195話
その日ゼスト王国王都はパニックになっていた。
ドラゴンが現れたのだ。大きなドラゴンが王都を旋回している。そしてブレスを放っていったのだ。
ゼスト軍から噂が王都民に流れる、明日皆殺しにされるが平民は逃げる事が許された。王都民は一斉に逃げだす。王都の門は閉ざされたままだが、門番も逃げ出すことで門が開かれた。一部の貴族もまぎれていたようだ。
翌日、王都の前にいたゼスト軍の数が半減していた。各地からかき集めたゼスト軍5万が半数近く減っている。夜に紛れて兵たちも逃げ出していたようだ。
「アクラーは今日は休んでいろ。いいな。」
先に言われてしまったアクラーは黙ったままだが納得した。
「今日は私がやる。」
アレクはガレオン号から地上に降り立つと敵軍に歩いていく。アレクは鎧も武器も持たずに敵に近づいていく。ゼスト軍はこの前のことも有り慎重だ。アレクは敵200メートルまで行くと立ち止まり、何かを計測しているようだ。
「んー、前方200で奥に900ってとこかな、横に1キロぐらいかな。では実験をやってみようか。」
アレクは準備が整ったのか敵に向けて。「空間断絶」
アレクが一言つぶやいた瞬間にゼスト軍の前方200から奥に900メートル横に1000メートル、高さ150センチが一瞬歪んだ。その中にいたゼスト軍の兵は高さ150センチを境に体が二つになっていた。
ゼスト軍で空間斬絶の外にいたものは生きていた。だがすぐ隣で死んでいる兵を見た時、恐怖が爆発した。ぎゃぁぁぁーーーー。あああああーーー。いやぁぁぁぁーーーー。ぎゃぁぁーーー。
生き残った兵は逃げ出した。
アレクは一人残され、罰が悪そうに戻ってきた。
「何かみんな逃げてしまったね。こりぁー後始末が大変になるな。はーー。」
他の者達は唖然としている。アレクは強いことは知っているが、一瞬で数万の者を殺せるとは思っていなかった。広域魔法で吹っ飛ばし、剣で止めを刺していく。こう考えていたからだ。ところが汗をかく前にもう終わってしまった。
「この魔法はあまり使い勝手がよくないな。改良しないと全員殺しちゃうな。生かさないといけない者もいるからな。」独り言を言うアレクを誰も何も言えない。ブツブツ。
「あっ。アレク隊と、空兵隊は王都へ突入、貴族、王族を確保せよ。」
アレクの命令で我にかえったアレク隊の面々は急いで準備を整え王都に突入していく。
「師匠、な、何なんですか。」
「ああ、あれはな空間を斬ったんだ。」
アレクはコルンに空間斬絶の説明をする。範囲を決めてその中の者を切断をするのだ。すべて斬ってしまうためにあまり使えないと説明される。コルンはいやいやそんなことはない。物凄い魔法だ。こんな魔法を考える事自体凄い。師匠は普通の人間なのだろうかと疑問に思ってしまう。コルンは深く考えるのを止める。考えても仕方の無いことだから、唯一の味方であるアレクを信じて着いて行くと決めたのだ。
数時間後、アレクが休んでいるとアクラーたちが戻ってきた。
「師匠、王族を捕らえました。ガレオン号に連れて来ましょうか。」
「王族は城にいるのか。」
「はい、城で王族、貴族は広間に押し込んでいます。」
「なら城迄出向くとしよう。」
アレク達はゼスト王国の王城広間に着いた。空兵隊が扉を開きアレクは中に入っていく。そのまま真っすぐに進み玉座であろう椅子に座る。
「ゼスト王は前にでよ。」
一人の男が前に出てくる。
「私がゼスト王国の王だ。」
「そうか、ではゼスト王よ降伏しろ。」
「降伏だと。私がここで死んでもコルンごときが何が出来る。殺せ、生き恥は晒せぬ。」
アレクは無言で魔力弾を撃ち込む。「パン」ゼストの王は驚いた顔をして死んでいた。まさか殺されるとは思っていなかったようだ。
「王は死んだ、ゼストの国で次に権力のある者は誰だ。前に出よ。」
貴族達は一点を見ている。30代ぐらいであろう人の男を見ている。
「お前の名前は。」
その男は、アレクの前に来た。「私の名はメルトルス・ゼスト王太子。」
「王太子か、ゼスト王国は降伏するか。」
「・・・・」
「だんまりかお前も死ぬか。」
「・・こ。降伏します。」
「降伏するか。では今は保留だな。後は条件次第だ」
アレクは一人一人に確認をしていく。
「次に高位の者は誰だ。」
一人の女が出てくる。
「王の妃か。」
「さようでございます。」
「度胸がありそうだ。降伏が嫌なら逃げよ。」
「はいぃ。」すっとんきょうな声を出してしまった王妃。「え、え逃げよですか。」
「ああ、逃げても構わん。好きにするがいい。」
ゼスト王国王妃は考える。何かある。「いいえ降伏いたします。」
「ほうー、降伏を選ぶか。なるほどな。」
アレクは約50人に降伏か逃げるかを確認していった。逃げると答えた貴族10人ほどをアレクは逃がしてやった。逃げた貴族は自領に戻るために王城を出ていった。だが自領に戻ってきた貴族は誰もいなかった。
その貴族達は助かったと思い何も気にすることなく街中を歩き王都の外に出ようとしていた。だが周りを警備しているアレク艦隊の者に見つかりそのまま殺されたのであった。アレクは王族、貴族は王都から逃がさないと宣言をしている。その事を忘れたのか、知らなかったのかは分からないが貴族は死んだ。
「王太子よ選ばせてやろう。ゼスト王国を残したいか。残すのならお前は処刑だ。ゼスト王国が滅びるならお前を殺さない。」
「・・・・・・・・・」
「答えられぬか。そこまでの者だな。もうよい。」
「オリオン国王様にお願いがございます。」
「先程の王妃か、なんだ。」
「ゼスト王国を残してください。王太子は処刑で構いません。」
「は、母上、そ、そんな。」
「お黙りなさい、私も一緒に死んであげます。王国の民の為に命を捧げなさい。」
「ほう、お前も死ぬのか。面白い。」
「いや、お待ちください。私はゼスト王国宰相であります。レイセル・クレリトと申します。王妃はお助け下さい。代わりにこの私が処刑になります。」
「一つ分からぬことがある。何故コルン王国を各国が目の敵にしているのだ。国力もない、もう害も何もないであろう。」
「そ、それは、・・・・・・・」
「英雄の血筋だからです。」
「英雄の末裔という事か。」
「さようでございます。タンドラ大陸は過去に英雄がおりました。その英雄は正義感に溢れ、公平な人だと聞いています。コルン王国の王たちは公明正大を受け継ぎ堅実な国をつくっていました。ですが諸外国はそんなコルン王国が目障りでしかありません。コルン王国を滅ぼす事はタンドラ大陸各国の共通の認識となりました。長い年月をかけ、少しずつ領土を削り弱らせてきました。タンドラ大陸の国々は間違った選択をしていました。私もその流れに乗っていましたから何も言えません。タンドラ大陸の国々は自国の防衛するためと思いこみ、コルン王国を追い詰めていきました。」
「そ、そんなことで我が国は滅亡の危機に遭っていたのか。妄想ではないか。」
「そうです、全て過去の妄想です。英雄には敵わない。各国の王たちは自分たちの地位を守るためにコルン王国を滅ぼそうとしていたのです。」
「そんな、父上も母上も、そんなー。」
コルンは泣いた。泣き続けた。他の者達は皆黙って下を向いている。
コルンも落ち着いてきた。
「コルン、私はお前に力を授けた。お前が望めばタンドラ大陸の国々など簡単に滅ぼせるぞ。」
「し、師匠。僕は国を滅ぼさなくても仲良くやっていければそれでいいです。」
「コルン、分かってないな。お前がそう望んでも相手も同じとは言えないぞ。コルンお前が死ねば、また同じことが起きるぞ。お前の子孫、妹の子孫がお前の親や祖父祖母のように殺されるぞ。」
「師匠で、でも。」
「お前にも分かっているはずだ。こんなに根深く何百年と長い王たちの謀略などは殲滅するしかあるまい。いいかコルンいい事を教えてやろう。英雄を恐れるなら、英雄の庇護下にすべて置くことだ。各国を残すのも一つの策だろう。だが一度一つにまとめろ。その為になら力を貸そう。」
「師匠。なら師匠もこの国で一国を持ってください。もし僕が道を踏み外したら、師匠が僕を殺してください。師匠なら出来るでしょう。」
「お前の誓いとするのか。」
「はい僕の誓約とします。」
「分かった、もしコルンが民をないがしろにし、自国の民を苦しめていたら私がコルン、お前を殺そう。」
「此処にいる者達も聞いたな、これは誓約である。」