409話
ローエム帝国貴族達は緊張の中にいた。
ローエム帝国の城の中にある大広間に多くの貴族達が集まっている。貴族達はローエム帝国貴族だけではない。同盟国や属国の貴族達も集まっているのである。
その数は優に1000人を超えている。出席者は当主に限られている為にむさい男が多い、中には女性当主もいるが全体的は少数である。
貴族達の中では優雅に話をしている者、緊張で顔が強張っている者、何も考えていない者と色々である。
今回のローエム帝国皇帝とオリオン王国連合盟主との会談は代替わりして初めてである。そのために両国は細心の注意を払い準備をしていた。
皇帝の代替わりの為に、要職にある者も多くが代替わりをしていた。
ローエム帝国側はオリオン王国の配慮の為に通常皇帝は帝国に並ぶものなしという考えから一段高い場所から見下ろす形をとるが今回は一段高いがオリオン王にも同じ高さまで上がってもらう事等、以前までの式典とは違っていた。
式典が始まり、多くの貴族達が見守る中、ローエム帝国皇帝が姿を現し、次に国賓であるオリオン王が姿を現した。内容としてはオリオン王即位の返礼であったが。ローエム帝国とオリオン王国連合の親密さをアピールする狙いもあった。
このアース大陸では超大国の二か国である。二か国に睨まれたらアース大陸で生き残る事等出来ないのである。
式典が終わりに近づいているが、一部の貴族達はなぜか焦っている。
反乱分子の貴族達は式典の途中で皇帝とオリオン王を巻き込んだ爆破テロを仕掛けていたのである。ところがいつまでたっても爆破が起こらないのである。自分たちを守る障壁の効果が切れてしまう時間である。もし万一障壁の効果が切れてしまった後に爆破が起これば巻き込まれてしまう可能性がある為に焦っていたのである。
式典の佳境になっている。自分だけ抜ける事は出来ない。重要な式典であるために途中退室は出来ないのである。途中退室などやらかしてしまった場合は貴族としては村八分になってしまうのである。
ローエム帝国皇帝とオリオン王国連合盟主が立ち上がり、この大広間へ入場を促している。
入ってきたのはアレクである。
アレクは皇帝とオリオン王へと挨拶を済ませると、貴族達へ向きを変えてこの場所でテロが計画されていた事を告げていく。
皇帝と王は知っていたようで平然としているが、多くの貴族達は驚き、憤慨している。
万一爆破が起こればローエム帝国だけではなく、多くの国の重要人物が無くなり大混乱になっていたであろう。
「今から呼ぶ者は陛下の前に来るように。」
アレクは淡々と名を呼んでいく。その数は150名を超えている。呼ばれた者達の顔色は真っ青である。
大広間から出る事も出来ず、武器も持ち込んでいない。武器があっても戦うすべを持っていない者達である。どうする事も出来ないのである。
呼ばれた者の中にはローエム帝国貴族だけではなく、属国の貴族も含まれていた。
「お前たちがなぜこの場に呼ばれたのかが分かるな。」
アレクの強い口調が貴族達に突き刺さる。
「「「・・・」」」
「返答なしか、まぁいいだろう。では説明してやろう。お前たちは一〇日前に決起集会を開いたな。その時の出席者だな。」
決起集会は内密に行われていた。ばれるはずがないと貴族達は思っていた。はっきり言ってばれない方がおかしいのである。貴族当主で150名その他護衛などを含めると数倍の人数である。それが一か所に集まりパーティーをしているのだ。ばれない訳がないのである。パーティーには食べ物や酒も必要だ。商会から購入して準備もしなければパーティー等開けないのだ。
この少しずれている集団、秘密のパーティー(決起集会)がばれる事等考えてもいなかったようである。
驚いた表情をする貴族達、アレクはばれるだろうと内容を説明してやった。
よく考えれば当たり前にばれる事が分かる。がっくりする貴族達、それでも主犯格の者達はアレクにではなく皇帝に言い訳をしていく。
アレクも黙って聞いている。
「集まったがただのパーティーである。」
「謀反など考えていない。」
「言いがかりだ。」
「冤罪だ。」
「図られたのだ。」
「・・・・・・・・・」
「もういいか、お前たちの今言った言葉は此処に居る者達が聞いている。そうだな。」
「当たり前だ、言いがかりを訂正しているのだ。」
アレクはその日行われていたパーティーでの話を録音した魔道具を再生して聞かせた。
それはローエム帝国で今抱えている問題のほとんどであった。フロンティア大陸でも内乱、ローエム帝国内での犯罪行為、属国の内乱計画と陰謀てんこ盛りである。
前に呼び出されていた150名の貴族達は何も抵抗することなく。拘束され連れ出されていた。
残った貴族達は安堵の表情をしているが、それと同時に疑われていた貴族達が簡単に排除されたのだ。空いた領地なりおこぼれがまわってくる可能性が残った貴族達の頭によぎっているのだ。
アレクは皇帝とオリオン王へ礼をすると横に下がっていった。
ローエム帝国皇帝は一歩前にでる。
「今、余の代行者である。アレクス王がローエム帝国の陰謀を排除してくれた。改めて礼を言う。」
アレクは黙って胸に手を当て貴族礼をしている。
「アレクス王にはこのまま余の代行者として、各国を監査してもらう。」
周りにいる貴族達が一瞬にしてざわめく。
「鎮まれーー。陛下の御前であるぞー。」
衛兵に静められた貴族達は我にかえり皇帝に礼をとる。
「余はな皇帝になり国を改革したいのだ。古い体制から新しい体制に変わる事を望んでいるのである。そのためにアレクス王なのだ。アレクス王は一人でローエム帝国さえも滅ぼす力を持っている。」
また貴族達がざわめくが今度は衛兵も何も言わない。ざわめきが自然に収まるのを待ち、皇帝が改めて話し出す。
「この場にいる半数以上は代替わりをしてアレクス王の事を知っている者はいないのだろう。人伝に聞いた話しか知らないのであるが、余が100人いてもアレクス王には敵わない。何しろ余の師匠なのだからな。」
この皇帝の師匠発言は貴族達に衝撃を与えていた。皇帝であるマリウスはローエム帝国の英雄である。一人で戦場へ行き勝つ。ローエム帝国内では神にも等しい存在である。その師匠である。
貴族の間ではマリウスは生まれたときから天才で強かったと噂されていた。ドラゴンを従えた姿はまさに今、流行りの聖アース教の神そのものである。ローエム帝国内では実はマリウスではないのかと噂がされるほどであった。
これにはマリウスも苦笑いしか出なかったようだ。
マリウスはオリオン王国と同盟強化策を出していた。ローエム帝国は覇権を諦めたのだ。




