222話
アレクは迷宮核の情報を見ていた。ギムレットとマリータの進化について調べるためだ。
迷宮核にも情報は無かった。人間が進化する。魔物で言えば上位種になるのだろうか。ギムレットとマリータは20年は冒険者をしている。冒険者になる前からも鍛えていたようだが、今まで人間が進化したことなど一度もなかった。ギムレットとマリータだけが特殊なのか。何かの条件があるのかアレクは調べることにした。
冒険者ギルドのギルド長に協力をして貰いベテラン冒険者を集めて情報を細かく分析をした。
迷宮核が冒険者の情報とステータスカードの情報で進化するであろう人達を集め実験をした。その結果、能力が一定以上ある、身体能力と知力である。そして2か月以内にケガをして治療魔法にてけがを治している者である。
アレクはさらに細かく情報を分けていった。基本の条件が分かった。まず魔通機で魔力を通していない者は進化しない。能力が一定以上ないといけない。2か月以内に治療魔法を受けている。そして最後に魔物を殺したことがある。この魔物を殺したことがあるには、ある程度の強い魔物だ。魔物の能力が高い者でないといけない。人間を一撃で殺せる魔物である。
アレクは実験を重ねた。そして進化玉を創り上げたのだ。
アレクは自分で使ってみる。飲み込んだ進化玉はアレクの体内に溶け込むように浸透していく。細胞の一つ一つまで浸透する。すると細胞が変化を起こす。細胞の能力を1とすると1.3の能力になったのだ。今までの能力解放は己の力を出せるようにする事であった。だがこの進化玉は能力向上のスキル玉の進化版である。姿、形は変わらない、だが違う。アレクは新しい感覚にとらわれていた。アレクは以前、迷宮の珠を体内に入れている、その影響もあるのだろう。迷宮がアレクの中に存在している感覚があるのだ。
アレクの腹の中にあった迷宮の珠も一緒に進化したのだ、迷宮の珠はアレクの体内に細胞の様に隅々まで広がっていた。アレクの細胞と同化していた事で迷宮の珠も進化したのだろう。迷宮の珠は偽物の迷宮核である。その偽物が本物に変わったのだ。それもアレクの体内でである。アレク自体が迷宮核になってしまったとでも言おうか、意思のある迷宮核が誕生したのだ。アレクは試しに迷宮核に進化玉を取り込ませてみたが何も起こらなかった。
アレクは実験に使った冒険者たち、いや協力してもらった冒険者たちを全員家臣とした。これは進化した人たちは根本的に違うからだ。冒険者たちもベテランが多い事もあり全員が承諾してくれた。アレクは全員に貴族の爵位と領地を約束した。そこへ待ったがかかった、冒険者ギルド長のセシルだ。ベテラン冒険者を大量に引き抜かれることに怒ってきたのだ。アレクは平謝りをしている。この埋め合わせに初心者冒険者用と迷宮都市の冒険者だけに能力向上のスキル玉を渡すことを約束させられていた。
セシルはご機嫌になり、ベテラン冒険者(引退直前の冒険者)を笑顔で見送っていた。
だがこのベテラン冒険者たちは外見は少し若返たったぐらいだが元の能力が段違いに上がっている。セシルには分からなかった。
アレク達はオリオン王国へ向かった。進化玉をハロルドに説明するためだ。
「父上、母上。大事な話があります。」
「何かあったのか。」
アレクは迷宮都市でのことをハロルドとエレメルに説明をしていく。ハロルドもエレメルも人間が進化する事等ありえないと思っている。アレクは自分のステータスカードを見せる。種族欄がハイヒューマンとなっている。これはアレクが作り直したものであるが説明が面倒なのでステータスカードを見せたのだ。
「本当なのか。信じられん。」
アレクは進化玉をハロルドとエレメルに渡す。
二人は進化玉を飲み込み数分経つと変化が出てきた。体の中に進化玉が浸透していった、以前の感覚と違っているのだ、細胞が凝縮した感じだろうか。感覚が鋭くなり、雰囲気が変わる。まるで魔力のオーラを纏っているように見える。ベテラン冒険者とはまた違うのだろうと思う。ハロルドとエレメルは能力解放を行っている。活性化している細胞をさらに活性させたのだ。全く新しい細胞に変化したようだ。
アレクは「まだ研究が必要だな。」ボソッと呟いた。
そんなアレクの言葉など聞こえていない二人は新感覚に驚いていた。体の中から魔力が溢れてくるのだ。
数分もすると慣れてきたのか魔力のオーラも体の中に戻っていった。
「アレク、何だこの感覚は凄いな。魔力の流れが違う。以前は魔力の流れなど気にしなかったが今なら分かる。以前と全く違うな。」
「私とは少し違うようですね。」
「そうなのか、皆同じではないのだな。」
「私はハロルドと同じだと思うわ。ハロルドの言ったことと同じだわ。」
「私たちとアレクは違うのだろうな。」
「いやー、以前にですね、腹を切って迷宮の珠を体にいれたことがあるんですよ、多分ですがそこが違うのでしょうね。」
「はーー。お前はなんてことをしているんだ。馬鹿者がーーーー。」
「アレク。ここに座りなさい。」
アレクはハロルドとエレメルに2時間怒られた。
ルドルフ達もハロルドの元に呼ばれ、進化玉を試したのだ。他の兄弟達もハロルドとエレメルと同じであった。アレクだけ少し違うようだ。
ルドルフ、マリア、イリア、クリスの4人がいたのでハロルドが呼んだのである。
「なな、な、な、何ですかこれは。」
「何これ変よ。」
「す、凄い。」
「凄いわ。」
ハロルドは自分が作ったわけではないのに自慢顔をしている。どうだみたいな顔をしている。
カイン夫妻と、レオン夫妻、ミルとマリア、イリアの夫であるポールとマールも呼ばれ、進化玉を試したのだ。
「何だこれー、アレク何だこれー。」
「カイン兄はなんかみんなと少し違うようですね。」
カインとカミュウは少し違った。カインは進化したハイヒューマンではあるが、体が一回り大きくなっていた。狼族であるカミュウも他と違った。耳と尻尾が狼であるカミュウは外見は変わらないが、変化することが出来るようになっていた。戦闘時に人狼になる事が出来るようになっていた。獣人は多少の違いこそあれ耳と尻尾が違うだけで、人間との外見の違いはない。だが変化すると外見が変わるのだ、より狼に近くなっているような外見になる。能力も段違いに変わってくるようだ。カインは大喜びで、カミュウと踊っている。獣人達も飲ませろとアレクに迫っている。ハロルドがこの進化玉は後日の話し合いとすると宣言をした。
その日のオリオン王国の城内では宴会が行われていた。久しぶりのオリオン兄弟姉妹夫妻の全員集合であった。この進化玉、食欲が旺盛になるようだ。通常の2倍みんなが食べている。みんな楽しそうに笑っている。その中でハロルドが不敵な微笑を浮かべ、アレクとしゃべっている。
翌日に、この進化玉をデリックに試す計画がハロルドを中心に進められていた。ハロルドと男兄弟は楽しそうに話し合っていた。