けようとしているのだ。

「どうだルービス王国からの返答はあったのか。」

「いやまだない。」

「どうするこのままではじり貧ではないか。」


この貴族の次男以降の集まりで、属国であるルービス王国をローエム帝国へ併合する動きを加速していた。それは爵位を継げない者達が考えた苦肉の策であった。

ローエム帝国内では土地は余っているがもう所有者が確定している。貴族達も態々自分の土地を分け与える事はしない、それが優秀な次男、三男であればありうるが平凡で自意識だけが高い者では没落する事が分かっている為に分ける事はめったにないのである。

その様な風習の為に次男以降の者達は自力で何かを成し遂げなければならなかった。



この田舎町には30から40人ほどの貴族の次男以降たちが集まっている。何故こんな田舎町に集まっているのか、それは帝都では監視の目がきつく動くことが出来ない状態となっている。


この者達の計画はかなりずさんだ。ルービス内で反乱を起こし、自分たちが鎮圧する。その功績をもって爵位を貰う計画である。あまりにも無謀であり、無計画であった。

普通の者が聞けば相手にもされない話であるが、流石貴族の子供たちである。自分の都合のいいように脳内変換しているのだ。成功は間違いなしという事になっている。


「今我らの同士は56人だ、新たに参加してくる者達を含めると100人を超えるな。」

「おぉ、100人の我ら貴族に家臣たちを含めると1000人は超えるな。」

「1000人の騎士がいればかなりの戦火を上げれるだろう。」


この者達毎晩、酒を飲みながら妄想を繰り広げていた。それでいてルービス王国内で反乱を起こす手立てをまだ模索していた。もしルービス内で反乱が起きても、騎士でもない、況しては兵でもない1000人が役に立つ訳が無いのである。その事を全く理解していないこの者達は毎晩の酒で(会合)資金が無くなってきている事さえ気づいていなかった。


そうこうしているうちに田舎町には多くの貴族の次男以降が集まってきていた。毎日落とされる金にこの町はプチバブル状態であった。人口8000のこの町が貴族100人が集まったために人口が2000人も増えていた。


この町の領主である、アラート・パール男爵は頭を抱えていた。プチバブルで賑わう町、浮かれる町人たちであるが、領主にしてみれば大問題である。最初は景気が良くなり喜んだが、今は全く違っていた。無謀な計画が領主に報告されたのである。

このアラート男爵、武芸が優れている訳でも何でもない普通の人である。貴族の子弟たち1000人以上を相手取る事等出来る戦力を持っていないのだ。精々門兵や町の治安維持の為に騎士など数十名である。


「父上、この様な計画が分かったのです、まずは帝都へ報告しなければなりません。」

悩むアラートに天の声が聞こえたのだ。(帝都に報告)

「おおぉお、そうだなでは私が帝都へ行くとしよう。」

「えっ、父上それはありえません、父上は領主です。領主が今戦場になろうかという領地を離れるわけにはいきません。誰か家臣の者に行かせましょう。」

「クレイン、そなたに家督を譲る。」

「はっ、何を言っているのです。父上。」

「そなたは頭がいい、優秀だ。私が保証しよう。この問題を解決できるのはそなたしかいない。だが兵がいない事にはどうにもならんだろう、そこで前領主である私が帝都まで行って陛下に謁見して助けを買うてくる。家臣たちでは皇帝へは御目通りも叶わんだろう。」


もっともらしく繕って話をするアラートにクレインは呆れてしまっている。平凡である父はこの脅威に警告音が鳴りっぱなしなのであろう。急ぎ帝都へ向けて妻と娘を連れて出て行ってしまった。残された家臣とクレインは茫然としている。


「クレイン様、いいえご当主様、対策をしませんと帝国内での

内乱の責任を取らされます。いかがいたしますか。」

「そ、そうだな、このままでは反乱の発信源になってしまうな。」


この新領主、クレイン・パールはかなり優秀であった。生まれて1歳で喋り出し、2歳で読み書きが出来るようになり、5歳のころには内政を任せられるほどにまでなっていた。当時4000人であった人口が8000人にまで増えたのはこのクレインの手腕によるものであった。そのために家臣たちからの信用はかなり高い。クレインがやると決めれば家臣たちは素直に従うほど前領主より信用を得ていたのである。


「まずは貴族の子弟たちが暴走しないように噂を流せ、事が上手くいっていると思わせるのだ。」

「どのような噂ですか、下手な噂など流せば気づきます。」

「そこは大丈夫だ、あいつらは馬鹿だ。都合のいい噂は信じるんだよ。」

パール家の家宰であるモルテはクレインが何を言っているのかが理解できなかった。そんな都合のいい話を教育を受けた貴族達が信じるわけがないと思っていたのだ。

所がクレインの言う通り噂を信じたのである。モルトはクレインに尋ねた、「どうして噂を信じたのでしょう。」

「アハハ、あの者達は何かにすがりたいんだよ、だから都合のいい噂を流したんだ。もし信じなくとも噂だからね、こちらに全く被害などでないだろう。」


そうだただ噂を流しただけである。こちらには全く被害がないのだ。

モルトは改めてこのクレイン・パールが当主となったことが嬉しかった。前当主であった、アラートでは没落もしくはとり潰しの憂き目にあっていただろうと思うのであった。


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