139話
カインの救援要請の後始末の為に、マリアとイリアがイスパル国に来ていた。
「カインあんた何やってんの。」
「マリアか、仕方ないだろ救援要請があったんだから。」
「カイン、そんな事知りませんよ。サムからすべて聞いていますからね。」
「あのお喋りめ、黙っていれば分からなかったのに。」
「分かるわよ。カインの行動なんて。」
「イリアまで言うのかよー。」
口では文句を言っても助けるのがマリアとイリアなのだ。カインのやったことも実は褒めているのだ。
だが言わない、言うとカインが調子に乗るからだ。
イスパル国は悲惨であった。国民は全て農業に従事させられいた。鉄の農具もなく木のクワで農作業をしていたのだ。イスパル国は国民が反抗出来ない様に農機具さえ与えていなかったのだ。
しかも一日、片手の手のひらに乗る麦だけである。人々はやせ細り気力がなくなっていた。
マリアとイリアは国民たちに食料を配布していき、統治を承諾させていったのだ。その手際の良さは圧巻であった。獣人達もマリアとイリアの指示が出るとキビキビと動き、カインも指示に従い仕事をしていた。
「よくこんな細切れの国を十数個も作ったわよね。要は大きい領地よね。」
「小国群なんて言ってるけどグラムット帝国の紐付きか、反対勢力の弱体化に乗せられたのよ。」
「でもカインの獣王国が誤算だったでしょうね。」
「そうね、カインの性格までは知らないでしょうからね。」
「まさか勢いで建国するなんて誰も思わないわよ。」
「「ふふふっ。」」
マリアとイリアは二人で楽しそうに会話をしている。二人は楽しんでいるのだ、動乱の時代だからマリアとイリアは世に出ることが出来たのだ。平和な時代であれば名もなくローエム王国で静かに暮らしていただろう。
「マリア、そういえばアレクに連絡はしたの。」
「動乱の元は、今忙しいでしょうから何も言ってないわ。」
「そうね、SEオリオン王国は国土は広いから大変だわね。」
「「フフッ」」人の不幸(苦労)は蜜の味のようだ。
イスパル国の広さは、元マニスト国より少し大きいぐらいだろうか、ただ山が多く農耕には不向きな土地である。良くこれで耕作を国の方針としていたのかが不思議である。こればかりはマリアとイリアが答えを見つけようとしたが見つからなかった。イスパル国王は何も考えが無かったのかも知れない。もう聞くことは出来ないのだ。国民の前で公開処刑をされていたのだ。
国民はその光景を眺めていた。そして歓喜に沸き、建国時を思い出したようだ。そして獣王国を疑ってきた。だがマリア、イリアが居たおかげで、その問題も解決したのだった。
カイン達だけであれば混乱の坩堝であったかもしれない。獣人達では説得自体が出来なかったであろう。
マリア、イリアはこの元イスパルにネルソンとマルコスの二人を据えるようにカインに提案したのだ。この二人元イスパルの民で在り、元商人である。イスパルを4つの子爵領に分けたのだ。二人には山地を領地として鉱山開発等を行わせるようだ。農地可能な二つの子爵領は、オリオン王国の家臣で優秀な者が選ばれていた。元平民が子爵になり領地持ちとなった。オリオン王国に行けば貴族になれると、またもや噂が流れる事になってしまったのは皮肉かもしれない。
カインは、宣言をしていた。獣王国に差別はない。獣王国はイスパル王国を吸収合併したことで人口比率が獣人を人間が上回った。獣人6,人間4他少数になっていた。
カインは気にしなかったが獣人達は気にしたのだ。獣人達はまたもや近隣諸国に走る、駆ける。歩かない。近くにいる獣人達を獣王国に勧誘をしたのだ。マリアとイリアは隣国と問題になるとカインに止めるように説得をしたが。走り出した獣人は止まらない。いや止められない。
そんなマリアとイリアがいないオリオン王国は大変であった。
ルドルフが一手に仕事を引き受けていたのだ。もう狂いそうであった。
次から次からくる、決済待ちの書類、書類の山である。家臣たちが部屋の外まで行列をつくって並んでいるのだ。
「ルドルフ様、ハロルド陛下がお呼びです。」
「もうそんな時間か、今日はここまでだ。」
並んでいた家臣たちが落胆する、あともう少しの者ほど落胆している。手前の者など唖然としてしまっている開いた口が塞がらないようだ。
今城の中で一番忙しいのはルドルフであろう。マリア、イリアの仕事もしているのだ。ルドルフは思うマリア、イリアは化物だ。尋常ではない仕事量である。今まで自分の仕事の量が如何に少なかったか理解した。もうあの二人には一生頭が上がらないだろう。二人が居なければオリオン王国は機能停止になるだろう。いくら機人がいようとも的確な指示を出せる者がいなければ宝の持ち腐れなのだ。ルドルフは歩きながら色々と考えている。
もうハロルドの部屋に着いてしまったようだ。
「父上、お呼びですか。」
「ルドルフか、そこに座ってくれ。」
「マリアとイリアが居ませんのでたいして報告はできません。」
「だろうな。あの二人はおかしい。先の先の事を提案してくる。それが見事に的を射ているから不思議だ。」
「私にはわかりますよ、今二人の仕事を手伝っていますから、バケモンですよ。」
ルドルフはハロルドに報告をしていく。紙幣の評判、紙幣流通の増加、紙幣の製造増刷許可等と王国民の情勢を伝えていくのだ。
「ルドルフよ、もっと多くの貴族たちを登用していかんとどうにもならんな。」
「そうです、もう限界です。」
「下手にマリアとイリアが優秀すぎだからな、貴族達では持たんだろうな。」
「ですが平民ばかりだと、交渉時などは都合の悪いことがありますから、多少は愚図でも必要でしょう。」
「愚図は言い過ぎだろう。」
「そうでした。ハハッ。」
「貴族で思い出したが、サウスローエム王国の貴族共が何やらきな臭い動きをしているぞ。」
「よほど王国連合に入ったのが気に入らないのでしょう。サウスの国王は乗り気なのですが、仕方のない奴らです。」
サウスローエム王国はオリオン王国連合に参加した。ローエム帝国との密約もあるが、サウスローエム王国自体が行き詰まっていたのだ。北部の貴族達はプライドが高かった。南部のものを見下していたようだ。それ故、領民等とうまく行かずにもめ事ばかり起こしていた。それをサウスローエム国王が取りなし、調停をしていたのだ。ウェルソン国王は元ローエム王国の第2王子だ。第2王子と取り巻き貴族たちが中心の国である。今のローエム帝国ならばこのような貴族の我儘は無かっただろう。だがサウスローエム王国の建国時では通る話であったのだ。南部に来た貴族は事情に疎い。情勢が変わったことに気づいてもいないのだ。サウスローエム国王も何度も説明をしているようだ。話は理解できても感情が、プライドが追い付いていかない様である。自分たちはローエム帝国の代理であると勘違いをしているのだ。他の者はローエム帝国の属国として接してくるのだ。オリオン王国に対しても同じである。今までは相手にしていなかったが王国連合となり、相手にしない訳にはいかなくなってしまったのだ。
「一度ウェルソン国王と会談をしないといけませんね。」
「そうだな、ルドルフ手配を頼むぞ。」
「はい、早期に会談の段取りを取りましょう。」
オリオン王国に問題のない日は無いのだ。




