380話
ルドルフが村の中に入ると村長が挨拶にきた。
「村長、この金で食料を売ってもらいたい、もちろん余分のある分だけで構わぬ。」
「はい、食料はありますのでお売りする事は出来ます。」
「そうかありがとう。」
ルドルフは爽やかな笑顔で村長に笑いかける。村長も最初は敵国という事で警戒していたようだが、グレーリ王国王都よりミント王国の方が距離的にも近くミントの噂が入って来ていた。
この村でもグレーリ王国内の争いが激化していると噂に成っていた。
それならばミント王国の領土になっていた方が得策ではないかと思うようになったのだ。
「村長、私たちはミント王国の軍だ、この村を今後ミント王国で統治していくようになるが、無理を言うつもりは無い。今までのグレーリ王国の税はどのくらいであった。」
「はい、グレーリ王国へ治める税は5割です。ミント王国では少しでも少なくして頂ければありがたいです。」
「そうだろうな。5割か高いな。村長聞きたいのだが5割の内、領主にどのくらい持っていっているのだ。」
「はい、生産者5、グレーリ王国1.5、領主3.5の割合です。」
「領主が異常に多いな。ほかの村などの同じなのか。」
「はい同じと聞いております。」
「そうか、今後ミント王国への税は3割とする。内訳は1割を国、1割を領主、残りの1割は備蓄とする。この備蓄は飢饉、戦争などの備えとなる。」
「そそれでよろしいのでしょうか。」
「ああ構わぬよ。十分それで国として行政を行ってみせるよ。」
ルドルフのこの村長に対して下手に出ていく方針はグレーリ王国では初めての事であった。一国の貴族がたかが村長に友好的に税の事を説明したり、税を引き下げることなどグレーリ王国ではありえない事であった。グレーリ王国ではいま金が必要である。国も領主も兵を維持するために取れるところからは搾り取ろうと皆躍起になっていた。そこにルドルフ一行(侵略軍)がやってきたのだ。村としたら侵略軍に占領されたと言えばそれだけでいいのだ。村には兵も防衛力も何も無いのだ、領主に守ってもらわなければ何もできない事は領主と国が一番よく知っているのであった。
この村の領主はミント軍が侵略の噂を流した所王都へ逃げてしまっていた。領主の治める街には王都で兵を集め戻ってくると説明をしていたようだ。態々領主自らが兵の募集に行くことなどありえないのだが逃げるための口実であった。
ルドルフの村長への対応は村長の宣伝にも表れていた。近くの村がミント王国への参加となると自らやってきたのだ。
ルドルフは村が別の国へ勝手に鞍替えしては拙いだろうと思ったが、今回はグレーリ王国がひどすぎたのだ。内戦で国が疲弊している為に兵を維持する税が5割と高くなってきているのだ、それにこのままでは6割になる可能性もあった。
グレーリ王国の農村はかなり疲弊していたのだ。
ルドルフは確実に支配していくためにかなりの時間をかけていた。本来は電撃的に王都まで進み3兄弟を駆逐する方針であった。だが村へ自ら入ったことで方針を変えてしまったのだ。
これに影響を受けているのがミント王とアレク達であった。ルドルフは村々が疲弊している事実を知ると各軍から兵を派遣して統治させていった。この統治に1000人もの兵を使ったのだ。この地域は魔物の被害も拡大して、農作物の被害が出ていた。そのために兵を残して行く事にしたのである。
「ルドルフ様、1000人もこの地に残してよろしいのですか。」
「あぁ隊長か、いいのだ。この地はミント王国の領土になったのだぞ、民を守るために国の軍を派遣する事は問題ない。」
「そうですが今はグレーリ王国へ進軍している最中です。4000に減ってしまって大丈夫でしょうか。」
「心配ない、ドラゴンが4体いれば全く問題にならない。」
ミントの隊長もそれはそうかと納得してしまった。5000の兵が4000になろうと戦闘には問題にならないと思ったからである。だがこの調子で各地に兵を派遣していけば王都へ着くころには兵は各地に散らばり残るはドラゴンだけという事になっているような気がしているのは隊長だけではなった。
その頃ミント王はグレーリ王国を出ていた。
次の国へと移っていたのである。グレーリ王国として見れば、サードの失態であるがサードを責めることはできなかった。3兄弟は元々争っている為に3人が同じ場所で会う事は無かったからである。遠くの場所で罵り合うしかできなかった。
サード以外はサードがミント王へ殴り掛かったと宣伝し、サード側はミントの謀略だと反論していた。
グレーリ王国の民たちはどちらでもいいと思っている。それより内戦を終わらせて静かな生活を希望していたのである。そんなことなど知った事ではない3兄弟は小競り合いを繰り返していた。ルドルフが王都へ向かってくるという噂で一時的に協力しようとなっていたが、進軍が止まっていると報告を聞いてからは協力する事は無くなっていた。ルドルフの村への対策で進軍が遅くなっていたことが3兄弟の協力する事を阻止した形になっていた。
アレクとカインは艦隊を率いてグレーリ王国上空にいた。
「なぁアレク、こんなに軍の侵攻って遅いのか。」
「カイン兄、それはルドルフ兄だからですよ。各村を親身になって統治しようとしています。普通戦争中には絶対にやりませんね。」
「そうだよな普通は敵を最初に倒してそれから各村を統治していくよな。」
「そうなんですけどね、困りましたね。」
そうは言っているアレクであるが、ルドルフのやりたい様にさせる構えである。グレーリ王国はルドルフの進軍を知っていても対応策をとっていないからであった。これが3兄弟が協力してグレーリ王国の貴族達をまとめ上げルドルフに迫ってきたならばアレクも応援を出すなりの対応をしていたが、そんな必要が全くいらない。
グレーリ王国の3兄弟は目の前の兄弟の事しか考えていない。これでは民たちはたまったものではない。それプラス各地の貴族達が又無能ばかりであった。自分たちが滅びかけているとは全く思ってもいないのだ。
争いの絶えないフロンティア大陸でジェントス王国と同盟関係にあった事がグレーリ王国の貴族達の危機感を薄くさせていたのだ。
いまジェントス王国もグレーリ王国も滅びの一歩手前の状況であるにも関わらず、両国とものんきな貴族が多い。少数であるが危機感を持っている貴族もいるがそれが生き残れるかは分からない。