372話
イムスとの話は大いに盛り上がっていた。
イムスの考えはこの世界では斬新であり、革命的な考えであった。
アース大陸での改革と比べても引けを取らないものである。
「イムス殿、農地改革での改革だがどこでその知識を得たのだ。」
アレクがイムスに対して核心に迫る質問をしたのだ。
イムスは言葉に詰まるが、意を決したように話し出す。
「信じてもらえないかもしれませんが、俺には前世の記憶があります。」
「前世の記憶。」
「はい、この地に生まれる前の記憶です、俺は地球という惑星に住んで居ました。そこで俺は59歳で死にました。病気です。」
「その前世記憶で改革を行っているというわけかな。」
「はいそうです。俺はこの地で言うと商会に勤めているような人間でした。普通の勤め人です。そこでは色々な商売を行っていました。日用雑貨から宅地開発までと色々です。」
「ほうそれは凄いな、普通に国が遣る事だな。」
イムスはアレクに前世の事を話している。アレクは相槌を打ちながらイムスの言葉を聞いている。
その内容は、イムスが前世での生まれてから死ぬまでの話であった。学校を卒業後勝者に就職し、過労で入院して死んだ。
妻と子供に見送られ幸せであったという。そして気づいたら生まれ変わっていた。だが生まれてすぐに記憶が戻ったわけではなく、スキル玉を飲んだことによって記憶がよみがえったと話すのであった。
「スキル玉を飲んで記憶が蘇ったのか。」
「はい俺にもよくわからないのですが、何のスキル玉かも分かりません。父が俺の為に買い求めたスキル玉で黄色い玉でした。」
黄色と聞いたアレクは不思議に思ったアレクのスキル玉の中に黄色の色のスキル玉は存在しないからである。
「そうかスキル玉か、スキルはどのような物が付いたのだ。」
「それがそのスキル玉では何もつかなかったです。あ、あのアレク王は俺の話を信じるのでしょうか。」
「ん、信じるぞ。」
「えっ、信じるんですか。今まで誰も信じてもらえなかったんですけど。」
「イムス殿はこの領地を豊かにきちんと改革をしているではないか、それが証拠だろう。普通の者には出来ないだろう。」
「え、まぁ知らなければ出来ないですね。」
イムスはアレクの信じるという言葉に衝撃を受けていた。今まで何人かにこの話をイムスはしていた。だが誰一人前世の記憶など信じてもらえなかったのだ。イムスの改革の功績はたたえられているが変人として見られていたのである。
「信じて貰えたのは嬉しいんですがなんか複雑です。アハハハ。」
アレクはイムスの事を聞いてこのアースでもほかにも同じような者がいるかもしれないと思うのであった。今回はイムスの様に民の為に頑張っている者であったために良い方に言っているが、もし悪人であったならば民が苦しみ分からない様にしていたかもしれない。
「イムス殿今日はいい話を聞けた、ありがとう。そこで一つ提案がある。」
「何でしょうか。」
「このカルメン王国の改革をやってみないか。」
「俺がですか?俺は改革をカルメン王国に広めるつもりでしたからやってみたいですけど、俺はただの小領主の息子ですよ。」
「私も元騎士爵の小せがれだったよ。それも貧乏貴族の4男だぞ。」
「そうなんですか。」
「後日王都で領地と爵位の授与がある。イムス殿も出席してくれ。」
アレクはイムスにそう告げると去っていった。
残されたイムスはアレクの言葉をかみしめていた。イムスはアレクが自分と同じではないのかと疑問を持ったのだ。前世の記憶を話しても大して驚くような事をしなかった。それにイムスの話を理解していたからである。イムスの話は地球の教養が前提にあって初めて理解が出来る話であった。
今まで話した者達は前世の記憶以前に話自体について行く事ができなかったからである。
アレクはイムスの話を理解している。これはアレクがそれだけの知識を持っているからである。
イムスは何だか嬉しくなっていた。初めて自分の話が通じたことがたまらなくうれしかった。改革だと進んで褒められ称えられていたが、変人として見られていた。
イムスはその日からカルメン王国の改革案を必死に纏めた、何度もカルメン王国に出していた改革案である。それを修正して纏めているのだ。
元カルメン王国王都
イムスは緊張していた。王都の城は何度か見ていたがまさか無くなっているとは思ってもみなかった。その代わりに迎賓館のような大きなお屋敷が建てられておりその大広間に元カルメン王国の貴族達が集まっていた。
その数は全盛期のカルメン王国の貴族の4分の1にも満たない数である。
イムスにしてみれば良く4分の1も貴族が残ったという感想であった。元カルメン王国貴族の立ち振る舞いはイムスの目から見て酷い物であった。
元カルメン王国貴族の待つ大広間にアレクが入場してくる。
「皆の者良く集まってくれた。感謝する。早速だが領地と爵位を授ける。」
アレクは次々と爵位と新領地を元カルメン王国貴族に授与していく。
「今授与した爵位と領地はあくまで暫定だ。3年間きちんと領地運営を行ったものだけが貴族として生き残る事を許可する。」
アレクの言葉に息をのむ新貴族達、嬉しさで顔がほころんでいた者達は急にビビりだしている。又好きなように領地を運営できるとでも思っていたのだろう。
「領地にはきちんと監視を付けるからな。不正など出来ないぞ。おいお前気をつけろよ。」
アレクに睨まれた新しく爵位を貰った男爵の顔が引きつっている。アレクに見透かされたことで動揺しているのだ。
「ままままさかです、私はそんなこと考えてもいません。」
「そかならばしっかりやるのだな。期待しているぞ。」
「はっはーーー、勿論でございます、私はアレク王に絶対の忠誠を・・・・・・・・・」
アレクはこの男爵の言葉を無視して話を続ける。
「イムス、前に出てこい。」
「はっ。」
イムスはアレクに呼ばれアレクいる上段に近づくアレクの前に跪く。
「ダイガン・ガンジス子爵の子、イムスよ。この元カルメン王国の宰相とする。」
えっ、宰相ですか。と言う言葉をイムスは飲み込んだ。この場で失態が出来るはずもない。
「はっ、全身全霊をかけましてお仕えいたします。」
周りの貴族達のザワザワが収まらない。ガンジス子爵ならまだ許容範囲であったかもしれないが地方貴族の田舎者が大国カルメン王国の宰相などと残っている貴族達でも納得できるものでは無かったのだ。
「お、お待ちくださいアレク王。」




