340話
レインはジェントス王都からドラゴンたちを連れて離れていった。
ジェントス王城では皆疲れ切った顔をしている。レインが城にいた時間は1時間ぐらいであったが何時間にも感じられていた。
そんな中一人の貴族が話し出す。
「陛下、ミント伯爵領をこのままにはしておけません。」
他の貴族達は何も言わない。ドラゴンを見た後で何を言っているのだと言う顔をしている。あれ程の力を見せつけられてミント領などに手を出せるわけがない事は分かり切っているのだ。
それを何事も無かったように陛下に進言する事等考えられない。この貴族はドラゴンなど平気だったと思わせたいだけであった。
この貴族の集まっている場所で自分は平気だったと思われればいいだけだった。そのための陛下への言葉だった。ジェントス王も貴族の言葉の意味を理解していた。
そこで「それなら卿にミントの討伐を任せよう。」
王は貴族に対して意趣返しの意味での言葉だった。それに乗ったのが他の貴族達であった。
この貴族は他の貴族達から少し嫌われていたのかも知れない。少しだけ見栄を張ったこの貴族はもう引っ込みがつかなくなっていた。
貴族は困った。少し見栄を張っただけの言葉で窮地に立たされてしまったのだ。
あんなドラゴンに勝てる訳がない。況してはこの貴族には纏まった兵もいない有様であった。
貴族は準備をするといい、この場は収まったがもうこの貴族が表舞台に出る事は無いのだろう。隠れて生活をする事しかこの貴族に生きる道は残っていなかった。
そんなジェントス王国の者達が今後の対策をしていると、ミント伯爵領に侵攻していた軍の幹部たちがほぼ裸の状態で王都へ戻ってきたのだ。連れて行った兵はいない。兵たちはそのまま自分の領地に戻ってしまっていた。
軍の幹部たちは王都へ入る前に門兵から衣服を貸してもらい王城へと連れていかれた。
そこで王から事の詳細を尋ねられ、軍の幹部たちは誇張して伝え、いかに強敵だったか、いかに困難であったなどをさも自分たちが負けたのは少し運が悪かっただけのように伝えていた。それを聞いている王や貴族達は無表情であった。
この者達は王都でのドラゴン騒動の事を知らないのだ。
レインが事の詳細を伝えていることを知らないために自分たちの都合の良い言葉で自分たちを擁護しているのであった。
「それで卿らはなぜ裸で帰ってきたのだ。」
「そ、それはし、資金が仕方なく食料に変えました。」
「ほーっ、食料に変えたのか兵たちも卿らに感謝していただろうな。」
「そ、それはもう、兵たちはありがたがっていました。」
得意になる軍の幹部たち、冷めた目で見る王や貴族達。この温度差に全く気付かないこの貴族と軍の幹部たちはある意味、凄いと言えた。
だがその特意げな顔も王の怒りの前に真っ青に変わっていた。
王から事の詳細が分かっていることを伝えられた従軍した貴族と軍幹部たちは何も言えなくなっていた。
「嘘の報告をした罪は重い。いいか戦に負ける事はあるのは仕方のない事である。100戦して100勝など出来る者では無い。だが嘘の報告で今後の方針や作戦が間違った方向へ進むことなど有ってはならない。お前たちはジェントス王国軍の者である。軍の者が虚偽の報告をしてしまったらどうなる。」
「・・・・・・・・・・」
裸で帰ってきた貴族、軍幹部たちは牢にそのまま連れていかれた。
正直に負けた経緯を伝えていれば牢になど入れられることはなかったのだ。やっと帰ってきた王都で温かい食事やふわふわなベッドで休むことが出来たのである。
それは夢と消えてしまった。
ジェントス王国は数日、ミント領の協議をしたが妙案など出るはずもなく。静観する事となった。
王としてはもう関わりたくないと言うのが本音であったが、そうもいかないのが王の辛いとこだ。
王は使者を出し停戦を望んでいたが、ジェントス王国貴族達は兵が戦死している。2度も負けている事が敵わなくとも納得出来ないのであった。
このままではジェントス王国の権威が落ちてしまう事が許せないのだ。要は自分たちの力が落ちる事が許せないのである。
貴族達はジェントス王国の王都周辺、南部、北部の貴族達で意見が分かれていた。
王都周辺の貴族達は王に従うように発言をしている。ミント領近くの貴族達はミントとの融和を進めたい考えだ。逆にジェントス王国南部の貴族達はミントへ再侵攻をする考えであった。
全く纏まらないジェントス王国であったが、ジェントス王国内で反乱が伝えられると事態は一変した。
王都に伝えられたのが反乱であったが実際は間違いであった。反乱と言えばそうであるが戦ってはいない。
ミント領に近い領地の農民達がミント領にただ保護を求めたのだ。
ミント領も農民の保護、ミントから言わせれば難民である。
これはミント領が民の税を宣伝したことが影響していた。ジェントス王国では農民の税は5割を納める事となっていた。だがミント領では3割と宣伝していたのである。
実際のミント領では農民たちは税すら納めていなかった。レリウスたちが来るまでは荒れた農地しかなかったからである。荒れた農地で税など納める事等出来るはずもなく、ミント伯爵は民からは気持ち程度の税しかとっていなかったのだ。それでも民は飢えがりがりにやせ細っていた。
レリウスたちは荒れた農地を豊かな土地に変え農地開発を短期間で行なっていた。アレク艦隊の者達や木人、機人がいたことで作業は短期間で済んでいた。
アレク達艦隊の者達は慣れたものである。ちょちょいのちょーいとやってしまった。
旧ミント領も農地開発を行っていると、商人たちから近隣の領民に豊かな農地があると伝わっていったのだ。それと税が3割になると伝えられると、近隣の食べる事にも困っている小作人や仕事の無い者達が領地を捨ててミント領まで押しかけてきたのだ。
アレクはこの現象を予測していた。以前のオリオン王国でも同じ事が起こっていたからである。
アレク艦隊の者達はテキパキと難民を受け入れ食料などを支給している。
新しく開発予定の町や農地に送り込んでしまっている。勝手にアレクが采配しているのだが誰も文句を言う人はいない。
領主であるミントでさえ何も言えない程に見事に難民たちを保護しているからである。難民たちのこれからの生活を視野に入れた割り振りなど学ぶことが多く、伯爵、伯爵の家臣たちはアレクのやり方を必死に学んでいた。
アレクはレリウスたちやミント伯爵の家臣たちに指示を出し開発をさせるようになっていった。
カインは一人でふてくされていた。勢いよくドラゴンに乗ってきたのだが戦いが出来ずにいた。
「アレクーーー、戦いはないのか。」
「もうすぐありますよ。」