269話
「アレク、今回の件どう思う。」
「そうですね、ルッシが単独でバッハを地下牢に入れていたようだけど真相は分からないからね。もし何かの組織があったらまた狙われるかもしれないからね。」
「そうだよな、バッハだって結構強いと思うんだけどな普通、捕まるか。」
「カイン兄、睡眠薬とか寝ている間に捕まったら何も出来ないよ。」
「あぁそうだよな。」
アレクとカインは獣王国の宰相であるグレイに、バッハ獣王国の事を確認するため呼び出していた。
「グレイ忙しい所すまんな。」
「陛下お気になさらずに。アレク王も久しぶりでございます。」
「グレイも元気だったか。」
「おかげさまで体の調子がすこぶるよくなりました。アレク王のおかげです。ありがとうございます。」
「いいよ、体が資本だからね。調子が悪くなったらすぐに言ってよ。」
「そうだグレイ。バッハ獣王国でバッハが地下牢に入れられていたことはもう知っているな。」
「はい報告が上がってきていますので承知しています。」
「それでルッシというやつの単独か組織的な犯行かを調べているんだ、何か気づいた事はないかと思ってな。」
「そうですな、バッハ獣王国は最近、アイトス王国と親密になっていましたな。」
「アイトス王国ですか、以前にカイン兄が喧嘩売った国ですよね。」
「別に売っていないぞー。」
「まぁ、今はそれどころじゃないですからね。同時期に戦争したラクレイ王国はどうですか。」
「はいラクレイ王国とは今までと同じです。何も変わっていないと思います。」
「そうか、ならアイトス王国が後ろにいるのかもしれないな。」
「アレク調べられるか。」
「難しいですね、ルッシは死んでしまっていますからね。」
「そうだよな、どうするかな。」
「取りあえずはバッハの回復待ちでしょう。」
数日後バッハ獣王国よりカインに連絡が入ってきた。バッハがだいぶ良くなったと連絡が来たのだ。アレクとカインはバッハ獣王国へと向かった。
「バッハ具合はどうだ。」
「これはカイン様、アレク様、今回はお助けいただきありがとうございます。」
「気にすんな。それより何で地下牢なんかに捕まってたんだよ。」
「面目次第もございません。ルッシと食事をしていたのですが、その時に酒に眠り薬が入っていたようです。気づいたら地下牢につながれていました。」
「はぁー、気を付けろよ。」
「お気遣いありがとうございます。」
「バッハ、ルッシはバッハ獣王国をどうしようとしていたんだ。」
「その事なのですが私にも分かりません、私が死ねば息子が王を継ぐことになります。ルッシが何を言おうが覆る事はないでしょう。ですが私は地下牢で生かされていました。ルッシがバッハ獣王国で国政を操れることが出来るのは私が必要だったからです。」
「そうだろうな。でなければもう殺されていただろうな。」
「さようですアレク様。」
「ルッシはただバッハ獣王国を自分で采配したいだけで、バッハを地下牢に入れていたと思うか。」
「それは分かりませんが。ルッシ単独で行えるとは到底思えません。」
「そうだな、ルッシ以外の者は地下牢に来なかったのか。」
「はい誰も来ませんでした。」
「バッハ、アイトス王国の事は何か言っていたか。」
「アイトス王国ですか、そういえば支援をすると言っていました。」
「支援。」
「はい、支援と言っていました。」
「そうか、もう少し調べる必要があるな。外交職の者などにも聞いてみるか。」
「バッハ、疲れているようだ。ゆっくり静養しろよ。またな。
「カイン様ありがとうございます。」
アレクとカインはバッハ獣王国の外務の者と内政の者達を集め聞き込みを開始していた。
バッハ獣王国での聞き取りは意外なものであった。アイトス王国への支援を本気で考えていたのだ。アイトス王国は人間が主流の国である。獣人は迫害されていて、獣人の国が人間の国へ支援などすることは考えられなかった、オリオン王国連合としてなら支援などは行うだろうが、ルッシ個人又はバッハ獣王国だけで支援することはあまりないからだ。バッハ獣王国より国土の広い国への支援など普通では考えられない事なのである。
アイトス王国はべつに国難というわけでもない。それを支援するという事は何か他の理由があると言う事になる。その理由がはっきりしないのである。アレクはアイトス王国内の獣人への支援と考えたが違うようだ。隣に獣人の国が出来た事により、こちらに移民してくる者が多くなっているので獣人の流失を防ぐため、アイトス王国内でも獣人への対応がよくなっている事があり獣人への支援ではないと思われた。
「何が目的なのかが解んないな。」
「そうだよな、目的が解んないよな。」
答えが見つからないまま色々と官僚から話を聞いていくと意外な話が出てくる。
アイトス王国とバッハ獣王国とは反対側にあるアイトスの国境に山脈があり、そこに森の住人が住んでいるという事であった。SEオリオン王国でも海との境にある山々の中に人が住んでいるという話はよく聞く。だが今までその者達は表に出てきたことはない。話だけで確認できていないのだ。
「ルッシって人種は人間みたいだが人間なのか。」
「はい、私たちは人間と聞いております。」
「そうか。いや、少し不思議に思ってな。話したときに人間ではないと思っていたんだ。そういえば見た目は人間だったな。」
「ルッシの遺体は今どこにある。」
「はい、まだ燃やしていませんので。冷凍保存してあります。」
「そうか保存している場所に連れていけ。」
アレクとカインはルッシが冷凍保存されている部屋に入っていく。部屋全体が冷凍庫になっている。アレクとカインはルッシの遺体を違う部屋に移させ遺体を確認していく。
「見た目は完全に人間だな。」
「ですね、でもなんか違和感があるんですよね。なんだろう。」
アレクはルッシの遺体を見ながら考えていく。よく見てみると、ルッシは火葬衣装を身に着けている。死んだ相手の装飾品を誰も盗まなかったことは物凄い進歩だとアレクは感心していた。以前のこの国やこの大陸の人達なら例え国の兵達であっても罪人と分かっていれば裸にしていただろう。それが衣服も着ている、装飾品まできちんと身に着けているのだ。生活が豊かになると考えも変わってくるのかもしれない。
そんな事を思いながらアレクはルッシが身に着けている装飾品に触れたとき、少しの魔力を感じたのであった。アレクはルッシの装飾品であるネックレスを外す様に指示を出す。
するとルッシから外されたネックレスは魔道具であることが分かった。アレクはそのネックレスに目がいっていたがカインが「あっーー。」
アレクはカインが大声を出したのでネックレスから目を上げてみると、先ほどまでの人間のルッシが違う姿に変わっていた。
「カイン兄、これは獣人かな。」
「わからないな、こんな種族は見たことがないな。お前たちは知っているか。」
カインは一緒についてきている者達に聞いてみるが誰も分からない、獣人に見え無くもないが種族が分からないのだ。獣人であれば獣王国であるために別に隠す必要自体が無いのだ。
「このまま冷凍保存をしろ、それからこの事は誰にも言うな。保存したらこの場所に警備をしとけ。後この様な装飾品を身に着けている物を探せ、気づかれるなよ。いるかどうかを探すだけでいい、拘束はするな。自由にさせておけ。」
バッハ獣王国の役人たちは真っ青な顔をしている。だがそれでもアレクの言葉をきちんと理解して行動している。
この調査は秘密裏に行われ、城内、王都の住人と日にちをかけて慎重に調査がされていった。