317話
反乱軍の残り約7万は動くことが出来なかった。周りを小型艦に包囲されているからだ。
この中には高位貴族、職業軍人、皇帝崇拝者幹部などのお偉いさんが大勢いる。
前面に出した兵8万が壊滅して今となってはこの7万の軍が兵力のすべてとなるが小型艦に包囲されている今は身動きが出来ない状態である。
「どうするのだ。このままでは負けてしまうぞ。」
「閣下、落ち着いてください。崇拝者の中で特攻隊がおります。空を飛ぶ船には対抗できませんが、陸上の兵相手なら勝てます。その隙に御料地に戻りましょう。」
「そ、そうかでは特攻隊を出してそのすきに転進する事とする。」
反乱軍は負ける事はないと思っていた。何しろ15万もの大群である。帝都に入れば味方しかいない状態で帝都近郊で負けるなどありえないことが起きてしまったのである。
軍の指導者たちは騒ぐばかりで何も出来ない状態となっていた。そこにこの軍の参謀格である崇拝者幹部が特攻隊をアレク達に向かわせることになったのだ。
この特攻隊、人としてはありえない事である。要は自爆するのである。
敵の近くまで近づき自爆する。生き残る事を前提としていないことが問題である。
この軍を取り囲んでいる艦から魔法機関弾が軍に撃ち込まれ、約2万にも及ぶ死者を出したところで艦隊から空兵隊が降下して敵軍の幹部を捕らえようと反乱軍に詰め寄ろうとした時に反乱軍の中から敵の特攻隊が飛び出してきたのだ。
アレク艦隊の者達はただ敵がこちらに向かって走っているようにしか見えない。アレク隊に近づいた特攻隊はもう死ぬ寸前までになっていたが、最後の力を振り絞り自爆のスイッチを押した。
アレク隊の前面数か所で大きな爆発が起きた。
バゴーーン。ばあーーぁぁん・・・・・。
「あ、あいつら自爆しているぞ、一旦下がれ。下がれーーー。」
「下がれーーーー、下がれーーー。」
アレク隊の者達は敵兵が自爆する事をいち早く確認した事により被害は最小で抑える事が出来た。
「このまま包囲して艦からの攻撃に専念する。」
「ハッ、了解しました。」
「報告します、反乱軍一部離脱していきます。」
「敵の主力と思われる一団です。」
「反乱軍の指導者だな。小型艦を1隻そこにまわして上空から降下して拘束しろ。敵中なら自爆はしないだろう。」
「はっ直ちに手配いたします。」
自爆をする特攻隊に対し距離を取るアレク艦隊の者達だがそれを無視する者達がいた。カイン達獣人隊の者達である。自爆の音を聞いたカインは獣人隊1000人を引き連れて駆けつけていた。カインは敵兵が自爆することを確認していたが、そんな事は関係ないとばかりに敵に突っ込んでいった。
「お前ら行くぞーーーー。」
「おおおおーー。」
カイン達に気づいた特攻隊はカイン達に向って来るが一瞬で殴り殺されてしまう。それでも一撃を耐えた特攻隊はすぐに自爆をしていく。だがカイン達は通じなかった。走る速度が速く自爆した時にはもう距離がだいぶ離れてる。それに自爆しても獣人達は効かなかった。爆発に巻き込まれた獣人達もいたが擦り傷程度しか傷がつかなかったのだ。特攻隊の者達は無駄死にに終わっていた。
カイン達は敵中に取っ込み混乱している敵を殴り殺していく。
一時後退していたアレク艦隊もカイン達の突撃に合わせて包囲を狭めていた。逃げようとする敵兵を艦からの射撃による援護に切り替えていた。
「カイン様の邪魔をするなよ。逃げる敵だけ殺していけ。」
「はっ、了解しました。」
小型艦
「艦長、反乱軍幹部と思われる1000の集団の上空に到達しました。」
「ご苦労、これより敵の高速に向かう。空兵隊は降下の準備に入れ。」
「はっ。」
「敵の中心になったら降下しろ。」
「はっ。」
「降下。」
「「「「いくぞーーーー。」」」」
小型艦から反乱軍幹部の中に降下していったもの達は艦から飛び降りている最中から敵に向かい魔法を放っていた。殺傷能力を抑えた魔法である。乗っている馬や馬車を狙い敵の動きを封じていく。戦争だと言うのに馬車に乗っている時点でこの分はおかしいと思っていたアレク艦隊の者達は戦闘慣れしている。
焦らずに一つ一つ手順を踏んで敵を拘束して痛めつけていく。
1000人対50人の戦いであったが、反乱軍は戦闘能力のない最高幹部を守る為に思うように動けないでいた。思うように動けたとしても空兵隊50人には敵わないのだが、多少の抵抗は出来るぐらいの実力はあった。だが最高幹部たちは違った次々と倒れていく自分たちを守る騎士や戦闘能力の高い兵が妙に弱く映っていた。殺さずに倒されていく騎士や兵。実力差が分からずに喚いている。
「な、何をやっている、敵は少数ではないか。はやく殺せ。」
「・・・・・・・閣下、お逃げください。私はここで少しでも敵を食い止めます。」
「ま、ままかせたぞ、早く馬車を出せ、このくず早くしろ。」
閣下と呼ばせるこの者は馬車を操る従者に対していつもの様に暴言を吐いていく。だが今この時の従者は違った。何かが頭の中で「プチッ」と切れたような音がした。従者は何か憑き物がとれたように馬車から飛び降りて馬車から離れて行ってしまった。
驚いたのは周りにいる者達である。馬車の中にいる閣下には分からなかったが、周りの者達は時が止まったように固まってしまった。
高級貴族の従者が主を無視していなくなったしまった。貴族の従者としてはありえない事である。従者一族処刑されてもおかしくないことがおきている。従者も日ごろからの鬱憤と負け戦からの恐怖での行動かもしれないが、この行動が高級貴族の致命傷となった。
素早く降下してきた空兵隊が馬車を囲み守っている騎士や兵たちを倒していく。
「馬車の中の者達よ、大人しく出て来い。」
「・・・・・・・」
「出てこないのであれば馬車を壊すぞ。出口から離れていろよ。」
空兵隊の一人が剣を抜き馬車の入り口を切ってしまった。すると馬車のドアが二つに分かれ地に落ちたのである。
中には偉そうな貴族2人と侍女2人がいた。
「おい出て来い。」
「お、おおお前たちは、わわわ私をどどどどどどうするつもりだ。」
「あー、お望みなら殺してもいいが、指示は拘束しろだったな。とりあえずは捕らえるだけだな。」
貴族は今すぐに殺させないことに安堵したのか素直に馬車から降りてきたのである。
他の場所でも高級武官や貴族、崇拝者の幹部が一時的に拘束されていった。この者達は殺されないと誤解している者達であった。今は処刑しないだけで殺さないとは一言も言っていないがいいように誤解をしている事で拘束が楽にできている。空兵隊の者達もあえてその事には触れていないのである。
特攻隊による多少の被害は出ていたが帝都に集まって来た貴族軍は壊滅したのであった。




