338話
ジェントス王国の兵たちは疲れ切っていた。
武器もなく鎧もなく身軽であるが心が果てしなく重かった。それは勝てると思っていたミント伯爵領への侵攻で何も出来ずに大敗したからである。
貴族達は領地を失い、下手をすれば爵位も取り上げられるほどの失態である。爵位が残ってもこのいでたちで王都へ戻れば笑いものになり貴族としてはもう終わりである。
命が助かり、少し余裕が出来たのかこれからの事を考える余裕が出来ていた。
裸の貴族達が到着する少し前
ジェントス王国の王城では王を始め大貴族達が暗い顔をして会議をしていた。ミント伯爵領の侵攻作戦から失敗迄の詳細が届いたのだ。
まだミント伯爵領での戦争に負けただけならばそんなに問題にもならなかった。いや問題にはなったがまた侵攻すれば解決する程度の問題で済んだのだが、旧ミント領を取られただけではなくその負け方であった。
ジェントス王は伝令からの報告を聞いてめまいがしてきた。ドラゴン4体に囲まれたという報告である。
「本当にドラゴンなのだな。」
「間違いございません。ドラゴン4体とグリフォン1体がおりました。」
「そうか分かった。」
重い雰囲気の中ジェントス王が集まっていた貴族達にドラゴンを討伐できるものは居るのかと問うが誰も返事をしない。
それはそうであろう、ドラゴンなど見たことも無い者達である。
そこにまた伝令がノックもせずに入ってきた。
「何事だ、今は誰も来ることは許さん。」この国の偉そうな貴族が伝令に向かい怒鳴っている。だが伝令も緊急の伝令の為に引き下がらない、無視をして王に伝える。
「報告します。王都にドラゴンが現われました。」
伝令の言葉に一同が言葉を失う。
「ド、ドラゴンは王都を襲っているのか。」
「いいえ、王都の門で4体のドラゴンと1体のグリフォンに乗った少年が王への謁見を望んでいます。」
ジェントス王は少年一人という事に違和感を覚えた。普通であれば使節団なり交渉のプロが来るはずである。ミント伯爵もその辺は分かっているはずである。そこをあえて少年とドラゴンで来ることにものすごい違和感を覚えていたのである。
だが周りの者達はドラゴン4体に気を取られているのか全く気付いていない。
ジェントス王国の王都に着いたレインはドラゴンたちに東西南北の門の前に居座るように伝えるとレインはグリフォンと共に王都内に勝手に入っていった。それを止める事も出来ずに見送る門の兵士たちであった。
レインは誰一人通っていない王都の大通りを眺めていた。ここでレインは買い食いをしようと思っていたのだ。大失敗である。
ドラゴン騒ぎで王都の者達は家の中で震えていたのであった。突然のドラゴン襲来でそれまで賑わっていた町は誰一人表を歩く者がいなくなっていた。
商店も店は開いているが人の気配がしない。奥に隠れているのだろう。
レインはある食堂の前まで来ると大きな声で「すいませーーーん。ごはん食べれますかー。」
店の主人は突然の声に驚いたが子供の声であったことも有り奥から顔をのぞかせた。
「おい、早く隠れろ。ドラゴンが襲って来るぞ。」
店の主人はレインを手招きしている。レインは店の主人に説明をする。
「大丈夫ですよ。ドラゴンを連れてきたのは僕ですから、王都を襲うようなことはしませんよー。」
このレインの言葉に店の主人は信じられないと言う顔をしていた。普通は信じない。
だがドラゴンが現われてからもう1時間以上がたち王都は静まり返っている。店の主人もあれ?王都は大丈夫かなと思っていたのである。
そこにグリフォンを連れた少年の登場である。
店の主人は勇気を出して奥から出てくる。レインが食事を頼むと主人は店の自慢の料理を作りだした。静まり返っていた近所の者達はこの会話を聞いていた。そしてこの店を中心に徐々に広がり元の騒がしい町に戻っていったのである。
レインが食事を終えるころにはその輪も広がり人の動きが出てきていた。
食事が終わるころに食堂に騎士の鎧を着こんだ4人の騎士がレインの前に現れていた。
「あ、貴方がドラゴンを率いてきた者ですか。」
「そうです、僕がドラゴンと此処に居るグリフォンを連れてきました。王との謁見を望んでいます。」
「陛下との謁見ですが、事前に内容を聞くことは出来るでしょうか。」
「んーーー、無理ですね、ですが僕は使者ですからこの王都の民や王に危害を加えるつもりはありません。そこは保証しましょう。」
騎士たちはいったん城へ戻りまた来ると伝えると足早に去っていった。
しばらくするとまた騎士たちが着て王城へ案内すると伝えてきたのだある。
レインは騎士たちに着いて行く事となり相棒のグリフォンと共に王都の町を歩いて城へ向かった。
迎えに来た騎士たちはレインに馬車に乗るように伝えるがグリフォンが馬車に乗れない事で歩いて城へ向かうと断ったのである。
王城に着くと城門から王の謁見の場所まで両端に兵がずらりと並んでいる。ジェントス王国としては最大限の警戒をしていたのだが、レインには歓迎しているように映っていた。少しずれているレイン。
そんな警戒されている兵たちの中を通って王との謁見の間に到着する。
王は玉座に座り、レインが頭を下げるのを待っていたが、レインはそんな事はしない。普通に話し始めた。
周りにいた貴族達はレインが王に対して頭を垂れると思っていたのだ。ドラゴンの事など忘れてレインに対して「そこの小僧陛下に対して不敬であるぞ。」「小僧、膝をつけ。」等と色々と叫んでいる。
レインは言葉のする方に向き直ると「何か勘違いをしているみたいだね。僕はジェントス王国の家臣でも何でもないよ。」
その言葉に周りにいる貴族達は又激怒りである。
もう収拾が付かなくなっていた。
レインはグリフォンを同席させていない。さすがに王との謁見で横にグリフォンを連れていくことはしていなかった。それが貴族達から恐怖を取り除いていたのだ。今目の前には少年しかいないことが貴族達の気を大きくさせる要因であった。
ジェントス王も黙って成り行きを見守っていた。王としては何かあれば責任を貴族達に負わせるようにすることで自身の保身を考えていたのだ。
集中口撃を受けているレイン。調子に乗って口撃をする貴族達。
10分ほど口撃を黙って聞いていたレインは「もう言う事はないですか。」
また怒る貴族達だが次の瞬間、口撃していた一人の貴族の首が無くなっていた。
「「「「ヒッ。」」」」
一緒にして静まり返る広間。
「ジェントス王との会談にきたというのに周りの者達が喋っていては僕が王と話せないでしょう。少し黙っていてね。」
貴族を殺した事等無かったように喋るレインを見て今まで口撃をしていた貴族達は真っ青な顔をしている。
レインはジェントス王に向き直り、レリウスたちとの打ち合わせの内容を王に伝えるのであった。




