308話
マリカルの町にグラムット帝国より一通の手紙が届いた。
それはマリカルの支配を認める物であった。差出人は内務省である。
グラムット帝国内で情報が共有されている証拠であろう。
アクラーはその手紙を読んだときにありえないと思った。グラムット帝国の直轄領を奪い勝手に統治しているのだ。グラムット帝国自体が認めるはずがない。近隣の貴族も認めるはずがないのだ。
それがグラムット帝国は統治を認め、近隣の貴族達も何も言ってこない。アクラーは不安で押しつぶされそうになっていた。事戦闘などの敵がはっきりしているものであればアクラーは戦える。目の前の敵を倒せばいいだけである。今回は敵だらけだが一番の敵が誰なのかその次の敵はと見つけなければならない。
マリカルの町を見渡してもやっと町も落ち着いてきている。アクラーはこんな生活も悪くないと思えるようになっていた。何の変哲もない町で民の声を聴きながら町の為に働く。
アクラーはこの町を好きになっていた。
マリカルの町に最初に到着した時には民は恐怖に怯えていた。アクラーたちが原因であるが民には一切の危害を加えないと約束をして町の代官などを拘束していった。
平穏に見えるマリカルの町は恐怖の中にあった。だが徐々にその恐怖は薄れていった。
アクラーたちが以前の代官よりも民の為に働いたのであった。オリオン王国などでは当たり前の政策がこのマリカルではありえない政策だったようだ。まず税の引き下げだけでも驚かれたが、孤児の保護、病院の設置などであった。まだまだやらねばならないことは多くあるがとりあえずはこのままで現状維持である。
グラムット帝国との戦争があるかもしれないこの場所では今はこれが限界であろう。
アクラーはグラムット帝国が認めた理由について考えていた。何故マリカルの町を領地として認めたのか、認めてグラムットになんの特になるのか。不利益はないのか。
不利益を考えればいくらでもあった。まずグラムット帝国の権威が落ちる。どこの馬の骨かも分からない者にグラムット帝国の直轄地が奪われたのである。帝国としてこれほど権威に傷つけるものはないだろう。それにマリカルの民がアクラーを支持している、グラムット帝国としては許せることは出来ない事態である。元の統治より外から来た者の方を支持しているのである。グラムット帝国を能無し扱いしているのである。
普通はこれを許す筈は無いのである。これを許せば貴族達は好き勝手が出来てしまう。
ではなぜグラムット帝国はマリカルの町の統治を許しているのか、それに近隣の貴族達も何も言ってこないのが不気味であった。
グラムット帝国が統治を認めたのは今争いをしたく無い又はもう抑えるだけの力が無くなっているか、それとも誰かが裏で指示しているか。
アクラーはまず誰かが裏で動いていると思っている。そうでなければ貴族達が黙っている理由の説明がつかないからだ。
だがアクラーは俺でも気づける事も他者は気づいているだろう。それを隠すこともしていないことが不思議であった。
「わざと分かるようにやっているのか。」
だがアクラーはますます分からなくなっていく。わざと分かるようにする理由が分からないんである。
それが分かればアレクもこんな依頼は出さないだろうとも思ってしまっている。
アクラーは部下の一人であるサラに声を掛ける。
「サラはこの状況をどう思う。」
「グラムット帝国からの手紙の事ですか。」
「それも含めてだな。グラムット帝国がマリカルの統治を認めて近隣の貴族達もおとなしくしている事だ。」
「そうですね、グラムット帝国の誰かが指示を出していることは間違いないでしょう。そうでないと今頃は戦闘中になっています。」
「そうだよな。」
「そうですよこんなにのんびりしていられませんよ。貴族達の事ですが多分見極めているのではないかと思います。」
「見極める?」
「そうです、このマリカルの支配はもちろん、グラムット帝国の事をです。ですからマリカルの町に使者すら来ないのだと思います。歓迎していれば祝の使者、敵であれば抗議の使者等が来ている筈です。」
「どちらにしても使者をよこすな。無視はしないと言う事か。」
「そうですですが今回は無関心、無視です。」
「何か貴族たちなりグラムット帝国がアクションを起こしてくれると動きやすいんだがな。あっ、そうか俺を自由に動かしたくないのか。」
アクラーは今までの自分の行動を見てこのマリカルから出ていけない状況になっていることに気づいた。アクラーはマリカルを支配して町を纏める事に専念した、そして少し落ち着いた頃にグラムット帝国からの通知である。この通知によりアクラーは自由に動けなくなってしまっている。そして近隣の貴族達も全く接触がないのである。これは意図的に会わないようにしているのだろう。会えば争いになる。グラムットの者以外がグラムット帝国の町を占領したのである。貴族達には許せることではないからだ。
誰かが貴族達を抑えている。これは確実だろう、誰が抑えているかである。アレクの話ではグラムット帝国の皇帝、宰相又は玄孫の誰かであろう。皇帝は高齢、宰相は死んでいる、玄孫は軟禁中である。どれも難しそうである。他に影響のある人物はいないのかを考えるがアクラーには思いつかないのである。
「サラ、グラムット帝国皇帝の血筋で直系以外はもういないのか。」
「多分いると思います。これだけ長く続いている国ですから、元をたどれば貴族達は皆血縁者になると思いますよ。」
アクラーはそこまではならないだろうと思ったが自分の考えが間違いだと気づいた。
「サラ、グラムット帝国の貴族達の血縁関係をすべて調べてくれ。」
「えっ、全てですか。」
「そうだすべての貴族の血縁関係をだ。」
「ものすごく時間とお金がかかりますがよいのですか。」
「ああすべて師匠に請求するから問題ない。」
「分かりました、早急に行います。買収等も行いますので、現金の用意をお願いします。グラムットの帝都でアクラー様のマリカル領の返礼に行ってきます。」
「俺も行った方が良くないか。」
「いいえ今回は行かない方が良いです。多分ですが黒幕が接触してくるでしょう。アクラー様にはいつでも王都に来れるように準備をお願いします。戦力が必要になる場合があると思います。」
「そうだな。いつ戦いになるか分からないものな、いつでも出れるように準備だけはしておくよ。」
「お願いいたします。」
アクラーの部下であるサラは部下3人を引き連れて帝都へ向かっていった。