330話
それからは物凄い勢いで話が進んでいった。
張り切る女性陣が大騒ぎしながら準備していく。
その間アレクはメルミートと話をする。ジェントス王国とミント伯爵領についてだ。
ジェントス王国の北部に位置するミント伯爵領は今没落の一歩手前まで来ている。その理由として魔物が活発化され領地が荒らされている事が大きな原因となっている。元のミント伯爵領は王都付近にあったが貴族の派閥争いに巻き込まれ領地替えをさせられていた。そこはジェントス王国の領地となっているが管理できずに放置されている場所であった。何とか10年の月日をかけて小さな町と村の開拓に成功するが来年からジェントス王国へ税を納めなければならず。開拓領地の税免除が10年で切れてしまうのだ。ミント伯爵は開拓の為に伯爵家の貯えをつぎ込みここまで開発してきたが資金も底をつき来年の税が払えなければ王国の代官が乗り込んでくると言う事であった。
ミント伯爵領は町一つ、村が3つで人口は5000人程度である。王国の伯爵領としては考えられない少なさである。逆に領土は広く管理できていない状態となっている。
「ようは人口が少なく開発が出来ない。金がない。領地を管理出来ていない。という訳だな。」
「はっきり言いましてその通りです。」
「よし、結婚式までまだ準備には時間がかかる。その間にミント領の問題を解決するぞ。」
メルミートは義父になるアレクが何を言っているのかが、すぐには理解できなかった。メルミートと父の伯爵で解決することが出来ない問題なのである。それを簡単にアレクが解決すると言っているのである。頭が着いて行かなくとも仕方のない事である。
アレクはミルに相手の両親に挨拶をしてくると伝えメルミートと一緒に飛び立ってしまった。
そこについてきたのはレインである。アレクが艦隊を半分残して準備していることをいち早く気づき同行の許可を取ったのである。
他の兄弟達は悔しがっていたがタスポ港を空にするわけにもいかないために泣く泣く居残りとなった。
アレクが引き連れている艦船は大型戦艦3隻中型艦2隻空母2隻小型艦10隻である。大型戦艦を抜きにしても通常の艦隊規模となるこの大艦隊は人目をかなり引いていた。
アレクがタスポに到着した日から噂が広がり、その噂は尾ひれがつき、フロンティア大陸に侵略してきたとほら話がフロンティア大陸を南下していっていた。
そんなことなど全く知らないアレクはメルミートにジェントス王国の事を色々と聞いていた。
メルミートは大きな勘違いをしていることにまだ気づいていなかった。
アレクが別大陸の王であることは聞いていたが別大陸まで名が知れている人物とは知らなかってのだ。そしてオリオン王国とオリオン家の事は知っていたがミント領の事で外の噂まで気がまわらなかったこともあり、ただの一国の王と思っていた。通常一国の王だけでも物凄い事なのだ。
メルミートは最大限の緊張と気を使っていたがまったく気にしていないアレクに戸惑うばかりであった。
メルミートに付きの者達もアレク艦隊の者達と打ち解けて色々と話を聞いているようであった。
ミント領の家臣たちはアレク艦隊の乗組員が平民と貴族の垣根が低い事に驚いていた。
ジェントス王国では貴族と平民が話をする事自体ない事であった。軍でも上官と兵であるために命令を下すことはあっても平民から声を掛けられる事等ありえなかった。
だがこのアレク艦隊では、平民が上官となっていたり、休憩の時などは敬語もなしで話している。
アレクがミント領に飛び立ったその日、獣人王国でフロンティア大陸を目指す真っ赤に塗装された艦隊が離陸の準備をしていた。アレクから娘のマリアーヌが結婚するから式に出てくれと通信を兄弟姉妹と両親あてに送っていたのである。気の早いカインは争いの匂いを嗅ぎつけていち早くフロンティア大陸に行く事にしたのであった。
ミント領に着いたアレク達はメルミートの案内で領主館を訪れていた。
アレクとメルミートの両親は挨拶を交わしていた。
「アレクス王、よくこんな田舎においで下さいました。この地を預かるメスト・ミントと申します。」
「妻のメリーナでございます。」
「次男のマルトルです。」
「長女のメリッタと申します。」
「よろしく頼む、今回はミント家の嫡男である、メルミート殿とマリアーヌが恋仲になり結婚の意志を聞いたのでな。親として希望をかなえてやりたい。許可をいただけるかな。」
「許可も何も好きな者同士であれば私たちは何も言う事はありません。ですがアレクス王にご迷惑が及ぶ恐れがございます。お恥ずかしい話しでありますがミント家はジェントス王国の者達から嫌われております。」
「メルミート殿からはジェントス王国の貴族達にはめられたと聞いておるが詳しい話は伯爵から聞こうと思ってな。」
ミント伯爵が語ったことは、ジェントス王国貴族争いに巻き込まれ領地替えにあったと言う事だが、そこには王家が絡んでいた。
王の子供が新しく家を立ちあげる事になり王都に近く豊かな領地が無かったことが発端であった。当時の王国宰相であった侯爵がミント伯爵の領地に目を付けたのだ。
色々と国や貴族達から難癖をつけられ、ミント伯爵家は当時追い詰められていた。そこにジェントス王国の王が貴族同士の争いを納める名目でミント伯爵領を召上げ、代わりに王国自体管理できない土地に転付させられてしまったのだ。ミント家は抗議したがジェントス王国の王族や貴族がミントの敵に回っている為に従う他に生きる道がなかったのだ。
現状のミント領は人口では500人とそれなりの人数はいるがそのほとんどは貧困層となっている。
ミント家も農地開発を行っているが一から始めなければいけなかったためにまだそれほどの開発が出来ていないのである。5000人の人々がやっと暮らせる程度の作物がとれるぐらいであった。
来年に王国への税が発生することになればミント伯爵領は税が払えずそこで終わりになるしかないのである。ジェントス王国では貴族が王国に対して税を払わない場合は借財となるシステムがあるが、今のミント領には適用されないようになっている。開発領地では10年間の無税という優遇措置があり、優遇措置の切れる年の税だけはこのシステムにあてはめない事となっていた。
ジェントス王国と大貴族達はミント伯爵家をいじめる事で貴族達の不満や優越感を与えていたのだ。王家も一つの貴族家を生贄にすることで他の貴族達が大人しくなるのであれば言う事は何もなかったのである。
「ミント伯爵、そんな国は捨ててしまってどうか。」