223話
翌日
「デリックもこれであと30年は働けるね。」
「いやだー、俺は引退して、楽隠居の夢があるんだー、引退するんだーー。」
デリックの叫び声は城内に響き渡っていた。
だが誰も相手にしなかった。
一月後
オリオン王国の国境パトロールの小型艦が行方不明になる事が多くなっていた。
そして捜索隊の発見したものは小型艦の残骸である。
オリオン王国は緊急事態として7公爵を招集した。
「皆ももう知っていると思うが、パトロール隊の小型艦が残骸で発見された。調査の結果、魔法攻撃で沈められている。しかも一撃でだ。これほどの魔法使いはオリオン王国以外にはいない。」
「父上、それは分かりませんよ、グラムット帝国とも考えられます。」
「アレクそうだが、高位の魔法は使えんだろう。」
「ですがオリオン王国内の者であればグラムット帝国に寝返ったか。最初からグラムット帝国の者だったという事でしょう。」
「これは非常に不味い事態ですね。」
「そうだ国内に敵が紛れ込んでいるとなると下手に戦闘も出来なくなる。」
「作戦中に後ろからズドンとやられる恐れが出てきますからね。」
「デリック、古参の家臣たちはどのくらい出せる。」
「古くからの家臣たちの兵をかき集めても3000でしょう。後は新しい者ばかりです。信用はしていますがこの状況では誰が裏切者か分かりません。」
「グラムット帝国も凄いわね、一つの策でこのオリオン王国を封じてしまうなんて。」
「イリア姉、多分以前に小国群をつくった人ですよ。こんなことが出来る人が何人もいるとしたら勝てませんよ。」
「そうね同じ人でしょうね。」
「アレクは空軍の艦隊を纏めておけ。重要な決戦時に投入する艦隊を選んで置けよ。重要な戦いは各自が選んだ部隊のみで行う。後は割り切るしかあるまい。」
「そうですね、少数の方がやり易いかもしれません。」
「アレク、グラムット帝国は宣戦布告してくると思うか。このままずるずるとならないか。」
「ルドルフ兄、必ずしてきます。超大国ですから大儀名分を建前にしなければなりませんからね。特にグラムット帝国は皇帝が神ですから必ずしてきます。」
「俺の部隊はみんな大丈夫だ。」
「・・・・・・・まぁカインの所は心配あるまい。」
「・・・・そうですね。」
「えっ、アレクどうした。俺の所は問題ないぞ。」
「カイン兄の所は誰も心配はしていませんよ。」
「だろうーーー。」
2か月後グラムット帝国はオリオン王国へ宣戦布告をした。
これを受けて、オリオン王国連合は二つに分かれた。中立を宣言する国と参戦をす国だ。参戦する国はオリオン王国、ノースオリオン王国、SEオリオン王国、獣王国、デリック王国、の5か国である。それ以外の国は中立宣言を出し戦争を回避したのだ。これはオリオン王国が各国に働きかけ中立としたのだ。オリオン王国連合は飛地が多い防衛するには不向きであるために、そのような処置をとったのである。ノースオリオン王国は北部であるが補給を一手に引き受ける形だ。北部で物資等を調達して運ぶのである。南部での物資不足を見越した策である。
グラムット帝国対オリオン王国の戦争は静かなものであった。宣戦布告をしたグラムット帝国、オリオン王国もすぐには戦闘行為にはならなかった。運河を挟み睨みあいをしている。
そして数日がたちグラムット帝国が運河を渡り、進軍してきたのだ。オリオン王国の防衛力は強力だ。運河の手前に境界防壁が並んでいるその上から機人と兵たちが魔法で砲撃をしている。10万の兵でも突破は難しいだろう。グラムット帝国もそれを分かっているのだろう。無理をして攻めては来ない。遠方からの魔法攻撃を主体とした攻撃だ。
そんな小競り合いがひと月ほど続いていたが、突然、元グラムット帝国であった小国群がグラムット帝国に編入されたのだ。オリオン王国の支配する場所以外は元のグラムット帝国になった。そしてグラムット帝国はオリオン王国との睨み合いを続けているにも関わらず、オリオン王国連合以外の国へ侵攻していったのだ。完全にオリオン王国はグラムット帝国に出し抜かれてしまった。グラムット帝国はオリオン王国に宣戦布告をしたが、小競り合いをするだけで本格的な戦闘はしなかった。オリオン王国が防衛に重点を置いていることを知っていたのだ。グラムット帝国はオリオン王国を兵10万で完全に釘付けにしていた。オリオン王国は王国連合でもない国々を助ける謂れはないが、平時であれば別であった。争いが起きないように調整を取り仲裁をしていたであろう。だが今は自国が戦争中である。兵を移動させれば隙が出来る、敵の侵攻を助ける形になってしまう。オリオン王国は身動きが取れなくなってしまった。
その間にも、南地域と南西地域がグラムット帝国に侵略されていった。
オリオン王国は何も出来ずに見ているだけしかできなかった。
だがカインだけは違った。グラムット帝国だろうと、隣国だろうと関係なかった。援軍の要請が来たら駆けつけてグラムット帝国兵を追い出して回っていた。カインの獣人部隊は少数だ。少数だが破壊力がある。獣王国自体は防衛力があり、グラムット帝国と壁一枚で繋がっている。グラムット帝国も獣王国には近づいていなかったが、隣国の侵攻でカインと戦闘になっていた。カインのいる南西地域は獣王国の活躍もあり混戦となっていた。カインの部隊が少ないせいで攻勢に出れずに防衛を主体とした戦いとなっていた。
アレクはそのことを聞いてさすがカイン兄と褒め称えた。アレクは自分が考えすぎていた事をカインが気づかせてくれた。
アレクのSEオリオン王国はオリオン王国と違い陸で繋がっている部分がある。運河と運河の間だけだが陸続きなのだ。そこにグラムット帝国軍10万の内、約3万が布陣している。グラムット帝国10万は国境線に並ぶように布陣している。一か所に10万もの兵を集めるのは不可能だからだ。
アレクはこの3万を殲滅することにした。出陣するのはガレオン号1隻である。
ガレオン号には、ギムレットとマリータ、元冒険者約120人が乗っている。
アレクはガレオン号から拡散魔動破を敵軍3万の中心に打ち込んだ。その魔動破は拡散して多くの兵の命を奪った。そこにギムレットとマリータが率いる元冒険者たちが突入していった。グラムット帝国軍3万は魔動破で7,8000の兵を失っている状態であったが。突入してきた敵が100前後と分かると反撃に出たのだ。だが突入してきた部隊はハイヒューマンであった。
一撃で4,5人の人間が死んで往く。それも少数対多数を相手に戦ってきた者達が多い戦闘集団である。
この戦闘にアレクは参加していない。ハイヒューマンの戦いを見てみたかったからだ。
アレクは、ハイヒューマンの力を改めて認める事が出来た。物凄い能力である。
「凄いな。」