200話
「師匠、ギレント王国国境には誰もいませんね。」
「そうだな。国境でギレントは防衛戦を挑むと思っていたんだがな。」
「どうしますか此の侭進軍しますか。」
「いいや、一つ一つの村と町を占領していく。領民の不足している物等を支援していく。」
「はい、貨物船を手配しておきます。」
「さすがユリだね。頼むよ。」
「では各小隊を村、町に偵察に出します。」
「そうだな私は此の侭ゆっくりと進軍するよ。」
アレク軍は、ギレント国境を越え王都に向かいゆっくりと進軍していった。各村、町ではギレント王国軍が食料等を徴収していき蓄えが無い状態であった。アレク軍は各村、町を支配下に置き物資の支援を約束していった。
「師匠、なんか不気味です。何も抵抗されないと変です。」
「コルン、これはギレントの作戦だろう。それでなければ村や町から物資の徴収などしないからな。」
「あ、そうでした。」
「村や町に貴族などの支配者も誰もいなかっただろう。一か所に纏まっているか、数か所に集まっているかどちらかだろうな。」
「ギレント王国はどう戦うつもりでしょうか。」
「この状況なら、アレク軍が王都に着いた時を狙って王都と各方面から包囲してアレク軍を殲滅だろうな。私ならそうするな。」
「ギレント王国がその作戦をやるでしょうか。」
「やらなければギレントに勝ち目はないよ。ギレントの国力なら8万~9万の兵力が出来るだろう、その9万の兵をアレク軍にぶつける以外に勝ちは無いだろう。」
「9、9万ですか、アレク軍は兵だけで5000ですよ。それも全軍合わせてです。」
「心配するな大丈夫だ。まず敵が一か所に集まってはいないだろう。包囲するつもりなら最低4方向から囲まないと包囲出来ないからな。まず王都からと両側面だな、そして後ろから襲い包囲陣の完成だな。」
「ま、不味いではありませんか。」
「いいんだよ、今回はこれでしか敵を倒せないからな。一か所に集結させて殲滅するしかないからな。ギレントがゲリラ戦でも仕掛けてきたらこの国は荒れるだろうし、何年も戦争が続くことになる。だから私たちは餌なのだよ。ギレントが勝てる見込みがあり、確率も高い。ギレントの王が馬鹿でもない限りこの作戦を行うだろう。」
「アレク軍が5000と言っても輸送等で1000人は戦闘には参加できません。他にもありますが実質3500ぐらいでは9万はきついのではありませんか。」
「まぁ普通ならな。だが今回はコルン、お前とカイン兄がいるだろう。二つの軍の相手は出来るだろう、残りは二つだ。」
「ち、ちょっと待ってください、ぼ、僕が一つの軍を相手にするように聞こえましたが。」
「そう言っているんだが。」
「・・・無、無理です。」
「大丈夫だよ、やれるよ。」
「・・・・・・」
「今回の戦闘では私は動かないから頼むよ。」
「えっ。」
「今回の敵の狙いは私だ。私が中央で敵軍の見える位置に陣取って餌役をするからね。動けないんだよ。私が中央にいれば敵軍は私を目指して死に物狂いで来るだろう。敵が集まった所でアレク艦隊が包囲して敵を殲滅する。」
「なるほどそうだったんですか、だから今回は艦隊がいないのですか。」
「そうだ艦隊は移動速度が速いからな、敵を集めるのに時間がかかるだろう、それに逆包囲を感付かれない様にしないとな。」
アレク軍は村、町、都市等を一つ一つ確実に占領していく。アレクは一月もの時間をかけて各地を占領していった。
「ギレント軍は大分焦れているでしょうね。」
「そうだろうな、王都に一直線に向かわずに寄り道ばかりしているからな。ハハハハハ。」
「明日には、王都が見えるところまで行けますね。」
翌日、アレク軍はギレント王国王都が見えるところまで軍を進めていた。予想した通りアレク軍の後方にも敵軍が回り込むように移動中であった。アレクは敵が攻めやすいように敵軍の中央の位置まで進軍させていた。
「これでギレント軍の後方の軍が回り込んだら敵が来るだろう。敵に囲まれるまで攻撃はするなよ。」
ギレント軍は総勢10万の兵を集めていた。ギレント国内からすべての兵を集結させていた。それも徴兵ではなく、戦える者達である。貴族兵、門番兵、衛兵、騎士、警備兵、兵と名の付いている者はすべてが集まっていた。各貴族の者達も集まり側面攻撃を任されていた。貴族軍には軍官が付けられ、作戦指示などの助言している。
「アレクス様、敵軍王都より3万の軍団が出てきます。」
「側面の軍団も動き出しました。」
「それならもう少しで後ろの軍が見えるな。」
「ギレント軍はアレク軍4000を確実に仕留めるためにアレク軍を囲むように移動していく。まだ距離はあるが普通はもう逃げられる状態ではない。見晴らしの良い草原に10万もの兵が4000人の周りを囲んでいるのだ。ギレント軍が多いことも有り遠巻きに囲んでいる状態だ。ギレントの誤算としては10万も集めたために一斉に戦闘が出来なくなってしまった点だろう。ギレント軍の幹部たちは進軍を止めた。包囲した状態を維持したままである。
「敵も味方が多すぎて動けなくなったようだな。少し考えれば分かりそうだが、兵の数にでもこだわったのだろう。」
「これなら少数だけが出てきそうですね。」
「ああそうだろうな。長丁場の戦闘になるぞ敵は10万だ、休みなく攻撃してくるぞ。」
「どのくらい耐える予定ですか。」
「そうだな今小型艦が各方面から回り込んでいる。もう少しで逆包囲が完成するが、戦闘は敵軍がもっと集まらなければな包囲出来ない。勝てそうで勝てない状況をつくる。そうでないと10万の軍が集まる事をしないからな。武勲を上げられると思わんと来ないだろう。あとは相手の指揮官次第だからな。分からん。」
「敵軍が動き出しました。」
「いいか、あまり殺すなよ。そのために鈍な剣を持っているんだからな。カイン兄と獣人達は待機だ。」
「まぁ、仕方ないか。だけどアレク後で暴れされろよ。」
「分かっていますよ。」
アレク軍約3500がアレクを囲むように布陣していく。敵軍もそれを突破しようと攻撃を仕掛けてきた。
交互に二列に並んだアレク軍は丸く円形になり戦闘をしていた。そして円形の少し内側には魔法使いを配置して、遠距離攻撃を行なっていた。数の不利を魔法で補っている。
アレク軍は1時間で20メートルほど後退をしていた。徐々に円が小さくなっていく。2時間でもう20メートル後退をした。
ギレント軍はもう一押しで勝てると思っていた。だが3時間たっても敵軍を瓦解できない。後ろに控えている軍と入れ替えをしながらの1時間であったが、敵は休みなしで戦闘をしている、あともう一押しと考えるのは兵も指揮官も同じであった。特に貴族達はこの戦いで武功を上げたい。有利なこの状況は武功を上げるのに魅力的に映っていた。
ギレント王国貴族の一人がその魅力に負けた。
「このままでは我が一族は戦闘自体しないで終わる、いくぞ手柄は目の前だ。かかれーー。」
この貴族と貴族兵の突撃を合図に我も我もとアレク軍に押し寄せていった。味方同士が押し合いになり身動きが取れない状態となった。
アレクは全軍に反撃の許可を出した。抑えられていたアレク軍は前に進む事しか出来ない敵兵を勢いよく殺していく。
アレク軍
「いやー手加減って難しいなー。」
「ほんと普通の戦闘の方が楽です。」
「これで普通に戦えるぅー。」
「喋ってないで真面目にやれ。」
「そう言う隊長も嬉しそうですねー。」
「ふんだ。」
ギレント軍の円の中心地ではギレント兵が死んでいく、円の周りでは円の中心目掛けて兵が押し寄せている。