361話
カルメン王国
「兵は集まっておるか。」
「はい陛下、集まっております。」
「他の者達には分からぬようにな。」
「承知しておりますが、本当によろしいのでしょうか。」
「交易の事か、仕方がないだろう、このままではカルメン王国の港は干上がってしまうからな。」
「はい、ですが・・・・・。」
カルメン王国は秘かに兵を集め奇襲攻撃によってリシル王国を占領しようとしていた。だがそんなことはアレク艦隊の警戒網によってばれていた。
「アレク様、カルメン王国は兵6万を集結させています。」
「いつ頃こちらに来る。」
「はい、あと1万が移動中ですので後1週間はかかると思われます。」
「そうか、新しい港を目指すのだろうな。」
「はい、港を占領した後に王都へ向かうと思われます。」
アレクはカルメン王国の動きを完全に把握していた。兵がどのくらい集まり、何処を攻めるのかを分かっている。アレクはあえてカルメン王国に奇襲させて大義名分を手にする算段であった。
敵に攻撃させる事実さえあればいいのであって、被害を受けるつもりなど微塵もない。
攻撃の予定されている日は民には避難させて被害が出ないようにするつもりであった。
そんな事とは知らないカルメン王国は兵たちを秘かに移動させていた。
「どうだ我が作戦に一分の漏れも無かろう。」
「さようですな、これでリシル王国を占領した後にあの艦隊を手に入れる事が出来れば、わが国は最強国家となりましょう。」
「艦隊を無傷で手に入れられるかが肝だな。」
「それは海から闇夜に紛れて船で接近いたします。それで敵艦隊を占領後に夜明けとともに兵たちが港に攻め込む予定になっております。」
「そうか、頼むぞ。」
カルメン王国は真夜中、訓練された部隊が沖合より秘かにアレク艦隊に接近していた。
アレク艦隊の者達はあえて乗り込ませるつもりのようだ。
カルメンの部隊はある艦隊の1隻に接近してロープをかけて乗り込んでいった。
誰も声を出さないように乗り込み船の乗組員を拘束するか殺害するためにばらけていったが一人として元の位置に戻る者はいなかった。
アレク艦隊強奪の指揮官は、部下を待っていたが一人も戻らない事で不安になり下で待つ者に指令を出そうとしたことろを後ろから手刀をくらい意識を失った。
乗り込む準備をしていた強奪隊の残りも秘かに捕らえられていた。
アレクはカルメン王国がアレク艦隊強奪を成功したとの情報をカルメン王国兵の部隊に流し予定通りの行動をさせるのであった。
カルメン王国軍
「艦隊の動きはどうだ。」
「はっ閣下、予定通りに港から沖に移動しております。」
「では成功としてよいな。」
「はい、全艦隊が一斉に沖合に移動しております。予定通りですので間違いありません。」
カルメン王国の連絡手段はアース大陸の連絡手段よりだいぶ遅れていた。アース大陸では通信で遠くの者達と会話が出来るために瞬時に伝達が出来るが、カルメン王国では伝令が各部隊に伝える事しかできなかった、そのために海にいるカルメン王国の者と陸にいるカルメン王国軍の間で距離があり伝令自体が間に合う事が出来ないために艦隊行動での伝達という手段をとっていたのである。
アレク達は捕らえた捕虜たちからその事を聞き出し手順通りに行動したのだ。
「手順通りだな。」
「はい、これで陸にいる者達は港に向けて進軍するでしょう。」
「心配は、カイン兄だけだな。」
「・・・・・・」
そうアレクが心配しているのはカルメン王国と対峙するカインの事である。カインは部下と共に港に陣取っているが、敵に攻め込ませるために演技をしなくてはならなかった。アレク艦隊がカルメン王国に捕獲されたと思わせなければならなかったのである。
夜明けとともにカルメン王国軍は港を包囲していた。港の中では焦ったふりをするために、慌てた振りをしていた。
それは沖合にいるアレク艦隊から見ていると滑稽にしか映らなかった。
何しろ港にいるのはカインの部隊とリシル王国軍の兵、空兵隊の面々たちだけである。それを民がいるように見せなければならないために兵たちは港の中をかけずりまわっていた。
その事が分かっているアレクはもうおかしくて仕方がない。滑稽に映っているのだ。演技をしているカイン達は必死でやっているだけに可笑しさが倍増されていた。
「リシル港の者に次ぐ、沖合にいる艦隊は我がカルメン王国がすべて捕獲した。この門をかけ降伏しろ。」
「ナニヲイッテイルノダ。ソンナコトデキルワケガナイダロウ。」
「お前がこの場の司令官か、いいだろう捕獲した証拠を今見せてやる。」
カルメン王国の将が片手をあげると、その後ろの者が赤い大きな旗を揚げた。沖合の艦隊でも確認できるほどの大きな赤い旗が振られると、艦隊から港手前に砲撃が来たのであった。
「どうだ、見たか艦隊を我がカルメン王国がすべて掌握しているのだ、この港を火の海にしたく無ければ門を開けよ。」
「・・・・・ソンナコトデキナイ。」
「ん、お前少し変だな。本当にここの司令官か。」
「わわ分かった。門を開ける。」
カインは演技という事で緊張してしまい台詞が棒読みになってしまい。本来は門は開けない予定であったが開けると言ってしまったのだ。
焦ったのは近くにいた者達である。近くにいた者達も演技をしていたがカインの台詞に笑いをこらえる事に必死になっていた。それが予定にない門を開けると言い出したことで演技ではなく焦ってしまっていた。
「ししし司令官閣下、門を開ける事はダメです。」
「あっ間違った。もういいや、お前たちカルメン王国の兵を倒せ。」
カインは演技に疲れ果て予定をすべて台無しにする発言をしてしまった。
まぁ何も気にしていない獣人部隊はカインの指示が飛ぶと港の門を大きく開けて飛び出していった。獣人部隊の者は港町の城門の外にいる6万もの兵に1000人で突撃していったのである。
その行為はカルメン王国から見れば自殺行為にしか映らなかった。
カルメン王国にしてみれば総勢7万の軍である。港を囲んでいる兵だけで6万もの兵がいるのだ。たかが1000人の兵に負けるわけがないと思うのは間違いではない。ただそれが普通の兵の場合である。獣人部隊の1000人はカインの鍛え上げた部隊である。半数の500人でもカルメン王国軍は殲滅されるであろう。
「あーーーー、カイン兄が攻め込んでしまったー。」
慌てたアレクは、艦隊に指示を出していく。カルメン王国軍を逃がさないようにワイバーン隊と小型艦で敵を包囲するように指示を出していった。