170話
翌朝
「中央軍、出るぞー。」
「おおお、おう。」
アレクは中央の街道を進みレンズ王国王都を目指す。他4部隊も各進軍ルートで進んでいく予定だ。だが町等の攻略は想定していない。ただでさえ兵不足である、町の攻略など出来ないのが現状だ。
中央以外は敵軍の拡散を目的としている。敵軍が来たら逃げる。王都から引き離すのが目的だ。
「アレクーーー。」
空の上から声が聞こえる。アレクは上を見た。「あっ、まずぅ。」と漏れてしまった一言。
カインがやってきたのだ。
「アレク、連絡が遅いぞー。」
「カイン兄。丁度良かったです。指揮官が足りなかったのです。右1隊にアクラーが指揮していますから。カイン兄の戦いを見せてやってください。お願いします。」
アレクは隊員にカインを案内させるように指示を出す。
「任せとけよ、敵はいるんだろうな。」
「大丈夫です、数万はいます。」
「そうか楽しみだな。」
アレクは心の中でアクラーごめんと言っていた。
アクラーは緊張していた。空兵隊の人達が手助けしてくれているが、本当に出来るのか心配でならなかった。そこにカインがやってきたのだ。
「おうアクラー、一緒に戦うぞ。」
「カイン様どうしてここにいるんですか。」
「アレクがな俺の戦いをアクラーに見せてくれって言ってたんだよ。いやー参ったな。」
「師匠が戦いを見ろと言ったんですか。分かりましたカイン様よろしくお願いいたします。」
「任せとけよ。敵の1万や2万簡単だからな。俺の獣人隊は最強だからな。なっ。」
「おおおおおおおおーーー。」
獣人達の雄叫びに近くの兵はビビっている。だが味方だと思い直してホッとしている。
アクラー隊とカイン隊は進軍を始めた。中央軍の右側のルートを取り敵軍を引きつけるのが役割となっている。がカインが入ってきたのだ。敵は正面から打ち破ると豪語している。
カイン達は最初の町に到着したが町は無防備で兵の姿はない。
「その町の責任者はいるか。俺はカインだ。」
カインは大声で伝える。しばらくすると初老の老人が門の外に出てくる。
「私がこの町の領主をしています。マイラレー・フレインズ男爵です。この町は無防備な状態です。どうか略奪などはやらないでもらいたい。私の命だけで領民には手を出さないで頂きたい。」
「ふん。間違えるなよ。俺たちは略奪などしない。物資がほしければ買い取るから心配するな。おい金を持ってこい。」
すると獣人の一人が素早く後ろに走っていき、すぐに重そうな袋を持ってきた。カインはその袋を老人に投げる。老人は何とか受け止めたが重すぎてよろけている。
「中身を見てみろ。」
「これは金貨ですか、全部金貨ですか。」
「そうだ金貨100枚ある。この金で食料を買いたい。食料がこの町になければ近隣から買ってこい。それをこの先の中継基地に運んでくれ。それは代金として渡しておく。」
「さ、先払いをされるんですか。初めて会った人間ですがよろしいのでしょうか。」
「心配は要らん。裏切ったら殺すだけだ。ハハハハハ。」
「・・・・・・」
「今日はここで野営するぞ。売れるものがあれば何でも買ってやる。どんどんもってこい、領民たちにも伝えろ。食いもんでも何でもいいぞ。酒も買おう。」
「おおおおおおおおおーーーー。」
兵たちが雄たけびを上げる、獣人達も負けずに雄たけびを上げていた。
初老の領主は、ベレーヌ王国を誤解していたと痛感していた。この老人の誤解は当たっているがカインをベレーヌ軍と間違えているので仕方がないことだ。
カインに自覚はないが、金払いの良い軍は好かれる。おまけに素行がよいのだ。カインが獣人達には迷惑をかけたものは食事抜き、酒抜きの罰を与えている為だ。プラス飛行船宙ぶらりんの刑があり恐怖の刑として恐れられている。
初老の領主は近くに町、村に使いを出しベレーヌ軍が食料等を少し高くとも買い取ってくれると伝えていく。
この宣伝が意外な効果を出していく。気前の良い敵軍。レンズ王国軍は食料を国難だと言い金を払わずに持っていくのだ。だがベレーヌ軍は多めに金を払ってくれる。領民にとって支配者が変わっても自分たちの生活が楽になれば受け入れるのだ。
カインは行く先々で金を払っていく。カインは物は買う物だと思っている為、ただ支払っているだけなのだが、受け取る方は違ったようだ。行く先々で歓迎をされていく、きちんとベレーヌ軍兵までが支払いをしている、これはカインが兵たちに金を支払うために渡したものだ。兵たちは驚いたが獣人達が当たり前のことだと言っている。今までとは違うとベレーヌの兵たちも肌で感じているようだ。
カインは不満顔をしている。敵軍が現われないのだ。戦いたいが敵がいない。
「なんで敵がいないんだ。誰か連れてこいよ。」
「カイン様、敵が来ないのはカイン様を恐れてみんな逃げているんです。」
「そ、そうだったのか。なら仕方ないかな。」
カインの部下は優秀だ、カインの扱いを心得ている。アクラーは微妙な顔をしている。
レンズ軍は中央からの進軍に的を絞っていた。本命を中央と看破していたからだ。レンズ軍総勢5万を集結させていた。レンズ王国王都より2日の距離に布陣して中央軍の到着を待っている。防衛拠点として堀を掘り柵を作っている。中央軍は到着まであと数日はかかりそうだ。
数日後
アレクの中央軍が戦場に到着した。
「敵は野戦築城で待ち構えているな。面白い。」
「どうなさいますか。すぐに攻めますか。」
「いいや、今日は兵も疲れている。警戒だけして休ませろ。」
アレクは機人と木人を見張りとして配置していく。夜襲に備えて隠しながら置いていく。
アレクの中央軍は敵に見えるように盛大な宴会をしている。豊富な食料と飲んでいるふりの酒で大盛り上がりをしている。敵兵は毎日、毎日土木作業をさせられ、食事も質素なものだ。士気も落ちている所にこの大宴会だ。たまったものでは無い。
敵将も自軍の士気が落ちていることを分かっている。だからこその夜襲を計画していたのだ。
レンズ軍はベレーヌ王国軍が寝静まった深夜に1000人の兵を引き連れ中央軍に忍び寄る。
さあ、突撃をしようかと号令を出すその時に、突然に土の中から木人兵が現われレンズ軍1000人が倒れていく。
アレクは夜襲隊が見える高台からその様子を眺めていた。
1000人の夜襲部隊は、殆どの者が殺されていた。逃げ帰れたのは100人に満たなかった。
そして翌日、決戦の時が迫っていた。