266話
タスポ港
「止まれーー。ここはタスポ港だ。何か用か。」
「すいません。兵士様、私たちはここより400キロ南の村からここまでやってきました。この港の噂を聞いてここまで来ました。」
「そんな遠くから何しに来たのだ。」
「はい、私たちは増税により税が払えなくなり村を追い出されました。出来ましたらこの港で働かせてください。」
「・・・・・・なぜ途中の町や村で仕事を見つけなかった。」
「・・町に入れてくれるように頼んだのですが入れてもらえませんでした。どうかお願いします。子供だけでも入れてもらえませんでしょうか。」
「・・・・・少し待って居ろ、領主さまに確認してくる。」
そこには年配者、女、子供が多く、若い働き盛りの男などは一人もいなかった。食い扶持を減らすために追い出されたのだろう。
「領主様、庇護を求めてこのタスポ港へ来た者達ですが、400キロも離れた村から来ているようです。」
「そうか。」
レリウスはそれっきり黙ってしまった。困っている者は助けてやりたいだが無暗に受け入れていてはいずれ破綻してしまう。悩んでいると、レインがレリウスに声を掛けてる。
「レリウス兄ぃ、助けてあげて。困っているなら助けようよ。」
レリウスははっとした、過去に自分も助けられたのだ。それも命を助けられたのだ。今助けられるのなら助ける。問題が起こればその時に対応を考えればいいのだ。100人の人間を助けられなくて国を創れるのか、国を建国するのなら国民のすべてをみなければならない、今は目の前に見えている者達を助ければいいだけだ。
「ありがとうレイン。みんなを助けようね。」
「うん。さすがレリウス兄だね。」
レインは嬉しそうに笑っている。
レリウスは門の前まで来ると、難民の代表者に声を掛ける。
「私がこのタスポ港の領主だ。」
「領主様、私はこの者達の代表をしております。マグット申します。私たちは食料もなく、金もありません。この港で働きますので寝る場所と食料を分けてください。一生懸命に働きますので、どうかお願いいたします。」
「心配するな、寝る場所と食料は分けてやるぞ。中に入って少し休め。」
「「「「「「うううわわああーーー。」」」」」」
この100人の難民たちは泣き出す者までいた。今まで何度も町に入れてもらおうと頼んで断られていたのだ。今回もだめだろうと思っていたのだ。何しろ100人もの大人数であり、身なりも汚く年配者と女、子供の集団である。まともに働けないのが分かってしまうのである。
タスポ港の住人たちは手分けをして難民たちに食事をさせた。まずは腹ごしらえをしてからだ。腹が減っていては何も出来ない。
「お母さん、美味しいね。パンってこんなに柔らかいんだね。」
「おいちい。」
「ありがとうございます。美味しい、ありがとうございます。」
「おいしい、美味い。」
「じいちゃん、こんな美味いもの食べたの初めてだね。」
「おいしい、ありがたやありがたや。」
「お腹一杯食べていいからな、まだたくさんあるからな。」
「おおーーーーー。」
また料理が運ばれてきた。何と肉である。農民たちは肉などお祭りや、祝い事以外ではめったに食べられないごちそうである。それを食料を恵んでもらう者達が食べるなど普通ではありえないのだ。
みんな大満足の食事が終わり一息ついていた。
「食事は美味かったか、あとは寝る場所だな。とりあえずは奥の倉庫を使ってくれ。近くに井戸もあるし仮の住居としてなら何日かはいいだろう。」
難民代表のマグットがびくっとした。仮の住居、何日かの言葉に追い出されるのではと思ったのだ。
レリウスとしては新しい住居を作るまでと言ったつもりなのだが、レリウスの経験不足と言葉が足らなかったことが誤解を生んでいた。
「ご領主様、お願いがございます。」
「マグットだったか、何だ申してみよ。」
「はい、私たち年配の者は出ていくことは何も問題ございません。ですがどうか幼い子供とその母親だけでもこの町に置いてもらえませんでしょうか。」
レリウスはマグットが何を言っているのか一瞬理解できなかった。
「マグットは出ていきたいのか。」
「えっ、いいえ、出来ましたらここで働かせていただければと思います。」
「そうか、なら仕事をやるから頑張って働くのだな。畑もあるし食べれるように協力しよう。今まではどのくらいの税を領主に取られていたのだ。」
「はい、今まで私たちの村では領主様に収穫の7割を税として納めていました。出来ましたら、6割にして頂ければなんとか食べる事は出来ると思います。どうかお願いいたします。」
レリウスは唖然としてしまった。収穫の7割が税だとかありえない。レリウスは他の兄弟を見回すと、みんな驚いている。
「マグット、少し聞きたいのだが、この大陸では民はみんな7割も税を払っているのか。」
「いいえほとんどの民は5割から6割です。ですが、前年やその前に援助なりして頂いた場合は数年間7割になります。払えなくなると追い出され、次の入植者に農地が渡されます。私たちは税が払えずに追い出されてここまで来ました。」
「税が払える農地を取られたという事か。」
「はい、税が払えなくなると担保としていた農地を取り上げられます。その農地は新しい入植者たちに販売をして税の補填に充てられます。」
「マグット、よく聞け。お前たちに農地を売ってやる。」
「・・・・・領主様、私たちは・・・」マグットからは次の言葉が出てこなかった。いや出せなかった。マグットは女たちを担保に少しの土地を売り税を払えなくして取り上げるつもりだと誤解したのだ。
「勘違いするなマグット。農地は全員が食べれるぐらいの場所を用意する。それと税だが3割を治めよ。ただし農地を販売する代金も税として毎年1割を10年納めるようにな。」
「えっ。3割ですか。農地の代金合わせても4割でよろしいのですか。」
「当たり前だ。7割も税を納めたら食べていけないだろう。」
「私たちももっと余裕が出来たら2割5分に下げれるようにするからな。まだ私たちもそんなに余裕がないのでな。」
「あ、ありがとうございます。精一杯領主さまの為に頑張ります。ありがとうございます。」
「あっ、自分たちの家は自分たちで建ててくれな。収穫時までの食料は援助するから心配するな。」
この難民達は翌日までぐっすりと寝る事が出来た、旅に出て初めてゆっくりと休めたのだろう。朝まで誰も起きる事は無かった。レリウスは疲れがたまっているだろうと翌日も休むように伝えたが、難民たちは自分の家と農地をつくるために働き出していた。
タスポ港の住人達も農地や家をつくる作業を手伝い、次々と家や農地が出来ていった。レリウスは木人を使い農地が早く出来るように手配や、小さい子供を預かったりと色々と世話を焼いていた。領主自らが働き、汗を流すことが難民たちには信じられない光景であったようだ。
タスポ港はこれで人口600人を超えた。これからも難民はやってくるだろう。レリウスはすべての難民を受け入れる体制つくりを行なうことにした。




