172話
カインは剣を両手に持っている。短剣と普通の剣だ。まるで生き物のように動いていく。真っすぐな剣が曲がっているように見えているのだ。剣の速度が速すぎて残像を見ている。カインは止まる事をしないで走り続ける。止まれば敵がいなくなる、自分で敵に近づき仕留めるのだ。ものすごい速さで兵を倒していく。カインはただ斬る、急所だろうが、腕だろうが、足だろうが関係ない。目の前にある物を斬っていくのだ。
獣人達もただ殴る、蹴り飛ばす、放り投げるを繰り返していく。もう2時間近くも戦っている。
カインと獣人以外は立っている者がいなくなった。
「いやーさすがに疲れたなー。」と言いながらアレク達の陣に帰ってきた。
「カイン兄、食事の用意をしてありますよ。食べてください。」
「おおお、アレクさすが分かってるなーーー。お前ら食うぞーー。」
「おおお、美味そうだ。」「腹減ったー。」「じゅる。」「ペコペコだよー。」
獣人達はこの場所が戦場だと忘れているように貪るように食べていく。
「うまっ。」「くーー。」「美味い。」「うまうま」「パクパク。」「もぐもぐ。」
アレクは獣人達の事をベレーヌ軍に頼み、王都の門に向かう。
「先ほど戦いは終わりました。見ていたと思いますが5万の兵はすべて倒しました。レンズ王国の王へ伝えてください。1時間以内に王が出てこない場合は、王都を灰にする。頼みましたよ。」
これを聞いていた王都民は慌てる。王都が灰になる。王都民は反対側の出入り口に殺到していく。だが出入口は封鎖されている。
レンズ王国の役人が王に報告をするために城向かった。
「報告いたします。レンズ軍は全滅しました。」
「5万の軍が全滅だと、相手は5000ではないのか。」
「いいえ、5000ではありませんでした。」
「3万ぐらいであったのか。」
「いいえ違います。300の兵にすべて倒されました。」
「・・・・・・まさかそんな筈はなかろう。」
「本当でございます。敵のほとんどが見物しておりました。戦ったのは300のみです。」
「・・・・・・」
「敵将がレンズ王へ伝言と言っておりました。お伝えいたします。1時間以内に王が出てこなければ王都を灰にする。こう言っております。」
「・・・・・・」
「陛下逃げましょう。」
「何処へ逃げるのだ。」
「・・・・」
「300に負ける我が軍ではどうにもなるまい。敵将に伝えよ。城にて会見をするとな。」
「はっ、お伝えいたします。」
アレク達はレンズ王都王城の中を歩いている。謁見の間であろう広い空間で待たされる。
レンズ王が来たのであろう。周りが騒がしくなっていく。
「国王陛下の御成りである。」
レンズ王国の家臣たちは片膝を着き首を垂れる。
アレク達はその場で立ったままである。レンズ王国の家臣たちが苦虫を噛むような表情で睨んでいるがまったく気にしていない。
レンズ王が現われ、謁見が始まる。
「レンズ王に問う。なぜ戦場に来ないのだ。私は1時間以内に王が現われなければ王都を灰にすると伝えたはずだ。聞いておらんのか。」
「・・・1時間以内に会見と伝え聞いている。」
「その者を呼んでもらおう。」
「・・・・・伝言者を連れてまいれ。」
伝言者は、呼びに来た使者から事情は聴いている。王に恥をかかせるわけにはいかず自分のミスにするつもりだ。
「私が王に伝言を伝えました。いい方が拙く申し訳ございません。」
「お前が間違えていたのだな。間違いないか。」
「はい。私が間違えました。」
アレクはその男に魔力弾を撃つ。「パン」
男は額を撃ち抜かれ死んだ。周りの人たちは驚き声も出ない。
「レンズ王よ、話の続きをしようか。」
アレクは何事も無かったように話始める。
「余、余の家臣を殺して何もないのか。」
「王よ何を言っている。王への伝言を間違えたのだ、それも重要な言葉だ、王国民の命に関わる事をだ。本来であれば時間切れで王都を灰にするところを待ってやっているのだ。」
「・・・・・」
「態々私を呼び出したのだ。それなりの話だろうな。」
「・・・・・・・」
「考えなしに呼んだのか、話にならんな。」
「レンズ王国から兵を引いてくれ。」
「兵を引くだと。レンズ王国が侵略してきたのであろう。」
「・・・・」
「もうよい、皆殺しだ。」アレクは向きを変え帰ったしまった。
アレクは城を出ると大きな声で叫んだ
「王都の民よ、先ほど王と会見をしたがレンズ王国の民を皆殺しにする事となった。まことに遺憾だが王が降伏しないのでな。成仏してくれ。明日攻撃を始める。最後の晩餐を楽しんでくれ。」
この言葉は一気に広まった。貴族、王都民すべての人々が城に詰めかけている。城を守る衛兵でさえ詰め寄っている。城はもう王の首を取るための集団で埋め尽くされていた。王を守る者は誰もいなかったのだ。
貴族達が王の首をもってベレーヌ軍の元へやってくる。
「何用だ。」
「レンズ王の首を持ってまいりました。降伏をいたします。何卒、王都への攻撃をおやめください。」
「レンズ王国の総意と言うことでよいのか。降伏に異を唱える者がいれば殺す事になるがよいのか。」
「王都民の総意でございます。」
「王都民か、まあ良い。仕方あるまい。降伏を受諾しよう。明日夕刻までに城を明け渡せ。貴族どもは先ほどの広間にいるようにしとけ。では明日また会おう。」
翌日夕刻
ベレーヌ軍とアレク隊一行は王都内に入る。王都民たちは誰も表にいないのか静まり返っている。
ベレーヌ軍は王城の出入り口の守りに着く。
アレク達は城の中に入り広間に向かう。広間に入ると貴族達が多数居る。アレクは中央を進み王の玉座に座り辺りを見回す。
「この中で爵位の高い者は誰だ。代表者でも構わぬ前に出よ。」
「私は、レンズ王国公爵、レノバ・スレイドと申します。」
「王族か。」
「はい。王弟でございます。」
「他の王族はいるのか。」
「は、はい、おります。王の妃、王の御子が2人おります。」
「この場に来ておるか。前に出よ。」
王妃と子供二人が前に出てくる。恐怖で顔が引きつっている。王妃は30代であろう。子供はまだ成人したかどうかぐらいだ。
「王妃と子に問う。降伏を受諾するか。」
王妃は、片膝を着きアレクに向かい「レンズ王国は降伏を受諾いたします。」
「一つ分からぬ事がある。なぜ王が殺されるのだ。降伏すれば済むだろう。」
「・・・・・・・」
そうなのだ。レンズ王国の民と貴族は追い詰められて狂っていた。普通に考えれば降伏で終わりなのだ。王が死ぬことはないのだ。
貴族達は過剰に反応したことに気づいた。恐怖が判断を狂わせたのだ。
「このような状態でレンズ王国は大丈夫なのか、難しいであろうな。」
「お、お待ちください。レンズ王国の存続をお約束ください。」
「どうするか、王を殺すと先導する貴族達では無理があろうと思うがな。」
「こ、交渉をお願いいたします。あ、明日までにまとめますので何卒、ご猶予お願いいたします。」
「まぁ、仕方ないか明日の昼までにまとめよ。良いな。」
レンズ王国の家臣団と王族たちは徹夜で話をしていた。どうするのか。何が出来るのか。どのように納得、説得が出来るかを色々と話し合いがされていた。