401話
「ならば私がお前たちに土地を与えよう。だがオリオンの法を守ってもらう。もし万一守れない場合は処断する。いいな。」
「はい分かりました。」
「わ、分かった。」
青人も赤鬼人も一応は納得していた。
「お前たちは仲間に伝えに行け、後日移動するからその準備をするようにな、この場所に残りたい者もいるならば残ればよい。いけ。」
アレクは青人と赤鬼人を追い出すように退室させていた。そしてキンメル王に顔を向ける。
「キンメル王、其方はこの国をどうしたい。」
キンメル王はアレクが言っている意味が分からなかった。キンメル王国は国である、どうもこうもない。国として栄える事しかないのである。
「分からぬか、このままであればキンメル王国は無くなるぞ。」
「なにぃーー、そんなことあるわけないであろう。キンメルは民もいる、家臣もいるそして王である余がいるのだ。」
「キンメル王、お前たちはローエム帝国の兵を何万も殺している。国力で言ったら10倍以上だ、そんな国の兵を殺しているのだ、無事に済むと思っているのか。」
「アアレク王、其方は先ほど戦争はしていないといったではないか。」
「戦争はしていない事にするが兵を殺した事実は残るといったのだが覚えていないのか。」
「・・・・・・」
「いいかローエム帝国は戦争行為をなかったことに出来るが戦死者をなかったことには出来ない。これは帝国民などの兵がいるからだ。ローエム帝国では戦死者に対して補償をしている、キンメル王国が補償しないのであればローエム帝国はその金をキンメルの土地から貰う事だろう。」
アレクは分かりやすい様にキンメルに説明をしていた。ローエム帝国に補償しなければ、ローエム帝国がキンメル王国と新たに戦端を開きキンメル王国を滅ぼすと言っているのだ。
「・・・・・・・・か金は無い。」
アレクはキンメル王の物言いに呆れた。この状況で金がないとの答えである。
「キンメル王、金がないでは済まないのだ。もう少し真面目に考えよ。」
アレクとキンメル王の話は結局纏まらなかった。キンメル王国自体に金がなく支払う物が無かったのだ。
一方ローエム帝国では、大粛清が行われていた。内乱に加担した貴族や商人たちが拘束されていた。まだ調査は完全に済んでいないが余計な貴族達を大幅に減らすことが出来てマリウスは大満足であった。
「宰相閣下。」
「どうした、」「反乱分子の対応もひと段落しました、キンメル王国への対応をしてはどうかと思います。遺族への補償問題がこの後出てきますので。」
「そうだな、その事はアレク殿に任せている。アレク殿はフロンティア大陸にいるのでな。ローエム帝国の者達では対応事態できまい。ローエム帝国の威光もアース大陸だけだからな。ハハハ。」
マリウスの家臣は引き攣った笑いしか出てこない。ローエム帝国と言ったら超大国である、その次期皇帝が大した国ではないと言っているのだ。
「宰相閣下、あまりそのような事は・・」
「分かっている、お前の前だけだ、それよりフロンティア大陸の開発地の事だが新たな人選を早急に行うようにな。」
「はいそれは今行っております。」
マリウスは今後の事を考え、反乱分子たちを一気にあぶりだすことを考えていた。フロンティアという餌があるうちに反乱分子を殲滅するつもりであった。本土から敵を離すことができれば内乱を先導する者達の戦力を本土から離すことが出来る。フロンティアの方は大変になるがマリウスはアレクやカインが何とかしてくれると簡単に考えている。実際にアレクとカインであれば何万と兵がいようと勝ってしまう事が分かっている為に簡単に考えているのである。
後でアレク達から費用を請求されるであろうが、それは今回のキンメル王国からの補償を当てにしているのである。
マリウスもまだすべての采配を行えるわけではない。皇帝という父がいるためである。皇帝は心が弱く貴族達に流されてしまう。貴族達に強く言われると許可を出してしまうのだ。マリウスと祖母であるカトリーヌが目を光らせているが相手の貴族達もあの手この手で皇帝に近づいていっているのだ。
マリウスはアレク達の事は信頼もしている、信用もしている。だがマリウスが一番に考えなくてはいけない事はローエム帝国の繁栄である。オリオン王国との関係もローエム帝国としては重要だが、ローエム帝国の民が最重要である。
ローエム帝国の内乱を利用した粛清が上手くいけばいいが少しでも間違うとローエム帝国内で大きな戦になってしまう。マリウス自体は力はあるが一人ではせいぜい数か所の戦場しか行くことができない。広大な国土であるローエム帝国全土で内乱が起こればその戦場は数十か所、いや百数十か所で争いが起きる可能性があるのだ。そうなるとマリウス一人では対応ができないのである。
そのために反乱分子を一か所に集める算段を今行っているのである。
アレクはローエム帝国のマリウスが内乱を利用して粛清を行ったことを報告で聞いていた。
これからの事を考えるとマリウスは一気に貴族達を粛清する事は容易に想像がつくことである。
「どうするかな。」
アレクにしてみればキンメル王国を滅ぼすことは簡単だ。だが滅ぼしてしまってはローエムの補償が出来なくなってしまう。アレクが立て替えてやる義理など無いのである。
ローエム帝国との関係上、手を貸しているのだがマリウスがダメ皇帝を抑えてて頑張っていることを知っているアレクはマリウスの為に出来る限り協力をしているのである。
「隣国に吸収させるか。」
キンメル王国の左(西)隣はジェントス王国、右(東)隣はカシス王国、下には(南側)ルーデン王国というフロンティア大陸では大国と言われている国がある。ルーデン王国はキンメル王国とカシス王国を合わせたぐらいの国土を持っている。
フロンティア大陸の南部は小さな国が乱立している。国土としては広く広大な広さがあるために一様に小国とは言えないのだが民の数で言えば小国である。
そのために北部では国という物が存在していなかった。土地が余っている為に態々未開地に行くこともしなかったのだ。自国に未開発の土地がまだまだ多くあるために新たな土地を求めることをしなかったのである。
隣国との国境紛争という物も殆んどなかった。
だがここに来て急激な開発が各国で行われている。それはアレク達の持ち込んだ農機具や魔道具などの開発機械がフロンティア大陸へ入ってきたからである。少ない人員で開発が出来るこの道具は各国が買いあさっていた。開発はやりたくとも出来なかったのだ。
フロンティア大陸の南部は今開発ラッシュである、北部も開発ラッシュである事から全土が開発ラッシュである。
自国の開発で忙しい事で厄介ごとを抱え込むような事をするのかが心配だがアレクはルーデン王国とカシス王国へ打診をしてみることにした。