369話
「アレク様、元カルメン王国の貴族達がそろそろ王都へ到着してきます。」
「そうだね、城はもうないけど準備は出来てる?」
「はい、新しい会議場兼屋敷をつくってあります。」
「そうそれならカルメン貴族当主と配偶者、それと後継者を招待しようか。」
「分かりました、手配いたします。」
アレクは元カルメン王国の貴族達を王都へ呼び寄せている。これはこれからの元カルメン王国の今後を決めるためである。
多くの貴族達はこの呼び出しに恐怖を覚えている、今まで好き勝手に民を苦しめてきたことが罪になる事を恐れているのである。罪と認識できるだけでもまだましな方である、罪を罪と分からない者も多くいるからである。
「良く集まってくれた、私がSEオリオン王国のアレクだ。」
「「「「・・・・・・」」」」
「まぁいい、お前たちがこの場所に来るまでに王都の状況は目に入っていると思う。カルメンの城は無くなっていたであろう。カルメン王国はもうない。」
「アレク王、お待ちください、私はカルメン王国、ハッシブ伯爵と申します。」
「ハッシブ公爵か何かな。」
「アレク王はカルメン王国がもう無いと仰せですが、王族がもう居ないという事ですか。」
「いや王族は生きているぞ。私がカルメン王国がもう無いといったのはカルメン王国が国として機能していないという事だな。」
ハッシブ伯爵は露骨にホッとした表情をしていた。アレクのこの言葉でカルメン王国がまだ存続できると踏んだのだ。
その勘違いにアレクは気づいていたが何も言わない。
「アレク王、それならば新たにこの私が王となりましょう。」
「何故お前が王なのだ。」
「私は元王族です、カルメン王国の王族である私が王位に着くことが正当です。」
「ならお前は死刑だな。連れていけ。」
このアレクの言葉に周りの者達は唖然とする。カルメン王国の王族を名乗ったら死刑??貴族達は何を言っているのかも分からない状態となっていた。
「お前たちは何か勘違いをしているようだな。カルメン王国は私に喧嘩を売ってきたのだぞ。」
「・・・・・・」
「カルメン王国から仕掛けてきたのだ。その報復としてカルメンの城を破壊し、王都を掌握して、ほかの都市も占領したのだ。もうカルメン王国自体が全く機能してない。」
「いや、ですがアレク王にカルメン王国が喧嘩を売るなどしていません。」
「リシル王国の港に攻め込んできたではないか、あれは私の領地だ。」
「えっ、・・・・・・・・・・」
ここでカルメン王国の者達が初めて気づいた。リシル王国へ攻め込んだと思っていた事が実はアレクの領地に攻め込んでいた事実を気づいたのであった。リシルでの交渉などでも一切この事実は公にされていなかった。王都の以外にいた貴族達はそんな事実を知る由も無かったのだ有る。
「おおおお待ちください、私たちはそんな事実は知りません。」
「まぁそうであろうな、だがお前たちは元カルメン王国の貴族であろう。カルメン王国に忠誠を誓っているのではないかな。」
「「さようです我らはカルメン王国に忠誠を誓っております。」」
「そうであろう、ならばカルメン王国が滅んだ今お前たちはカルメン王国と一緒に滅ぶべきであろう。」
「・・・・・・・・」
「あっそうだいい事を教えてやろう。お前たちがこの王都に大勢の家臣を連れて集まったおかげでお前たちの領地を占領したからな。もう帰る場所は無いぞ。」
アレクの言葉に理解できない者が大勢いた。それはそうだろう約200もの大小の領地をこんな短期間で占領できるはずがないからである。カルメン王国の常識から言うと絶対に無理だからである。
貴族達はアレクがハッタリをかましていると誤解してしまった。
何しろ各地から集まってきているのだ、占領するならば軍と衝突するのがふつうである。その占領する兵と王都までの道のりで一切会う事が無かったことが貴族達に誤解をさせた原因である。
「アレク王、冗談も過ぎると身を滅ぼしますよ、ハハハ。」
「私は一つも冗談を言っていないがお前は誰だ。」
「失礼しました。私はカルメン王国で伯爵位を賜っております。レジスカ伯爵です。良しなに。」
優雅にお辞儀をするレジスカ伯爵、この伯爵勘違いも此処まで行くと拍手したい程である。
「レジスカ伯爵、お前の領地は王都の近くであったな。」
「はい、王都から馬車で1日の距離であります。私が昨日出てくるときは我が領地は平穏でありましたな。アハハハ。」
「そうか、では事実を見せてやろう。おいこの伯爵の領地を見せてやれ。」
アレクは家臣に伯爵を連れていくように指示を出す。慌てる伯爵を無視してアレクの家臣は両脇を抱えるように伯爵を拘束しあっと言う間に艦に押し込み飛び立ってしまった。唖然とする残された貴族達、その間もアレクの話は続いていく。
約200人の貴族当主たちはアレクの采配で3つに分けられていった。一つは処刑グループ、これはカルメン時代に多くの罪を重ねている者である。証拠があり証言もある事から裁判などをせずに処刑とする者達である。二つ目は生き残れるグループだ、この者達は腐敗しているカルメン王国の中でも民の為に真面目に仕事をしていた者達である。何も罪はなく、アレクとして見ればいい人材の確保ができたと喜ばし事である。
最後の三つめはグレーな者達である。確たる証拠もなく、いい噂がない、要は小悪党の部類であった。
そんなグループ分けをしていると時間の経つのも早く感じる、その間に先ほどの伯爵が連れ戻されてきたのであった。この場に残っていた貴族達は伯爵に注目している。この短時間で領地を行き来できると思っていないからである。どんな言い訳が出るのかが興味を引いていたのである。
レジスカ伯爵は、うつむいたままであったが、両脇にいるアレクの家臣に小突かれると喋りだすのであった。
「わ、私の領にいや私の屋敷は無くなっていた。私のものすべてが無くなっていた。」
うつろな目をしたレジスカ伯爵であったが、言葉はしっかりとしていた。アレクの家臣はレジスカ伯爵に艦の中で言い聞かせていた。事実を話せ、そうすれば処刑はしないと。カルメン王国時代に罪を犯した紙を見せられ、もう言い逃れが出来ない事を理解した伯爵は領地没収を受け入れて罪の軽減を願い入れたのだ。
ほんの30分前のレジスカ伯爵の勢いはどこに行ったのだという程の憔悴ぶりである。貴族達は何が起きてこんな姿になっているのかがまだ理解できないのである。
ザワザワと貴族達の間で相談する光景が目立つようになっていった。
アレクは黙ってそれを眺めている。