384話
グレーリ王国の大広間では城で働く者達が集まっていた。第一王子であるファーストの姿は見えないがその直臣たちの姿はちらほらいる。
「何だと言うのだ、今はミント王国と戦争中だぞ。」
「だが火山噴火で今は戦うどころではないぞ。」
「そうだ、今は大人しくしなくてはな。あのドラゴンには太刀打ちなど出来んからな。」
「そうだな。」
貴族達のひそひそ話がアレクの耳に聞こえてくる。アレクはまだこの大広間には来ていない。大広間に向かっている途中であるが、アレクの聴覚は人の域を超えている。
「ルドルフ兄、全て任せますのでお好きなようにやっちゃってください。」
にこやかに話すアレクにルドルフは、不満顔だ。
「アレクよー、好きなようにと言っているが今は戦争中だぞ。言う事を聞くわけないだろう。」
「ここは力ずくでも言う事を聞かせないといけませんよ。大噴火という自然災害の前では戦争など小さなものですからね。」
「まぁそうだな、オリオンは民の為にあるのだからな、いくら敵国でも民は民だな。」
アレクとルドルフは大広間に着くとそのまま扉を開けて中に入っていく。
大広間に集まっていた貴族や使用人達は一斉にアレク達に注目する。
大広間のど真ん中を通り上段まで来ると、ルドルフは振り向き貴族達に向かい話し出す。
「グレーリ王国の者達よ、私はアース大陸、オリオン王国、宰相であり王太子である。ルドルフ・オリオンである。今、この地は大災害に見舞われている。ミント王国とグレーリ王国の戦争中という事ではあるが、一時棚上げしてでもこの災害に対応しなければならない。」
此処まで一気に話したルドルフは周りを見回す。一人一人目が合うように見回していく。
眼を逸らす者、真っすぐに見つめる者と二つに分かれているが災害に対応しようとする気構えは感じられていた。
「一つ良いかな、」
ルドルフは声を掛けてきた者を見て黙ってうなずく。
「私はグレーリ王国で伯爵位を持つモリー・サガンだ。ミント王国との戦争を一時棚上げと言ったがこの災害では仕方あるまい、だがこんな大噴火にどう対応するのだ。」
「オリオン王国はミント王国の味方ですが、大噴火を鎮静化するまではミント王国も戦争を中断してもらう。ミント王国も含めた形で対応する。まずは王都の避難だ。まだ火山の噴火が続くと思われるために王都の民を避難させることが第一だと思うがどうだ。」
「そうですな民を避難させることは賛成いたしますが。国の恥となりますがわが国には金がありません。長く続く内乱で疲弊している為に国庫は空です。オリオン王国はそんな国でも助けようとするのですか。お礼などは一切出来ません。」
「助ける。グレーリ王国を助けるのではない、民を助けるのだ。」
「ほーー、一銭にもならないことをオリオン王国はやるのですか。」
「やる、オリオン王国は民の為にある国だ。他国の民でも助ける。それがオリオン王国だ。」
このルドルフの言い切った言葉はグレーリ王国の者達に衝撃を与えていた。自分たちは内乱で同じ国同士で殺しあっている。それが他国の者が助けると断言しているのだ。グレーリ王国ではありえない事なのだ。
ザワザワザワザワ
大広間にいる者達はざわめきたっていた。
国の危機は分かっている。如何にかしなければいけないことも分かっている。だが自然災害の前ではどうする事も出来ない事も十分に分かっている。
「ルドルフ殿はこの大噴火をどの様に沈められるのですか。」
「今、私のドラゴンで噴火口を凍らせている。いつまで続くか分からんが当分の間はこれでしのぐしかあるまい。」
「そのドラゴンですが、安全なのですか。」
「変なことを言うな、まぁ戦争の為に連れてきたのだから安全とはいえないが私が指示を出さない限り安心していいぞ。」
「さようですか、要は我らにはなすすべがないと言う事ですな。」
「はっきり言ってそうだろうな。私でもドラゴンがいなければこの王都の民を逃がす事も出来なかっただろう。」
「分かりました、今は緊急事態として協力して行きましょう。グレーリ王国の者達は私が何とか取りまとめます。」
「ちょっと待てーーーー。」
「おおこれはダンク侯爵、お主も来ていたのか。」
「お、お、お前何を言っている、来て当たり前だろう。国の危機に来ないで何が貴族だ。」
モリー伯爵に言われたダンク侯爵は頭に血が上っているのかどもってしまった。
「ルドルフ殿、モリー伯爵一人に任せるわけにはいきません、このダンクが先頭に立ち他の貴族達に言い聞かせます。」
見事な礼をするダンクであるが、モリーに対抗意識を燃やしていることは一目瞭然であるために他の貴族達は少し白けている。
ルドルフは戦争している敵国に対しても危機とあらば協力できるこの国はまだまだ捨てたものでは無いと思いなおすのだ。
そこに大声を張り上げながら大広間に入ってくる者がいた。
「どけどけ、ファースト様のお通りだーーー。」
自分で様を付けて大声を張り上げながら北子の第一王子であるファースト、貴族達からは白い目で見られている事にも気付かずに上段に向かってきている。
ルドルフと向かい合った形になったファーストはルドルフに向かい言い放つ。
「そこの者がドラゴンを連れてきたのだな。そのドラドンは我が国にいるのだ、よって私の物となった。早急に立ち去れ。」
ルドルフはこのファーストが一瞬何を言っているのかが理解できなかった。
「はっ?」
呆けた声を出してしまったルドルフであるが、すぐに立ち直っていた。
「ドラゴンは私の物だ、いやオリオン王国の者達だドラゴンもオリオンの一員だ。物ではない。」
一瞬にして沸騰点に達したファーレスは怒り狂いルドルフに殴りかかろうとしていた。ファーストも一応鍛えてはいるがルドルフの相手が務まるほど強くはない。
殴りかかるファーレスの拳を片手で受け止めそのまま握りつぶした。
「ぎゃぁぁぁぁぁー。」
ファーストの悲鳴が大広間に響き渡る。それを助けようとファーストと一緒に来た騎士がルドルフに剣を向いて立ち向かっていく。
ルドルフは騎士の剣を狙い魔力弾を放った。二人の騎士の剣は砕け散った。騎士には何が起こったのかを理解する頭は無かった。呆気に取られてその場で固まっているだけであった。その隙に近くにいた衛兵に押さえつけられて別室に連れていかれた。ファーストも同じように連れていかれ治療されるようだ。
アレクはあとでファーストの手を治してやろうか悩んでいた。恩を売っても恩と思わなければ恩にはならないからである。あのファーストでは何も感じないのだろうと思っていた。
そんな物思いにふけっているアレクを余所に話は進んでいく。
「余計なものが入ってきたが、今は緊急時だ。大人しくさせていてくれ。モリー伯爵とダンク侯爵には二人が先頭に立ち他の貴族達に理解させてくれ。取り纏めはヘレン王女にお願いするがよいかな。」
このルドルフのヘレンという言葉で貴族達はあまり良い顔をしない、女性蔑視の強い国であるために自分の上にたとえ王族であろうと女性を敬遠しているのである。
「よいか今は国難である。男だ女だと言っている場合か、国が無くなるほどの危機だであるぞ。ヘレン王女は優秀だ、物を務目もある、その事はお前たちもよく分かっているのであろう。」
貴族達は目線を伏せていく。ヘレンがかなり優秀であることは王から聞いている。それでも女性蔑視の強い国であるためにヘレンを頼る事をしなかったのだ。もしヘレンが要職についていれば3人の王子の争いも起こらなかったであろうと貴族のサロンでは噂されていたほどである。
ヘレンが表立って初めて舞台に上がってきたのである。