360話
リシル王は不機嫌であった。
先日のSEオリオン王国の王である。アレクとの会談でリシル王国としては好条件での講和となっていたが、それはリシル王国の選択幅が無くなったことを表していた。
リシル王国はカルメン王国と敵対しているが戦争状態にまではなっていない。リシル王がカルメン王国とうまく付き合っていたからであった。だが今回のアレクとの会談でカルメン王国との付き合いが変わってしまうのである。
賢王と言われているリシル王であるが、フロンティア大陸の古くからの慣習を撤廃することは出来ないでいた。特に奴隷制度や種族差別である。
リシル王国もそうだが人間上位主義のようなものが根付いている。
フロンティア大陸では獣人、エルフ、ドワーフ他と色々な種族がこの大陸で生活しているが、人間以外の国は存在していない。そのために人間以外は低く見られているのだ。獣人や、エルフ、ドワーフでも平民は沢山いる。奴隷の中でも人間もいる。
それでも奴隷の中に獣人、エルフ、ドワーフが多くいる事に変わりはない。
リシル王はこの奴隷たちを何とかしたいと日ごろから思っていたが、奴隷は財産で有る事から一方的に奴隷制度の破棄は出来ないでいた。
「どうしたものかな。」
「陛下、種族平等の事ですか。」
「宰相か。」
「そうだな、種族平等は私も実現はしたいが中々難しいだろうな。」
「さようです、種族平等は国などが一度滅びない限り難しいでしょう。」
「アレク殿の計画を聞いたときは驚いたが実現すると思うか。」
「すべての国が敵になるでしょうな。それを跳ね返す力がアレク王にあるのかは臣には分かりません。」
「そうだなすまぬ。」
アレクの計画はカルメン王国の征服であった。隣国であるリシル王国がアレクに付くと分かればカルメン王国としては許せない行為である。リシル王国はフロンティア大陸の国であるカルメン王国と多少の敵対行為はあるが、よそから来たオリオン王国系の国と手とつなぐ事等カルメン王国としてはあってはならない事である。実際はカルメン王国が交易を独占したいための方便であるが、心情的にもフロンティア大陸の国対別大陸の国という考えが定着していた。
カルメン王国はリシル王国の監視を行っていた。アレク艦隊がリシル王国へ宣戦布告したことは周りにある国々は承知している。アレク艦隊がどの程度の戦力で破壊力があるのかを確かめる意味もあり、リシル王国を生贄のように思い監視していたのである。それが一戦も交えずにリシルが降伏してしまったのだ。
それも好条件での降伏である。カルメン王国や他の国々が肩透かしを食らったのだ。
カルメン王国は別大陸との交易を壊したくはない。カルメン王国は交易で巨万の富を独り占めしている。フロンティア大陸の他の国々はカルメン王国のおこぼれを貰うだけであった。
だがここにきて状況が変わってきたのだ、リシル王国とカルメン王国との国堺にリシル王国とアレクによる共同の交易を目的とする港の建設が行われていた。大々的に戦で多くの人夫を募集したことからリシルだけではなく隣国の民たちも金が稼げるとリシル王国に押し寄せていたのである。
何もなかった崖と砂浜に、ものすごい勢いで港と町の建設が進んでいる。
この1月でもう形が出来つつある。そのさまを監視しているカルメン王国の者達も唖然としている。風上ではありえない速さで開発が進んでいる為に国への報告が毎日変わってきているのである。報告を受けている方の担当は虚偽の報告だと思い別の調査隊を派遣する騒ぎにまでなっていた。
そんなすったもんだをしているうちにも工事は進み2月で港が開港されることとなった。
続々と交易船が押し寄せる、リシル港にカルメン王国の報告が追い付いていかない。
監視者たちは誠実に報告しているのだが、事実がカルメン王国の者達に理解できなかった。普通は港の建設など10年以上の大事業である。1月や2月で終わるような工事ではないのがフロンティア大陸の常識である。
まぁ他の大陸、オリオン関係者以外の者達の常識である。
カルメン王国
「何故今迄報告がなかったのだ。」
「申し訳ございません、陛下。わずか二か月で港が出来るなど常識では考えられません。そのために再調査の部隊を派遣しておりました。」
「どうして3か月の余に全く報告が上がってきていなかったのだ。」
カルメン王に報告に来ていた高等官僚は額からダラダラと汗が落ちている。現地からの報告はきちんと毎日届いていたが、それを城にいる者達は疑ったのだ。嘘報告として処理したためにカルメン王への報告が一切されていなかったのである。
カルメン王は関係者全員を集めだし事実確認をしてやっと真実が把握できたのであった。その事実確認でも1月もかかってしまった。この1月がカルメン王国へ経済的大打撃を与えていた。
今迄、交易船がカルメン王国へ来ていたのだがリシル港へ皆変更していったのである。
アース大陸、タンドラ大陸の国に所属する交易船はすべてリシル港へ変えてしまったのである。そのためにフロンティア大陸の国々の交易船もリシル港へ移っていったのである。
カルメン王国の港と都市はゴーストタウンとなっていた。
港の酒場
「おいカルメン王国はつぶれるんじゃないか。」
「滅多のこと言うなよ、誰が聞いているか分からんぞ。」
別の酒場
「ここまで人が少なくなると商売はもうできないな。」
「うちの店は明日で閉店だ。」
カルメン王国の中で交易船が来なくなり民たちの生活が圧迫されていた。
カルメン王国の城の者達が監視者の報告をきちんと報告していたならここまでの事態にはなっていなかったであろう。カルメン王国も交易に関して対応が出来ていたのかもしれないが、3か月も何もしなかったことで状況が一気に悪くなったのだ。
カルメン王国は、リシル王国に抗議の使者を出したがもう後の祭りである。
リシル港が稼働してしまっている為に寄港する自由は船の持ち主の自由である。
カルメン王国では港を中心に民たちが騒ぎ出していた。
カメルン王は、その責任を城の担当者にすべて負わし公開処刑としていた。公開処刑された高等官僚は20人にも及んでいた。
それですべて解決する訳もなく、一時的に民を抑える事しかできなかった。カルメン王国は何とか民の意識を事実から反らそうと、リシル王国の陰謀説を民に流したのである。
この陰謀説は民たちに受け入れられた。民たちも嘆くばかりで解決の糸口を探していたのである。カルメンの港からリシル港へ行ってしまったのならばリシル港を奪えばいいのではと結論になってしまったのである。
カルメン王国全土から兵を集め秘かにリシル制圧作戦を進めていた。