296話
大宴会は朝まで続いていた。
王都の飲み屋街は死んだような朝を迎えていた。道路に寝ている者、店の前で倒れるようにうめている者、店の中でまだ飲んでいる者もいる。
だが日が高くなるにつれてゾンビのような者達は起き上がり普通の生活に戻っていく。二日酔いでふらふらしながら家路につく者やそのまま仕事に向う者と色々だが、共通しているのはなぜか疲れているが晴れやかな顔をしている。
日頃のうっ憤を吐き出せたような表情である。
このマルテナ王国ではお祭りのような催しが今まで存在していなかった。マルテナ王国では働いて食事をする。それだけであった。庶民は貴族と違いパーティーなどと言った集まりも無く、ただ働いてそのお金で食事をする。その繰り返しであった。少数での飲み会などはあるようだが、町全体などの大きなお祭りのような事は無かったのである。
それがアレクとカインの成り行きであったが町全体での飲み食いが行われた。これは王都民にとって物凄い事であった。ただでの飲み食いということも有ったが、それよりも飲み屋街が一つになった事の方が重要であった。アレク達が入った店の女将さんの機転により多くの店が協力して対応が出来た。普段は商売敵である店同士が一致団結して料理や酒を提供したのである。このマルテナ王国ではありえない事だったのである。
その店の女将さんはカインとアレクから預かった金貨の詰まった袋を持ち、協力してくれた店に一軒一軒回ってお金を手渡していった。正直お金の方が余っていた。アレクが酒と食料を大量に提供したために請求された金額が女将さんの思っていたより少なかったのである。女将さんは各店の請求金額の倍のお金を払って回った。それでも預かったお金はまだ余っていたために、次回を計画したのである。各店で話し合いもう一回程度出来るお金が余ったからだ。すぐには出来ないが各店が趣向を凝らして計画を進めていく事となった。
これがこの町で毎年恒例になっていくとはこの女将さんも思っていなかった。
そんなことは知らないアレクとカインはルドルフの元に戻っていた。二日酔いはしていないが疲れているようだ。ルドルフに文句を言われながら朝食を済ませ今日の予定を確認していく。
「アレク、今日はお前も同席してくれ。」
「何かありましたか。」
「ドワーフとエルフの者達が私に面会を求めてきているんだ。」
「マルテナ王国の役人ではなく、ドワーフとエルフの相手ですか。」
「そうだ、ドワーフとエルフ達はかなり追い詰められているようだな。」
「ドワーフとエルフの土地が欲しい訳ではないんですよね。」
「そこが分からんのだ。土地ならこのマルテナ王国に売るほどあるしな。ドワーフとエルフの土地にはこれと言ってめぼしい物もないんだ。」
「アレク、そういえば昨日の宴会でもドワーフを見なかったな。」
「そうですね、あれだけ酒好きなドワーフがただ酒を逃すはずがないですよね。」
「ドワーフとエルフはこの王都にいないのかもしれないな。いや物凄く少数しかいないのかもな。」
「ルドルフ兄はこの王都でドワーフとエルフが少ない事を知っていますか。」
「いや、知らないな。普通にいると思っていたが違うのか。」
「昨日飲み屋街での宴会をしたんですが人間か獣人だけでしたね。ドワーフがただ酒を見逃すとは思えませんよ、ほとんどいないのではないですかね。」
「そうかその辺に問題があるのかもしれんな。マルテナ王国がドワーフとエルフにちょっかいを出している事と関わりが有るのかもしれないな。」
カインは二度寝するために部屋に戻っていった。ルドルフとアレクはドワーフとエルフが待つ貴賓室に向かった。
「初めまして、私はドワーフ王国の大使であります。ビットと申します。」
「初めまして、エルフ王国の大使であります。エレビスと申します、面談を許可していただきありがとうございます。」
「いいさ、まずかけてくれ、私はルドルフだ。」
「アレクスだ、宜しく。」
ビット大使とエレビス大使はルドルフとアレクに現状の説明をしていく。マルテナ王国がドワーフ王国とエルフ王国へ何故干渉してくるのかが当事者である二か国にも明確な理由が分からないでいた。
きちんとした理由が分かれば対応の仕方も分かる。だが理由が分からなければ対応のしようがないのである。
「まるで理由が分からないんです。予想でも構いませんので何か思い当たる事は無いのですか。」
「そうですねマルテナ王国は以前から我らドワーフに移住を進めてきました。ですがドワーフの国も出来、国自体が豊かになってきましたので誰も移住しようとしなかったのです。この国と今のドワーフ王国では便利さが違います。オリオン王国連合のおかげでドワーフ王国には魔道具や魔化製品が今は溢れています。ところがこの国では魔化製品も魔道具も一般的ではありません。それに酒も美味くないですから。」
「酒ですか今度美味い酒を送りますよ。」
「おっ、ありがとうございます。」
「揉め出したのはここ2,3年ですか。」
「そうです2年前からです。それまでは普通の付き合いのある国でした。」
「2年前で何かあったという事か。」
「別段、マルテナ王国と揉めたことも有りませんでしたので何が原因かが分かりません。」
「そうだよな、分かっていたら対応しているよな。」
4人の話は結論など出ないままに終了した。
翌日にはマルテナ王都の会談となっていた。マルテナ王国側としてもオリオン王国との会談は重要と位置付けている。
マルテナ王国の役人たちはあの手この手でオリオン王国から交易や条約の締結を求めてきている。ルドルフは一切の条約には同意していない。マルテナの役人たちも一度引き下がり王との会談後にもう一度話し合う事で納得したのであった。
そして王との会談となった。
オリオン王国側はルドルフ、カイン、アレクの3人でマルテナ王国側は王と大臣たちだ。
この会談は20人程度の入れる会議室のような場所で行われた。マルテナ王が最初に挨拶をすると、ルドルフ、カイン、アレクが挨拶をして始まった。
「早速だが、マルテナ王よ、ドワーフ王国とエルフ王国への干渉は止めてもらいたい。」
「干渉などしておらんよ。」
「ほーぅ、マルテナ王国はこの2年ドワーフ王国とエルフ王国へ嫌がらせ等を行っていることを知らんのか。」
「我がマルテナ王国はそんなことなどしておらんぞ。我が国を馬鹿にしておるのか。」
マルテナ王は本当に知らないようだ。だが周りの大臣たちは段々と顔色が悪くなっていった。