14話 ルドルフとレオン
ルドルフは、穴を掘っている。
領都の拡張工事に伴い、下水道を造っているのだ。
ルドルフは、最近思うことがある。アレクに魔法を教えてもらい、凄い、凄い、と土魔法をほめられ、頑張って練習をした。
レンガ・穴掘り・整地など、領地開発に必要な魔法を中心に教えてもらった。
以前は、アレクも指導しながら手伝ってくれていたが、最近は全然来ない。
もしかしたら、アレクは自分がやりたくないから、土魔法を勧めていたのではないかと。
ルドルフは頭を振りながら己の考えを振り払う。そんなことは無い。かわいい弟は兄の為に一生懸命、丁寧に教えてくれたのだと。他の魔法も少し使えるようになったし。
だが、心の片隅に疑問が残っている。
この拡張工事、領都として見劣りしないように大きめに計画している。
何度も何度も拡張計画が変更になり、大規模になっていく。
工事は、まだまだ終わらない。拡張工事で働く人々は、ほとんどが出稼ぎ労働者だ。審査はあるが希望者は領民になれる。
仕事が沢山あるオリオン領は、農家の次男・3男にとっては拡張工事後に、農地の販売をする。だからみんな必死だ。
農地も格安にして分割払いで購入出来ると、人が押し寄せている状態が続いている。
領主代行のルドルフは、今は穴掘り職人だが役職が多い。領主代行・拡張工事責任者・内政部部長・穴掘り職人・レンガ職人だ。
ルドルフは、出稼ぎ労働者に人気がある。貴族が自分たちと一緒に働いていると、労働者の士気を上げている。
本人は、毎日が忙しすぎて何も考えていない。必死に仕事をしているだけだ。
「ルドルフ様、領都の先、右の奥に、次回販売する農地ですが、私も申し込みしたいのですができますか」
「出来るが、出来れば次回の次回の次回にしてもらいたい。今、拡張工事に熟れた職人に抜けられると困るから。農地は沢山あるから頼む。農地を少し割引出来るようにしとくから。なっ、な。な。」
「次回の次回の次回ですか・・・・・ほんとですか?それまでに拡張工事、終わるんですか」
ルドルフ、そっぽを向く。口笛を吹いた振りをしている。音は出ていない。
「レオン隊長、喧嘩の仲裁に行ってきました。」
「ご苦労、最近多いな」
「そうなんです。朝からもう喧嘩、窃盗、その他で19件です。」
「交番を建ててからは治安が良くなったのに、人の流入のほうが多いから追いつかないな」
「オリオン領のルールを分かってないやつらが多いから、トラブルが尽きないな」
「小さいトラブルでも、交番があるからすぐ呼ばれますから。人数が足りません。増やしてください。」
「今は、無理だ」
「領内警備隊の人数を増やすどころか、他に数人回すとか言われてるんだ。」
「ほんとうに人手不足なのですね」
「剣が使え、読書きの出来る、平民は少ないからな。訓練所に催促はしてるからもう少し待っていてくれ。」
「貴族様の、次男とか三男は雇わないんですか?」
「雇いたいんだが家はこの前まで、騎士爵で陞爵して男爵になったのが僻まれていて貴族が来ないんだ。」
「何とか、催促して一人でも二人でもお願いします。」
「わかっている」
レオンの指揮する、領内警備隊の仕事は、本当に忙しい。
町の治安維持、街道の警備、入場門の入領検査、等々、現状街道の警備は人数が足りない為、出来ていない。本来であれば街道警備は、街道だけではなく各村の見回りもある。領内の隅から隅まで、行かないといけないのだ。
「レオン隊長、覗きです。」「公衆浴場で、覗きが出ました。」
「手が空いている者はいるか」
「今は皆、手一杯です」
「そうか、俺がいくか」
商店街の公衆浴場には、多くの女性に囲まれた男がいた。
その男、女物の服を着ていて、顔はボコボコだ。
話を聴くと、男は女装をして女風呂に侵入、いつまでたっても着替えないので、不審に思って声を掛けたら男だった。
それから、大騒ぎ。女性陣が男を取り囲み、ボコボコにしたようだ。
レオンが到着し、話を聴いていく。
「レオン様、すごく怖かったです」 「レオン様、私も怖かったです」
「レオン様、まだ手が震えてます。」手に血が付いてるぞ。(謎の声)
「レオン様、助けにきてくれたんですか」犯人を捕まえにきたんだよ。
「レオン様、こんな奴、死刑ですよ、死刑」できません。
「レオン様になら覗かれたいです」覗いたら犯罪。
レオンは、キリッとした顔をしながら、優しい目で女性たちを慰める。
レオンは、モテるのだ。
レオンは、犯人の男に対し、「女風呂に入り、覗きをしたのか?」
犯人は小さい声で「はい」
「覗きの刑罰は重労働10日だが、多くの女性を恐怖させたのは許されない。重労働の前に明日1日、広場の交番前にてこの看板を持って立っていろ。よいな。」
レオンは、看板を男に渡し連行させる。
看板には、私は、女装して女風呂を覗きました。と書かれていた。
レオンは兄弟の中で一番モテる。甘いマスクに、優しい声、モテ仕草。いやぁぁモテモテだ。
レオンは一人一人に声をかけてから、帰っていった。