394話
少年は楽しくて仕方がない、訓練はもの凄くきついが愛するドラゴンが近くで見守ってくれている。
それだけでなんだか力が湧いてくるのである。
毎日毎日、きつい訓練が続いている。まず体力づくりで走り込みである。最初は朝から晩までひたすら走る走る走るである。一般的な体力がつくと勉強である。
少年は勉強は嫌いであった。落ち着きがなく机に長時間座っていられないのだ。だがここの教官は甘くはない。
強制的に勉強をさせられる、キツイ、キツイ限界であった。それでも少年は何とか乗り切った。ぎりぎりの点数であったが、癒しのドラゴンのおかげで踏ん張る事が出来たのだ。
ドラゴンとワイバーンたちのお世話係をすることで少年は癒され踏ん張る事が出来た。
いよいよ少年はワイバーンで空を飛ぶ練習に入る事となった。
だが少年の心はシュンとしたままである。空を飛ぶならドラゴンと決めていたからである。
それは仕方のない事であった。ワイバーン隊に入隊してワイバーン乗りとして雇ってもらっているのだ。そしてドラゴン乗りは王族しかいないのだ。貴族、平民は誰もドラゴンに乗る者はいないのである。
少年は気を取り直して前を見る、一緒に飛んでくれるワイバーンに申し訳ない気持になったのだ。
心の中で(ワイバーンごめんね)と呟いていた。
少年が教官と一緒にワイバーンに乗ろしたときに声を掛けられる。
「まて、その少年がドラゴン大好きな者か。」
少年はドラゴン好きでかなり有名になっていた。訓練、勉強と頑張っているが、少しでも時間が出来るとドラゴンに近づきドラゴンの元で勝手に話をしている。ドラゴンは喋る事が出来ない、意思疎通は出来るがあまり人に慣れることはないのだ。アレク達が特別であって(特にレイン)ドラゴンの周りにいるワイバーン隊の者達にも慣れる様子はないのだ。
教官が敬礼している。少年も教官と同じように敬礼をする。
少年は声を掛けてきた人が誰なのか分かっていない。
「はい、閣下ドラゴン大好き少年であります。」
この教官の紹介の仕方はどうかと思う少年だが事実ドラゴン大好きだから仕方がなかった。
「そうか、初めて空を飛ぶのだな、ならば私がドラゴンに乗せてやろう。」
少年は一瞬でワクワク感が爆発してしまった。
「ありがとうございます。えーーッとシロですかブルーですか。」
もう少年は落ち着くと言う事が出来なかった。そして教官に怒られたのであった。シュンとする少年であったが、ドラゴンの元へ歩き始めると一瞬で機嫌が治ってしまった。
今日乗るドラゴンは乗るのはブルーである。
あのかっこいいブルードラゴンである。少年はもう嬉しくて仕方がなかった。
何故かドラゴンも分かるようで少年が乗りやすいように身を屈めてくれる。
教官は驚いたが表情に出すことはなかった。さすが教官である。
「では空へ行くぞ。」
もう少年は高い所が怖いとか、景色がキレイだとかそんな事は考えられなかった。ドラゴンに乗れたことが嬉しくて乗せてくれたブルードラゴンがかっこよくてドラゴンにスリスリしていた。
空の楽しい時間も一瞬で終わってしまった。実際は1時間ほど空を飛んでいたのだが少年にしてみれば一瞬の事であった。
「ありがとうございます。」
「君はドラゴンに好かれているようだね。」
「えっ本当ですか。」
もうその言葉で少年は嬉しさが爆発していた。ドラゴンに好かれている。嬉しい嬉しい嬉しーーーい。
「アレク、どう見る。」
「ルドルフ兄、あれはかなりドラゴンに好かれていますね。今までドラゴンがオリオン家以外の者達にあれほどなついた者はいませんでしたね。」
「そうだな、この地はドラゴンが神のように扱われ始めた。これを利用してうちのドラゴンより一回り小さいサイズのドラゴンで隊を作ったらどうだ。」
「そうですね、この広い大陸ですからスピード特化のドラゴンなんていいかもしれませんね。」
「まず訓練としてあの少年に伝令係にしてみるか。」
「そうですね、戦闘向きではないですから伝令で訓練してからでいいのではないですか。」
そんな二人の話の事等全く知らない少年はもうウキウキ状態であった。
「ヘヘへ、ウフフ、」思い出すと顔がにやけてきてしまう。
周りの教官や兵士たちは温かく少年を見守っていた。純粋な少年に荒んだ心の持ち主たちはホッコリするのであった。
少年の訓練は毎日毎日続いた、きつくとも頑張っている、またドラゴンに乗れるかもと期待しながら頑張っているのだ。
ある日少年は教官に呼ばれた。
「失礼します。」
少年はいっぱしの兵士になっていた。
「辞令が出ている。」
少年はいよいよかと思う。ワイバーン乗りとしてのデビューである。少年は身が引き締まる思いであった。それと人を殺す覚悟があると認められた事が嬉しくもあった。ここは軍隊である。人を殺すことが商売である。もちろん人助けも行うが、本職は戦闘である。その事は訓練で徹底的に叩き込まれていた。それでも幾人かは兵士となった後に退役をしていく。人を殺すことに耐える事が出来なかった者達である。
「で、伝令でありますか。」
「そうだ今度新しい部署が出来てな、そこで是非お前を欲しいと言ってきている。」
「ハッ、了解しました。」
兵士に上官からの指示は絶対である。
少年は新しい部署がある場所へと急いでいた。
真新しい建物の中に入ると、少年の新しい上官の執務室に通された。
「失礼いたします。」
「よく来たね。」
そこには初めてドラゴンに乗せてもらった人物であるルドルフがいた。
「本日付けで伝令部へと配属となりました。」
「では早速、君の相棒を紹介しよう。着いてこい。」
大きな建物が建っていた。ワイバーンの龍舎より2倍大きい建物であった。
「君の相棒だ。」
そこにはスカイブルーの色をしたドラゴンがいた。
少年はスカイブルードラゴンに見惚れてしまっている。青空のような色をしたドラゴンである。綺麗で凛々しいドラゴンである。
「本官の相棒は、このドラゴンでありますか。」
「そうだ、これから君には新しいドラゴン乗り、いやドラゴン騎士となってもらう。」
「ドラゴン騎士ですか。」
「そう、今迄ドラゴン騎士というものはなかった。君が一番最初のドラゴン騎士となる。」
ルドルフの説明はワイバーン隊とは違う役目の部隊を作ると説明をされた。とりあえずは伝令として慣れるまで飛んで飛んで飛び回る事が告げられていた。
その日から少年の宿舎がドラゴンの龍舎となっていた。少年はドラゴンから離れたくなかったのだ。見兼ねたルドルフは龍舎と同じ空間に人が生活できるように設備を整えてやった。これで人としての生活が出来るようになった。
少年のもう一つの仕事はドラゴンが嫌がらない、好かれる人を見つける事であった。
少年は各地を回り少年少女たちをドラドン騎士に誘った中にドラゴンに好かれる者が幾人かいたのだ。
その者達を新しいドラゴン騎士として教育し新部隊を創っていった。
今では6人のドラゴン騎士がいるまでになっていた。
元少年は隊長となっていた。隊長はドラゴンの様子を毎日見ている。すると様子のおかしいドラゴンがいる。
あれ?病気か、嫌病気じゃないな。
調子の悪かったドラゴンが翌日二つの卵を産んだのであった。
驚いたのは隊長もそうであったが、アレクが一番驚いていた。
まさか、迷宮で作ったドラゴンが卵を産むとは思ってもいなかったのだ。
卵は無事孵化した。かわいいドラゴンが2体ヨチヨチ歩きで広場を歩いている。
もうアイドルになってしまっていた。
「ルドルフ様、拙いです。子供のドラゴンにストレスを与えています。」
「確かに不味いな。」
ルドルフは隊長に部隊の移動を命じた。人里離れた廃村を隊長の部隊の駐留地としたのである。
そこは自然に囲まれた、ドラゴンが安らげる地であった。
その後ドラゴンたちの妊娠ラッシュとなった。10体のドラゴンの間で卵が生まれたのだ。
もう伝令の任務を行う事どころではなくなっていた。
10年がたちそこはドラゴンの里となっていた。ドラゴンとワイバーンの保養地となっていたのだ。
子供のドラゴンを育てる環境が整い、ドラゴンを世話する者達で村が出来上がっていた。
ドラゴンがいるために近くには魔物も寄ってこない為に農地が広がり、豊かな場所となっていた。僻地である事を除けば理想的な農村である。
「閣下、王都へ向かうお時間です。」
「もうそんな時間か。」
元少年は今は閣下と呼ばれるまでになっていた。爵位も騎士爵となりドラゴンの里を納める領主となっていた。
「今年は何体ドラゴンが生まれるかな、楽しみだな。」
「閣下、早くいきますよーー。いい加減にしてください。」
元少年が表に出ると小さいドラゴンたちが寄ってくるのだ。もみくちゃにされて嬉しそうにしている元少年は王都用の服が泥だらけになってしまっている。赤ちゃんドラゴンはそんな事は知らんと元少年も元へと寄ってくるのだ。
元少年は幸せそうな顔をしている。
「閣下、顔が崩れています。真顔になってください。」
「お前そんなにがみがみいうと禿げるぞ。」
「閣下ーー。」
元少年はグレーリ王国の王都へと相棒のスカイブルードラゴンにまたがり、大空へと舞い上がっていった。




