375話
イムスは悩んでいた。
これからの国の行政をどうするかだ。アレクは宰相であるイムスを指名して他の役職を一切行っていない。イムスにすべて人事をやらせるつもりである。
イムスは元カルメン王国の貴族達をよく知らない。それは仕方のない事である、何しろ田舎貴族の次男であったからである。田舎貴族であるイムスは当然他の貴族等との交流もほとんどないのだ。
イムスは過去の役職者の一覧を眺めていた。今はもうこの世にいない人もチラホラいる。
「ハーーーー、どうしよう。」
出るのはため息ばかりである。
そこに1人の男がイムスの執務室に入ってきた。
「宰相閣下、ご報告がございます。」
「ドレイル補佐官か、どうしたのだ。」
「はい、ガンジス公国の人事案をお持ちしました。」
「ん、頼んであったかな。?」
「いいえ、これは旧カルメン王国の役人たちが作成したものです。」
イムスは渋い顔をしている。この新国家ガンジス公国は旧カルメン王国の役人などがとりあえず行政を引き継いでいるのである。それをいいことに今は好き勝手にやっている為に統制が取れなくなっていた。
「民たちの事ばかりに構っていられないですね。早急に対処しなければ城は悪の巣窟になってしまいますね。」
「さようです、旧カルメンの役人たちは自分たちは首にならないと思っています。自分たちがいなければ国が回らないと思っているようです。」
「でしょうね、アレク王から借り受けた機人はどうですか。」
「あれは素晴らしいです。下手な役人100人分の働きをしています。」
「ならば問題のある役人をすべて首にしましょう。こんなくだらない人事案を出すようなものは要りませんからね。」
イムスの元に届けられた人事案は酷いものであった。毎日来る人事案は城の中の派閥争いの為の案である。自分の派閥が少しでも良い役職を貰うために都合の良い案を提出してくるのである。
これだも元カルメン王国の名残である。役人は貴族の特権となっていた。
領地を継げない貴族の子供たちは国の文官は役人、武官は騎士となり、毎日派閥争いを繰り広げていたのである。アレクは領地持ち貴族を処罰をしたが悪事を働いていなかった者達はそのまま放置していた結果、国に仕えていた役人たちはそのままとなっていたのである。
イムスには信頼できる部下がいない、ドレイル補佐官は、唯一親しい貴族であった為にお願いして補佐官になってもらっていた。
「ドレイル補佐官、誰か信頼できる人はいないかな。」
「難しいですね、私の知る限りどの貴族達も派閥争いをしているので誰かを役職者にすれば違う派閥の者達は反発するでしょう。」
「そうだよねー、困ったなー。」
「やはりここはアレク王に大臣だけでも決めて貰わないといけません、このままでは国の運営に支障が出てきます。」
「そうしたいんだけどどこにいるか分からないんだよ。ハー困った。」
イムスは出来れば平民から募集をしたかったが、今はそれは出来ない事を分かっていた。幾ら優秀な平民であっても、部下が従わなければ何も出来ないことが分かっていたからである。平民に対して嫌がらせだけでは済まない事が分かっているのだ。そのために今は我慢だと思っている。
「優秀な平民を大臣には今は出来ないからね、貴族で派閥に属していない者のリストを作ってくれ。」
「はい早急に作成いたしますが、元貴族も含めますか?」
「含めるしかないね、今は優秀な人が一人でも欲しいからね。」
ドレイル補佐官はイムスの執務室を一礼して出ていった。
イムスはどうしようかとぼーーーっとしながら考えていた。すると何やら外が騒がしくなっていく。
「宰相閣下、たたた大変です。ドドドドラゴンが出ました。」
イムスは腰が抜けそうになった。ドラゴンなどおとぎ話の物であり実際に見たこともないのが一般の人々なのだ。ドラゴンがいる事は知っているが見たことが無いのが普通である。イムスはアレク達がドラゴンを使役していることは聞いているが見たことはない。イムスは敵ではないことは一瞬の間をおいて理解できたが、他の者達はそうはいかないだろうと頭を巡らせていた。
「そのドラゴンは敵ではない。攻撃は一切するな。速く行け。」
イムスは伝えにきた騎士に戻るように追い出す。騎士は駆け足で戻っていく。イムスも後を追うように騎士に着いて行く。
ハーハー言いながらイムスがドラゴンがいる場所に着いてみると、ガンジス公国の騎士たちがすべて倒されていた。
大きなブルードラゴンがいるその前に1人の男が立っている。
「君が、このガンジス公国の宰相だね。」
「はい、イムス・ガンジスと申します。」
「初めましてだね、私はオリオン王国の宰相をしている。ルドルフ・オリオンだ。宜しく。」
「オリオン王国の王太子様ですか。これは大変失礼しました。突然のドラゴンに驚き騎士たちが早まったことをしたようです。お詫びいたします。」
イムスは深々とルドルフに頭を下げる。それを周りの者達もつられてルドルフに皆が頭を下げていく。
「いいよ気にしなくても大丈夫だ。それよりも騎士たちの手当てをしてやってくれ誰も死んでいないから大丈夫だ。」
「はい、皆の者、負傷者を運べ。」
イムスの声に正気に戻った者達が負傷している者達を医務室に運び始めた。
「イムス殿、少し話があるんだがどこか静かな場所はないかな。」
「はい、すぐにご用意いたします。」
ルドルフはガチガチに緊張しているイムスを見て笑いをこらえるのに必死であった。それが周りの者達から見ると威厳があるように映っていたのである。知らないのはルドルフのみである。
「ブルー少し休んでていいよ。」
ルドルフがブルーに話すとブルードラゴンは猫が丸まるようにくるっと丸まり目を閉じたのだ。
周りの者はドラゴンが人の言葉を理解することを初めて見たのであった。今まで騎士たちを治療するために恐々とドラゴンに近づいていたが、ドラゴンが丸まると一気に恐怖が薄れていくのが分かる。ドラゴンの周りに倒れていた騎士たちも自力で何とか動ける者も出てきた。
これを着ていたのは騎士たちだけではない、城の中で働く者すべての者が見ていたのだ、貴族から奴隷迄と多くの者達がこの状況を見ていたのだ。
その日のうちに王都ではブルードラゴンの噂で、もちきりであった。ドラゴンを使役している人物が誰なのかと噂が広がっていった。イムスとの受け答えにもあった事からオリオン王国の王太子である事は分かったが、情報がない事で想像の人物となっていた。
一撃でドラゴンを殴り倒す者、魔法でドラゴンを従えている。フロンティア大陸の覇者などと色々な噂が飛び交っている。この噂は開発の為にガンジス公国を訪れている、4行の銀行員たちが噂の元であった。アレクに頼まれてルドルフの噂を流させているのである。
このブルードラゴンを使役しているルドルフはフロンティア大陸内で物凄い速さで噂が大陸中を駆けめぐっていた