305話
ハロルドからの無理難題を押し付けられたアレクは何も考えていなかった。いや考えが思いつかないのである。
何処にいるのかも分からない敵から民を守る事等出来るはずがないのである。襲われた者が敵より強ければ防衛は可能であろうが子供など弱い者が標的になった場合は対応できない。民を一人一人守る事等出来ないのである。幾らアレクに力があろうと数千万人の民をアレク一人で守る事は出来ない。
アレクはオリオン王国連合のすべての民を守る事は諦めていた。だが大きな都市や町の警備は強化を考えている。
まずアレクはグラムット帝国の崇拝者たちの入国を規制した。グラムット帝国から崇拝者の情報を元に入国を拒否したのである。だがオリオン王国連合への密入国は可能である。街道以外から山や川を使い入る事は出来る。
そのために都市や町での警備の強化なのである。
オリオン王国連合の民や正規の入国者にはステータスカードの登録を義務付けている。ステータスカードを所持していない者を木人、機人が取締まる事にしたのである。人ではステータスカードの所持の有無が分からないために機人がステータスカードを調べているのである。
ステータスカードはある一定の距離に近づくと反応する。機人はそれがどこで登録したかが分かるようになっているのである。
オリオン王国連合に大量に機人が配置され、木人がそのフォローを行っている。
だがこれにより捕まった者の中にグラムット帝国崇拝者はいなかった。捕まったのは全く関係の無い犯罪者や密入国者たちであった。
オリオン王国は基本誰でも入国が出来るのだが密入国者がいるのである。これはオリオン王国をよく思っていない国がオリオン王国連合への入国を規制している為であった。
この者達は審査を受けて改めてオリオン王国が滞在の許可を出していった。その数、十万にも及んでいた。
発展するオリオン王国連合と停滞している他の国々の格差が浮き彫りになった事件であった。
アレクはこの状況は良くないと思っている。オリオンの恩恵を受けている国々は発展し豊かになっている。それ以外はオリオンが出来る前の生活をしているのである。
アース大陸南部の約3割がまだそのような生活をしているのである。
特にアース南部大陸の西側が全く発展していない。東側にあるオリオン王国から遠いためにオリオン王国も国交自体が無いのである。
だがアース大陸でオリオン王国は有名である。オリオンドリームを夢見た者達がオリオン王国を目指してやってくるのである。
オリオン王国も泌乳国の者達を追い返すことはせずに、ある一定の教育過程を受け税金を納めるようになれば滞在を許可するようにしたのである。
アレクは密入国者の教育課程で金を稼げるようにしていった。冒険者や職人などの金を稼げる方法を教えていったのである。3か月の短期講習を行い。その間も衣食住を保証したのである。
密入国者たちは正式に入国が出来た事できちんとした仕事に就くことが出来るようになり大喜びをしていた。逆に密入を仕事としていた者達は一斉摘発に遭い壊滅したのであった。
オリオン王国が豊かになれば闇の部分も出来てくるのであった。今回の事で一部の者達が密入国者たちを安く使い儲けている事が明るみに出たのである。
唯一密入国の組織がなかったのが獣王国であった。獣王国にはそのような組織自体がなかった。
獣王国は発展しているが態々獣王国へは行かないようであった。オリオン王国連合は人が多く住んでいる国が多いために獣人が多く住む獣王国は人気がなかった。
「アレク、獣王国は悪の組織も出来ないぐらいに健全な国になったようだ。」
「カイン兄、多分それは違いますよ。ただ単に人間が獣人を嫌っただけです。」
「くそーー、獣人はいい奴なんだけどなー。」
「それは分かりますが、まだ大陸の西の方では獣人達が虐げられているのでしょう。速く何とかしなければなりませんね。」
「そうだな、早く戦争しないとな。」
「カイン兄、何ですぐ戦争になるんですか。すぐ戦争なんかしませんよ。」
「アレク、戦って勝たないと獣人の解放はないだろう。」
「そちらはカイン兄にお任せしますよ。私はグラムット帝国の狂信者や崇拝者の対応で手いっぱいです。」
「そうかアレクはグラムット帝国の対応もやっているんだったな。よし俺が西の国々を征服してきてやる。」
「待ってください。本気ではないですよね。」
「えっ、やるぞ。」
「カイン兄、まずは父上とルドルフ兄に相談してからにしてください。お願いします。」
「そうだな父上の所に行ってくるかな。」
カインは本気でアース大陸の西にある国々と戦争をしようとしているようだ。アレクは何かいやな予感がしていたが、グラムット帝国の対応を優先しないといけないためにカインの事は、父上やルドルフに任せる事にしたのである。
そんな日々を送っていたアレクに一つのニュースが入ってきた。
「報告します。グラムット帝国宰相である、マトリック宰相が死亡したと連絡がありました。」
「何、宰相が死んだ。殺されたのか。」
「まだ分かりません。連絡は宰相が死亡したと言う連絡のみです。」
「そうか分かった。グラムット帝国の報告は最優先とする。どんな内容でも報告をするように。」
「はっ、了解しました。」
グラムット帝国の宰相が死んだ。これはオリオン王国に取ってよくない事である。今までグラムット帝国の宰相が抑えていたのだ。
グラムット帝国は宰相の抑えが無くなった場合は又オリオン王国との戦争になる可能性が高いと思われる。
アレクはグラムット帝国皇帝に早急に会わなければいけない。その前にハロルドとの今後の打ち合わせを行わなければならない。
グラムット帝国と戦争になるのか、戦争をした場合の落としどころをどうするのかを決めなければならないのである。
グラムット帝国宰相の死因にもよるだろうが暗殺や自殺などの自然死以外であればグラムット帝国が割れている証明になるだろう。
アレクは部下たちにグラムット帝国宰相の死因などの調査を行うようにさせた。今のグラムット帝国の状況が分からない事には対応を考える事事態出来ない。
それと同時にアレクはオリオン王国連合全体に戦争準備をするように伝えたのであった。