388話
アレクはグレーリ王の疑似体を作成していた。顔のみ人に見えるようにするが首から下は木人である。
洋服を着れば隠せるために少しでも生命力の維持にまわせるようにするためである。
それでも2時間が限度である。
「こんなもんかな。」
「ヘレン殿、王の子供たちを呼び出しに応じそうですか。」
「はい、大丈夫です。王が次の王を指名すると伝えておりますので、出席しなければその資格さえないのですから、必ず出てきます。」
ヘレンは王が一時的にでも喋れるようになると分かると、各方面に伝令を出し王都へ集まるように伝えた。アレク艦隊の輸送能力を借りて翌日には王都へ関係者を集める事に成功していた。
「グレーリ王、聞こえているか。今からお前の生命力を疑似体に移すぞ。もって2時間だ。」
アレクは疑似体を王の隣に寝かせ、魔石を取り出し石となっている王の上に置いた。すると魔石は石から光の粒を吸収している。その光が収まると、アレクは疑似体に魔石を埋め込んでいく。
疑似体は魔石が埋め込まれると、目を見開き口を開いた。
「あ”あ”ー。」
「お父様。」
ヘレンは疑似体に抱き着き涙を流している。疑似体はまだうまく喋れないようだ。
「王よ、あと10分もすれば体がなじむだろう。そうすればうまく喋れるぞ。」
アレクの言葉を聞いた王は、納得したのか、ヘレンと抱き合って泣いているように見える。
疑似体がなじんできたのか王は喋れるようになっていた。
「アアレク殿、ありがとう。
「グレーリ王、今迄の話は分かっているか。」
「聞こえていた、内容は分かっている。」
「そうか、では時間の無い事も分かっているな。」
「私が次の王を指名する。もう決まっている。宣言した後はアレク殿にすべ任せる。頼む。」
グレーリ王はアレクに向かい頭を深く下げている。
「心配するな、王の意志はきちんと受け継ぐ。ヘレンもグレンもいる事だし全く問題ないだろう。」
王は顔を上げアレクを見るとかすかな微笑を浮かべていた。
「さあ、時間が惜しい行くぞ。」
ヘレンに呼び出された多くの者達が大広間に集まってきている。グレーリ王国の要職にある者、主要都市の領主、高位の貴族、王族の者達である。
集まっている者達は誰一人喋る者がいない。今まで敵対していた者達が集まっているのだ。喋る事が無いのだ、もし喋り出すとすれば罵りあいになってしまう。
その事が分かっているのか誰一人喋る事はしていない。多くの人がいるこの場所でシーーーンと静まり返っているのは不気味である。
そこに上段にある王専用の扉が開かれた。
グレーリ王の姿は実に6年ぶりであった。貴族の間では死亡説も流れていたのだ。王が姿を隠してからは国が荒れ、国政がおろそかになっていた。
少数であるが王の姿に涙を流す者がいる。
このグレーリ王は名君でも暴君でもなかった。普通の何の才能もない王である。
だが王であることで民が安心して暮らしていたのだ。王とは存在することが仕事であった。
「皆の者、よく集まってくれた。」
王の登場に大広間にいる者達は一斉に家臣の礼を取っていた。
「面を上げよ。」
家臣たちは王の言葉で姿勢を元に戻していた。家臣たちは王の姿を見ている。王であることに間違いはないのだが何か違和感があるのだ。そう以前より少し若く見えているのである。さすがのアレクも王の顔を知らなかった。王の肖像画から大分老けた感じで顔を作成したが病気に倒れる前より若作りになっていたのだ。
まぁ顔はヘレンが監修したことも有り王の顔で間違いがない。
「これからグレーリ王国の事を話す、これはグレーリ王国功王である余が宣言をする、それに従わない者は反逆とみなす、よいな。
まずはファースト、セカンド、サード前に出よ。」
「「「はっ(はい)」」」
3人はなぜか誇らしげであった。自分達3人が一番最初に呼ばれたことが誇らしかったのだ。一つ不満があるとすれば同時に3人が呼ばれた事である。次の王であるならば一人が呼ばれれば済む事である、同時に3人という事は王の指名ではない事が分かる、だが3人にはそこまで頭がまわっていないのか前に進む3人は互いに目でけん制しあっている。
「ファースト、セカンド、サードよ。余はお前たちを愛している。私の子供として生まれたことを感謝している、だがグレーリ王国の王としてお前たちには失望した。このグレーリ王国の王位を争い内乱にまで発展させたことは民を傷つけ、国力を低下させていることに何故気付かぬ。3人で協力していればこの国は発展していたであろう。」
「父上、それは違います、私が王になればもっとこの国は良くなります、一時的に少し衰退しましたがすぐに盛り返して見せましょう。」
ファーストのこの言葉にセカンドとサードも父である王に対して言い訳を始める。
「馬鹿者ーーー、お前たちはまだ分からぬのか。王とは民の為にあるのだ己の欲望では王はやれぬのだ。何故それが分からぬのだ。」
「分かっていますよ、父上。だから俺が王になるんですよ。へへへ。」
その笑いに王は疑似体であるのだが、何かがプチッと切れた音がした。
王は腰に差していた剣を抜き、サードを殺していた。それを見たファーストとセカンドは腰を抜かし口から泡を吹いている。
それを上から見下ろしている王は二人も斬り殺していた。
王の行動に誰もしゃべれない。まさか子供を殺すなどこの場にいる者達は考えもしなかったのだ。
「衛兵、この者達を片付けろ。」
王の言葉に急いで従う衛兵たち、王はもう興味を失ったのか王子たちの方を見ていない。
「3人の王子に従っていた者達は速やかに解散しろ。今は大噴火に対応する事が一番大事だ。」
「「「「「はっ」」」」」
「グレーリ王国の次の王はヘレンお前だ。」
「はい。わ私ですか。グレンではないのですか。」
「グレン、お前は誰が王に相応しいと考える。」
「はい、父上。ヘレンさまが王に相応しいと考えます。」
「余もそう思う。今までこの国は男尊女卑が成り立って来てた。だがもうそんなことをしている時代ではない。オリオン王国連合の一員となり力を借りてこのグレーリ王国を豊かな国として言ってくれ。
グレンこの国で宰相を務めてくれ。ワシからの最初で最後の頼みである。」
「分かりました、父上。このグレン、命ある限りヘレン陛下を支えていきます。」
「頼んだぞグレン。ワシはいい息子をもったな。ヘレン次の王はお前だ。男尊女卑をなくし新しい国を創ってくれ。頼んだぞ。」
「父上。」
グレーリ王国の王は二人に静かな笑顔を見せていた。
「よいか皆の者、ヘレン王に従うのだ。さすれば国は豊かになり大きく繁栄をするだろう。」
王はそれだけ宣言すると扉の向こうに去っていった。