160話
貴族軍との戦いの場所はローエム帝国と元ルービスとの国境にある平原で行われる。
今回の戦いの指揮官はアレク隊副隊長レビンである。
レビンはガレオン号会議室にて作戦の説明をしていた。
「今回の戦闘にはアレクス様とガレオン号は参戦はしないからみんなもそのつもりでいてくれ。
アレク艦隊は、敵前面にて布陣をする。だが戦闘開始と同時に半包囲隊形に変わるから動きに気をつけてくれ。あっ、空母は後方待機、ワイバーン隊は取りこぼしを一つずつ潰してくれ。空兵隊の1番隊は左側面から攻撃、2番隊は右側面からの攻撃とする。」
「敵が後退した場合はどうすしますか。」
「敵が後退もしくは撤退の場合は、半包囲から全包囲で全滅する。」
「どうして最初から包囲して殲滅しないのですか。」
「それはな、訓練にならないからだ。」
「はぁ。」
「今回の戦闘は実践訓練である。艦隊運用と空兵隊の戦闘を目的としている。敵1万の実践訓練だ、気合を入れろよ。」
「了解しました。」
「それともう一つ艦隊運用で今回は艦を横向きで移動させるぞ。敵に対して船は正面ではなく横向きで敵の前に出るからな、船の操縦が難しくなる。側面の艦は楽だが正面の艦は大変だぞ、正面は中型艦になるから腕の見せ所だな。」
各艦の館長は自信のある顔をしている。
「レビン。」
「はい、アレク様。」
「戦闘前の敵に警告を出せ。一応降伏勧告を出しとけよ。」
「はっ、降伏勧告はどのような内容でもよろしいでしょうか。」
「レビンの好きなようにやっていいよ。」
「はっ。ではみんな今回の実践訓練を行う、各人は位置に着け。」
「「「「「はっ。」」」」
戦闘前。
「我らは貴族連合なる軍勢である。我が軍門に下れ。奴隷にしてやるぞ。ハハハハ。」
「我々はアレク艦隊である、死にたい奴は掛かってこい。降伏するなら今しろ。1分以内だ。それ以降の降伏は認めない。59,58,57・・・・・1,0、アレク艦隊戦闘よーーーい。」
レビンの艦隊運用は見事であった。中型艦は横向きで前進をし、小型艦は高速で側面に移動した。そこで魔力機関弾が炸裂したのだ。今回の攻撃は広域魔法も使わない。個人攻撃を主体としたものだ。機関弾も空兵隊への援護と取りこぼしを狙うのが仕事だ。最初の魔力機関弾以外は援護に徹している。
敵陣に突撃した空兵隊1番隊150と2番隊150は敵1万に対して怯むこともなく、剣を槍を振りぬいていた。敵は恐怖状態になっており戦闘と言える物では無かった。
アレク隊の戦死者は0人であった。対する敵貴族連合の戦死者は9000人以上である。
戦闘後には、生きている者は全員治療された。これも医療班の訓練であった。
生き残りに貴族は含まれていなかった。
アレクは反抗勢力の貴族領に各艦を向かわせ、降伏勧告をさせた。降伏するなら命は取らないと伝えたのだ。
数日後には降伏した貴族の相続人たちがアレクの前に連れてこられたのだ。
「皆さんの当主たちは死にました。」
「あなたたちは降伏で間違いありませんね。」
「そんな、父上が負ける訳が無い。嘘だー。言い直せ。」
「あなたは降伏に来たのではないのですか。」
「俺はただ見に来ただけだ。降伏なんかするかー。」
「パン。」
今喋っていた男は眉間を撃ち抜かれて死んでいた。アレクの魔力弾が男を殺してたのだ。
周りの元貴族達は目を見開き驚いている。まさか一言で殺されるとは思わなかったのだ。
「いいですか、降伏しない者は死んでもらいます。もう一度聞きます。降伏に来たのですか。」
元貴族達は全員が降伏をした。反乱の罪により爵位を剥奪、領地没収であるが財産は残した。生活に困窮すると治安が乱れることが理由だ。元貴族達にはその事は言わない、元貴族達はアレクに感謝をしていたからだ。
「元ルービスの処理は思ったより簡単に終わったね。」
「アレク様だから簡単に終わったんです。普通ではこうはいきません。」
「まぁ、家には艦隊があるからね。あ、そうだ、レイモンドさん。」
「はい、何か御用でしょうか。」
レイモンドの仕草がぎこちない。アレク艦隊の戦闘を目のあたりにしたせいで、ビビってしまったのだ。
「固いよ、レイモンドさん、にっこりと笑わないと。ほら、ほら。」
無理な話である、今のレイモンドに笑う事は出来ないだろう。
アレクはレイモンドをからかっていたのだ。緊張で固くなっているレイモンドがおかしかったのだ。
「まぁいいさ。レイモンドさん。真面目な話だ。今回の貴族に財産を残したのは混乱を避けるためだ。働いたことのない貴族が資産が無くなったら生活が出来ないでしょう。その辺をきちんと監視をお願いしますよ。」
「はい、アレク様。監視をやります。元貴族の動向のご報告は必要ですか。」
「そうだね、元子爵以上の動向だけ報告をお頼むよ。報告はローエム王国のオリオン公爵邸に連絡してね。」
「はいご報告を致します。」
アレクは事後処理をレイモンドに任せた。自身はローエム帝国帝都に向かうのである。
ローエム帝国帝都
「父上、元ルービスの処理は完了しました。」
「アレク。ご苦労だったな。」
「いいえ、それほどでもありませんでした、艦隊のいい訓練になりました。」
ハロルドはアレクの言葉に呆れてしまった。反抗勢力の討伐が訓練。こいつはおかしい、変だ、変わっている。
「まぁ、アレクらしいな。」
アレクの帰還後にはカイン達も戻って来ていたのだ。カイン達も敵が弱く面白くなかったようだ。ハロルドはまだローエム帝国内の一掃が完了していない。アレクとカインにルドルフ達の手伝いを命じていた。
カインは戦闘が出来るならと喜んでいたが、戦闘どころか反抗すらされなかった。
反抗勢力もほとんどが居なくなり平穏が訪れていた。
ローエム帝国宰相は安堵していた。
「これで乗り切ったわ。」
これでローエム帝国は当分は大丈夫。だがカトリーヌはせっかく女当主の継承を認めたのだ、このまま改革を進める事が出来そうだと思っていたのだ。
カトリーヌ宰相はエレメルと相談をしてマリアとイリアに内政と財政の講師を頼んだ。早急に人を育てなければならなくなった。マリアとイリアのスパルタ教育が始まり男も女も関係なく悲鳴と涙を流していたようだ。アレクは物陰から覗いていたのだ。ばれない様に姿を消していた。
一時の平和が訪れていた。オリオン家の人々も家族団欒を各家庭が楽しんでいた。