364話
ルドルフはミント王国で開発を手伝っていた。
ミント王国は独立し旧ミント領までを併合して国土を広げていたがまだまだ開発が出来ていない。
王都となった元領都では開発が進められているが、人々の生活が向上していくのはまだ先のようだ。
「ルドルフ様、少し宜しいでしょうか。」
「ん、お前は町の開発担当だったな。如何した。」
「はい実は下水の事ですが、職人たちの理解が追い付かずに困っております、私たちの説明するのですがまだ私たちも原理や完成形を見たことがありませんので、その上手く説明ができません。出来ましたらルドルフ様に職人たちに指導をお願いできればと思いまして。」
ルドルフは少し不思議に思った。いくら友好国と言ってもルドルフは次期国王だ、ミント王国の家臣が気軽に相談できる相手ではない、だがそこは庶民派のルドルフである。オリオン領の時代から土木工事はお手の物である。アレクに鍛え上げられた土木技術は一流であった。
一国の国王になる者には必要ないがルドルフはこの土木技術は自身の誇りであった。
自分の得意な物の中で土木技術が一番ではないかと思うぐらいだ。
実際、戦闘や戦略、内政、外交などルドルフは色々とこなしているが領地開発の土木作業が一番自分にあっていると思っているのだ。
その得意な物に対して相談をされたことが誇りであり嬉しかったのだ。
そうこれはルドルフ伝説の始まりであった。
アレク達はルドルフを英雄にするためにバレない様にまずはミントの開発から外さないようにした。オリオン王国に帰ってしまっては元が崩れてしまうからである。
ルドルフはミント王都の開発にのめり込んでいった。町を造る事はルドルフにしたらもの凄く楽しい事であった。最近は政務を行うだけで書類に目を通して家臣に渡すだけという事が多くなっていた。現場に出ることなどここ数年無かった。久しぶりの現場でルドルフは一人テンションが高くなっていた。
「アレク、ルドルフ英雄伝説は順調か。」
「勿論です、今はミントの開発に専念していますが、カルメン王国を倒したのちにルドルフ兄が率いるミント王国が南下します。」
「大丈夫かぁールドルフ兄はそう簡単に動かないぞ、ましては他国の国の兵となど行かないだろう。」
「フフフ、カイン兄そこは任せてくください。ミント王国にはマリアーヌが嫁いでいるんですよ。もう協力の了解は船員に取ってあります。一番協力的なのがなんと父上です。」
「マジか。」
「そうなんですよ、父上もルドルフ兄を英雄にすることを少し考えていたようです。」
「そうだろうな、俺達と違ってルドルフ兄は内政ばっかりやらされたもんなーー。」
「それはしかたないですよ、ルドルフ兄はオリオン王国の次期国王ですからね。」
「そうだな俺たちは国王と言ってもオリオン王国の領主みたいなもんだからな。」
「そうですよカイン兄、気楽なもんですよねー。」
アレクとカインは大きな勘違いをしている。
アレクもカインも大国の王である。その国の家臣たちはアレク達の勝手な行動のせいでいつも振り回されていることを二人は知らない、いや気にしていないのだ。
アレクとカインはカルメン王国について作戦を練っていた。
アレクの考えはリシル王国軍が進軍する事を前提に考えていたがリシル王が難色を示している。
リシル王はアレク達が付いていれば勝つことは承知している。リシル王はアレク達が強すぎる事が問題であった。アレク達がリシルにいる間はいい、だがアレク達は他国の人間である。いずれリシル王国から離れて行く事は分かっていることだ。
その時にリシル王国軍がアレク達に頼りっきりの状態になる事を嫌っていたのだ。
アレクとリシル王はリシルが気にしている事柄の解決案をアレクが提示した。それはカルメン王国はアレク達がすべて担当する。その代わりに隣国の比較的規模の小さい国カルメン王国の属国に侵攻してもらう事で両者の合意となった。
リシル王国は小国である。国土としてはカルメン王国の20分の1ぐらいの国土しかないのだ。アレクとしたらリシル王国が小国のままでは都合が悪い、もっと大国になって南部地域を纏めるぐらいになってもらうために国土を広げてもらいたいのだ。
そのためにカルメン王国は絶好の相手であった。国土も広く立地もいい。リシル王国が支配できればアレクとして見れば一番いいのであった。
リシル王も野望が無いわけでもない。アレク達に支援してもらいカルメン王国をうち破る事は夢にまで出てくる。
でもリシル王はそれをやらない。アレクやカインの事は悪い人間とは思っていないが。いい人間とも思っていない。
アレク達はオリオン王国の人間であり。このリシル王国を標的にした人間である。
一歩間違えればリシル王国は滅んでいたのだ。リシル王はいい様にアレクに利用されることを嫌ったのだ。アレクの提案はもの凄く魅力的である。小国のリシル王国が大国のカルメン王国と対等異常に戦えることなど普通ではありえない事だがアレク達の支援があればそれが可能である。
だがそれが問題になってくる。小国のリシルが大国のカルメン王国を占領したならばリシルが王となる事になってしまう。カルメン王国はリシルの国土だけでも20倍、人口などは30倍はあるだろう。
その少数の者達が支配した場合、最初は従うだろうがいずれ反抗勢力となる事は分かる。そのためには兵を集め味方にしなければならない。リシル王は短期間では無理だと判断したのだ。時間をかければそれも可能であろうが圧倒的な力を持たないリシルには無理だと判断をさせていた。
アレクはリシルの考えを称賛した。普通は喜んで協力する者が多い中でその後の事を考え行動できるリシルは貴重な存在に映ったのだ。
アレクはリシルがいずれこの地域の盟主的な立場になる事を望んでいた。
「アレク殿、カルメン王国との戦争は完全に滅ぼすつもりなのか。」
「いいえ、カルメン王国は国としては滅んでもらいます。」
「国としては滅ぼすか。」
「ええそうです、調査をしていると色々とカルメン王国は腐っています。国の形態を変えないと後に民が苦しむことなりましょう。」
リシルはアレクの考えが理解できる。理解できるが行動には起こせない。滅ぼされる王族や貴族達にもいい人はいるのだ。国を思い日々努力している者も大勢いるのだ。
リシルはアレクの達の簡単に国を亡ぼせる力を恐れている。まだ話の出来るアレク達ならばいいが、後のオリオンで力を持った話の分からない者が王になった時にどうすればよいのかがリシルには答えを見つけることができなかったのだ。