174話
SEオリオン王国王都
「ギョギ態々すまんな。」
「王様の御用であればいつでも泳いできます。」
「師匠、港を造るのですか。」
「アクラー。造るか、まぁそうだな。山を崩して埋め立てるだな。一度見に行くが、予定は埋め立てだ。」
「海を陸地に変えるのですか。」
「そうだ、海と運河の近くを埋め立てる。運河と海の近くであれば水深もそれほど深くはないはずだ。ギョギ、水深の調査を早急に頼むぞ。」
「はい分かりました。」
「一度、見てみようか。」
アレク達はガレオン号に乗り海をめざして飛び立った。
「これが海ですか。大きいですね。広いですね。青いですねーー。」
「海上に出てみるか。」
「海が透き通っていますよー。」
「これだけ綺麗だと、埋め立てるのがもったいないな。」
「海の中に色んな色があります。」
「ああ、あれはサンゴだな。動かないが生きてるんだ。」
「へーー、師匠は物知りですね。」
「やはり埋め立ては運河の近くだな。」
ガレオン号は海岸線と平行に航行している。領地を視察しているのだ。運河側から海に出たガレオン号は北に舵を取り小山と崖をみながら飛んでいた。
「東西を横断している山脈が南北に広がってこの小山が出来ているようだな。」
「そうですね、山脈を通り過ぎましたが海岸線は山と崖だけですね。」
「一度、戻るぞ。港が出来たら、船を出して調査をさせよう。」
「ギョギどうだ。水深はどのくらいだ。」
「浅い所で3メートル、深い所で10メートルの所が2キロぐらい続いています。まだ運河から10キロ程度の調査しかできていません。」
「いや、十分だよ。」
「計画を立てるために戻るぞ。」
アレクは埋め立ての工期短縮を模索していた。「山を崩すのが一番だな。」
アレクは海岸線小山にトンネルを掘らせていた。海岸線10キロに海に向けて下へ行くトンネルを数百本掘っている。
「これ掘り進むと海に出ないのか。」
「知らんよ。仕事で掘ってるんだ。お偉いさんの考えなんかわかるかよ。」
そのトンネルは網の目に掘られていた。山のすそ野から斜め下に海の方向に掘られている。もし支えている壁に衝撃が起きれば一気に崩れ落ちるような恐怖と戦いながら、作業員たちは必死に掘っている。
アレクは同時に沖合に長さ30メートルの巨大杭を隙間を開けて打ち込んでいる。山を崩す時に水の逃げる場所を造っているのだ。
「トンネルは順調だな。」
「はい。計画道理になだらかな傾斜をつけて掘り進んでいます。もう少しで到達します。」
「トンネルの計画場所に到達したら魔道具を設置しろ。作業員たちの退避確認を忘れるなよ。」
「師匠、作業員たちの退避を確認しました。トンネル内には人はいません。」
「よし分かった。指定の位置に着け。」
「魔道具発動まで30秒になりました、・・20秒・・10秒・・5,4,3,2,1。ボン。」
ボン、ボン、ボン、・・・・・・・・・ドスン、ドスン・・・・ガガガガガガガガーーー。」
小山群は一度、数メートル沈み込み山ごとそのままで海に向けて地滑りを起こしていく。
ドッボーーン。ドッポーン・・・・・。
崩れた山々は海の中に入り、沖合に撃ち込んだ巨大杭で押しとどめられている。
「すげーーー。何だこりゃ。」「凄い。」「へーーー。」「な、なんだーー。」
「よーーし。粗方の埋め立ては出来た。後は決められた手順で作業を始めろ。」
それは圧巻であった。一瞬で海が陸地に変わってしまった。工事の短縮を狙った作業だが見ている者達はこれが魔法だと誤解していた。もちろん魔法は使った。だが魔道具でトンネルの補強部分に時差を付けて破壊しただけだ。大がかりな魔法は使用していない。しいて言えばトンネルを掘った魔法が一番大がかりなものだろう。
海と陸の高低差がなくなり陸地2キロ地点からなだらかに海に向かって下り坂になっている。これから段々畑の様に造成していくのだ。そして港を造り、交易都市を造ろうとしていた。
そこにギョギがやってくる。
「王様、魚人が来ています。会ってやってください。」
「ギョギの仲間か。」
「いいえ、海に住んでいる魚人たちです。ここより数十キロの沖合の島に住んでいるようです。私たち魚人を見て声をかけてきました。」
「そうか、なら会おう。連れて来い。」
その魚人たちはギョギたちと少し姿が違う、魚の尾ひれが長く両足と尾ひれで立ち、陸上歩行を行なっている。ギョギ達より陸上は得意ではなさそうである
「わたすは、海魚人でマボウといいやす。おうさま、よろしくだす。」
「よろしくな。私はアレクスだ。マボウの住んでいる島は広いのか。」
「わたすたちの島はそんなに大きくはないでやす。3キロぐらいの島と2キロの島で暮らしていやす。」
「そうか見てみたいものだな。マボウ、何か希望がありギョギに声をかけたのであろう。何を聞きたいのだ。」
「わたすたちも働けるか聞きたいでやんす。」
「おお、そうか働きたいか、ギョギ仕事を振ってやれ。港の開発で魚人はいくらいてもよいからな。何なら家も世話してやれよ。」
「王様、分かりました。すべての魚人を雇ってもいいですか。」
「構わん。仕事はいくらでもあるからな。ボアン、ギョギと打ち合わせをして手配してやれ。それと漁もしているだろうから買い取ってやれ。」
「はい、承知いたしました。漁の促進もしましょうか。」
「そうだな、網等の漁に必要なものを貸してやれ。販売は今は無理だろうからな。」
「手配します。」
魚人は貴重だ。湖、運河、海と水関係の仕事の出来る魚人は足りていない。今は取り合い状態が続いている。港が出来れば余計に魚人たちが不足していくのが分かっている。そんな時にこの話である。アレクは魚人を大切にしている。水辺の家も、村もすべて無料で与えているのだ。他の領民とは扱いが違う。特殊な仕事ができ、調査、伝令、水の中なら彼らに勝てる者はいない。
港の工事は着々と進んでいく。アレクは港建設と並行して塩生産工場も建築している。塩を販売するためだ。今までは岩塩と迷宮内での生産していたが海で作る塩が販売できれば価格を下げる事が出来、民の生活が楽になる。アレクは塩の工場を何棟も造り、民に塩の作り方を教え、SEオリオンが買い取る事にした。
魔道具を使った塩作りだが、低価格での生産が出来そうである。
港整備は急ピッチで進み、町の形が出来つつあった。
海魚人たちも魚を売り、海中の仕事をして最初は物々交換であったが、次第に金を使うようになっていく。
魚人差別がないこの港は、魚人たちにとっては楽園ような場所になっていた。