385話
ルドルフはヘレンが指揮を執る事を告げるが貴族達の反応はあまりよくない。
「良いかよく聞け、ヘレン殿は私の代理だ。ヘレン殿の言葉は私の言葉だと思え。万一従わない場合は罪を問う事となるからな。」
それでも貴族達は不満顔をしている。そこまで頑なに女性蔑視になるのは教育のせいかもしれないとルドルフとアレクは思い至る。
「ルドルフ殿、王都の事は了解しましたが、王都以外の事は我らに任せてもらいましょう。」
「王都以外、それは第二王子と第三王子の事かな。」
「さようです。ご存じとは思いますが今は内乱中です。」
「モリー伯爵に一つ聞きたい。伯爵はこの場にいるという事は第一王子を指示しているのだろうが、あえて聞くが王の子供の中で誰が王の資質を持っていると考える。」
「王の子供達ですか。」
モリー伯爵は、ルドルフの言葉、(王の子供の中)それは第一王子から第三王子だけではない他の子供たちも含めていることを指しているのである。
モリーは答えに困っている。3人の王子であれば第一王子と答えているのだが、王の子供すべてを対象にした場合、女であるがヘレンと幼くあるが庶子の子供としている一人の男の子を思い浮かべていた。
モリーの反応を見ていた他の貴族達もその庶子の事はみんな知っている。かなり優秀であり、3人の王子と比べることが恥ずかしくなるほどの差があるからである。
その子は小さな村の領主となっていた。
ルドルフが進軍している途中の村の領主であった。その村は整然とミント軍を迎え入れ条件降伏した。
ルドルフはかなり驚いた。敵軍(ミント軍)が迫る中で村人たちを落ち着かせ、村でミント軍を待っていたのである。通常であればあたふたして村中がパニックになっているはずだ。今までの村は全てパニックを起こし脅し宥めて物資を提供して治めていたのである。ルドルフ側は村を襲う事はしないのだが村人たちから見た場合襲われると誤解をしてしまう事は仕方のない事であった。何しろ戦争相手である。この大陸でも軍は略奪、暴行などは当たり前となっている為に女子供を隠して最初は対応していたのである。それがこの村だけは違っていた。女子供も男たちと待ち構えていたのであった。
モリーはその子の笑顔を思い浮かべていた。
屈託のない笑顔が今も忘れられない、優秀であるがゆえに自分の状況も理解していたその子は、争いに巻き込まれることを理解していた。あるいは誰かに担ぎ上げられ兄弟たちと争いになる事可能性まで考えていたのだ。
庶子は王族と認められていなかった。それ故に跡継ぎのいない男爵家に養子として出される事となっていた。
養子に出されて5年、その子は男爵家の後を継ぎ村を治めていた。村は5年の歳月をかけかなり豊かになり、村人の生活も余裕が出ていた。ミント軍が訪れた時他の村との違いにかなり驚いていた。
「グレン殿ですな、次点でヘレン殿ですかな。」
モリーはグレンだけを伝えようとしていたが、モリーにかすかな欲が芽生えた、ヘレンの事をルドルフは期待しているのでは思ったのだ。それで次点でヘレンと言ったのであった。
ルドルフはグレンの事を進軍中に知っていた。グレンの名を出させるためにあえてモリーに問うたのだが、モリーの気の回しすぎであった。
だがモリーのこの言葉は重要な意味を持った。
公の場で王族とはいえこのグレーリ王国で女性を優秀と言ったのだ。3人の王子より優秀と言い放ったことで周りは、シーーーーーンとなっていた。
「やはりグレン殿か。」
「ルドルフ殿はグレン殿をご存じですか。」
「ああ知っている。頭もよく行動力もあり、統率力もある。私がこの国に進軍している途中の村を治めていたからなその時に会っている。」
「さようでしたか、こう言ってはいささか今後に影響が出るかもしれませんが、グレン殿が王であればグレーリ王国は負けません。」
「そうだなグレン殿が王であったならば簡単には勝つことは出来なくなるだろう。その前に戦争にはならないかな。」
モリーはルドルフの戦争にはならないという言葉に3人の王子たちを思い浮かべた。この王子たちが協力し合い立ち向かう事ができればミント王国とでもかなりやり合う事ができるのでは思ったのだ。
だが3人の王子は協力はしない、ましてはグレンと手を繋ぐことは絶対にしないであろう。
「他の者達はどう思う、グレン殿ならばこの国を豊かにし、困難にも打ち勝つことが出来ると思うのか。」
こういわれると貴族達も、まず男であるグレンならば庶子とはいえ王の子供である。女のヘレンよりは従うことに抵抗がないと結論付けしてしまうのであった。
もう3人の王子の事は忘れているような感じになっていたが。貴族の中にはまだ3人の王子を支持しようとする者達はいる。3人の王子の親戚筋に当たる者達である。この場は第一王子の拠点でもあるがグレーリ王国の王都でもある。城で働く者達の中には元から王子たちの親戚も交じっているのだ。
今は何も言えないが孤児に報告はしなければならない。王子が王に成れば劇的に自分の立場が強化されることが分かっているからである。
そこにヘレンが口をはさんだ。
「ルドルフ様、グレン様を呼び戻す事にも多少の時間がかかります、それまで民たちの事はいかがいたしますか。」
「それはヘレン殿に任せる、グレン殿と一緒に復興を指揮してくれ。」
貴族達はヘレンのこの言葉に憤慨しているが顔に出すことはしなかった。ヘレンはあえてこう言ったのだ。3人の王子が生きている為にグレンがいずれ邪魔になる事は分かっている。ルドルフとアレク、そしてドラゴンがいる今は大人しくしているだろう。王都の災害が一段落したときには又3人の王子とグレンが争う事になると予想していたのだ。そこであえて自分が表立ってい指揮をすれば不満と批判は全てヘレンに来ることが分かっているからだ。
グレンへの不満がなくなればグレンが後は何とかしてくれると思っている。
ルドルフもそんなヘレンの言葉を理解しているが自分が思い描くグレーリ王国図とは少し違ってきてしまっている。
「よいか今は王都の復興を最優先に行う、これは貴族の義務である。」
貴族の義務、これは貴族であればはじめに教育されることである。貴族は民を守るために特権を与えられている。災害、戦争などの非力な民の生命と財産を守るために貴族は存在しているのだ。
他国のルドルフがグレーリ王国の貴族達に態々伝える事では無いのだが、あえてルドルフは貴族に対して伝えたのである。
王都の災害が沈静化するまでは争いはするなと釘をさしたのであった。